ドラゴンスレイヤー19
どうやら先程見えた影がそれらしい。
ひとまず第一関門は突破だ。
「想定通り、アークドラゴンは中央火口丘に陣取っている。各隊は当初の予定通りに待機場所に向かい攻撃開始の合図を待て」
初日の打ち合わせ、そして今日の朝も確認した、アークドラゴンを一斉に攻撃するための配置。当然、俺の参加する場所もある。
「一条了解」
腰からマナブイを一個取り出して設置。それから谷底を前進する。
先程まで地底で熱せられ続けた体を冷ますように、涼しい風が谷の奥から吹きつけて、ドラゴン退治でなければそのまましばし涼んでいきたいと思わせる程に過ごしやすい気候だ。
「ッ!!」
だが、当然そんな呑気な気分はすぐに吹き飛ぶ――その涼しい風が吹く谷の奥から轟いた咆哮によって。
地鳴りのような、というか姿が見えないが故に本当に自然現象ではないかとさえ思える重々しい咆哮。
その主の姿は、それを聞いてすぐに見えてきた。
「あれが……」
谷が途切れ、唐突に左右の崖が開いて、荒涼とした荒れ地が現れる。
典型的なカルデラ。そしてその中央で、このカルデラをしゃぶしゃぶ鍋のような形に成している中央火口丘。
この距離でも分かる、その頂上の火口付近に鎮座する巨大な存在=アークドラゴン。
恐らくまだこちらには気付いていないだろうが、何を思ってか時折あげる咆哮は、その音でぐらぐらと地面が揺れるのではないかと思うような、恐ろしい響きをしていた。
「前方にアークドラゴン発見……」
オペレーター、そしてこれを見ることになるだろう視聴者に向けて発し、それから慎重に斜面を降りていく。
ゴツゴツした岩が辺りに無数に転がる荒れ地は、幸いなことにその見た目通り遮蔽物には苦労しない。
その陰から陰に滑るように移動し、身を隠してから次の遮蔽物を見定める。
「……よし」
行き先が決まれば次に見極めるべきは相手の目だ。
奴はまだ、自分の周りに人間どもが集まってきている事に気付いていない。その恐竜のようなシルエットはどっしりと火口丘に落ち着いて、巨大な翼を畳んでいる。
石から別の石へ。それからまた別の石へ。奴が万が一にも気づかないように、さながら野球の盗塁のように、相手の注意がどこに向いているかから常に目を離さず、細心の注意を払って移動を続ける。
「こちら一条。待機場所に到着しました」
だから、その報告を無線機に告げた時、感じたのは肩の荷が下りたような安堵感だった。
よく見るとあの溶岩の中に陥没していた石造りの建造物のような、石の壁の残骸の後ろに身を隠し、アークドラゴンまで50mほどの距離で待機する。
飛び込んで斬りつけるのには遠いだろうが、あの怪物が動き出せばこの程度の距離に留まるのは遮蔽物が無ければ自殺行為だ。
そして何より、ドラゴンの足を止め、飛行能力を奪う役割の者達に万が一にも味方を巻き込むような心配をさせることがあってはならない。
彼らが確実に初撃を叩き込み、求められた結果を上げることができるかどうかが、この作戦の成否、ひいては俺たちが生還できるか否かを左右する。
「村上隊、待機場所に到着」
「國井隊、待機場所に到着」
その連絡が返ってきたのは、俺の到着から一分も経っていないタイミングだった。
アークドラゴンは未だに反応しない。俺の位置からは畳んだ巨大な翼と、その後ろにある大蛇のような尻尾がよく見える。
一斉攻撃の手はずはこうだ。まず遠距離攻撃手段を持つ者達が一斉にアークドラゴンを襲う。
それによって有効打を与えられればそれでよし。そうでなければ今度は、相手を拘束する能力を持った者達によってアークドラゴンを拘束して飛行を中断させる必要がある。
それらが成功すれば、最後が俺たちの出番だ。即ち動きを止めたアークドラゴンを襲撃し、止めを刺す。
「頼むぞ……」
つまり、まずは最初の攻撃が上手くいかなければならない。
彼らが致命的なダメージを与えてくれればそれだけで、後は止めを刺しに行けばいい。
「國井より各隊へ。予定通り射撃班による攻撃を行い――待て」
不意に、通信が途切れる。
一体何が――その答えは、今まさに撃たれようとしていたアークドラゴンが雄弁に伝えていた。その巨大な咆哮と、目の前で広げた巨大な翼によって。
「発見された!発見された!攻撃開始!!」
最後の最後で予定は狂った。
なら、その分を火力で取り戻すまでだ。
(つづく)
今日も短め
続きは明日に




