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再起動7

 即座に連中の中の弓兵が背中に回していた弓を取り出す。

 その射線を塞ぐようにして他の連中が棍棒を持って進み、或いはその場でギィギィと叫ぶ。


 なら、こちらも黙って見ている訳にはいかない。

 鯉口を切りながら駆け出し、三歩目を踏み込む時には抜刀したそれを肩に担いで突進している。

 股関節、脇の下、首――太い血管の走っている場所に感じるカッとする感覚は、一歩目を踏み出す瞬間には指の末端まで駆け巡っている。

「シッ!」

 マナによる身体強化が行われたことを体で感じながら、弾丸となって連中の前衛に突っ込む。


「ギィッ!!」

 加速して向かってくる敵の頭をカチ割らんとした三匹のゴブリンが、それぞれの棍棒を振り上げ――その瞬間に俺の間合に入った。

「シャァッ!!」

 自分の間合。踏み込むと同時に袈裟懸け。

 正面のゴブリンの体を刀身が斜めに駆け抜ける。

「ギッ!!?」

 何が起きたか分からない――そんな声を上げながら足を止める正面の奴から通り抜けた刃を、その勢いのまま振り上げて右の奴の左袈裟へ。

 手応えの瞬間には左足をやや引いて、最後の一匹が振り下ろす棍棒を躱し、反対に放った袈裟斬りで刃をむき出しの胸部にめり込ませる。

「ギャッ!!」

 その声が断末魔であることは経験が物語っている。

「ギッ、ギィッ!!?」

 瞬く間に三体やられた――その驚愕の声と共に放たれた矢は、崩れ落ちていく味方の背中に突き刺さる。


 残る二体は――戦闘放棄。

 背を向けて小屋の廃墟の向こうへと走り去る。

「ギ、ギィッ!ギィッ!!」

 残された弓兵のゴブリンが逸れに驚いて俺に背を向ける。

 俺を置いていくな――そんな事を叫んでいるのだろうか。


 だが次の瞬間、奴は多分自分の幸運を噛みしめただろう。


「反応増大!徘徊騎士、捉えました」

 オペレーターの声。そして遠くに聞こえる短く濁った悲鳴。

「ギィィッ!!!」

 遅れて味方の後を追おうとした弓兵ゴブリンが足を止めて叫ぶ。

 ふらふらと、泥酔しているような覚束ない足取りで戻って来た逃げ出したゴブリン。

 その背中がばっくりと割れて、見捨てて逃げた同胞の前で、そいつは真っ二つになった。


「おでましか……」

 腰を抜かした弓兵ゴブリンの前に現れたのは180cmを優に超える巨大な甲冑。

 黒いプレートアーマーと、左腕の肘から先を完全に隠している長方形の盾。そして今まさに逃亡者を処したバスタードソード。

 徘徊騎士――その名の通りこの島の各地で目撃されているこのモンスターは、今まさに戦ったゴブリン達とは訳が違う。


「……」

 奴の兜がこちらを向き、それから体と盾が続く。

 姿かたちはまさしく絵にかいたような騎士だが、その黒い鎧の下が人間ではないという事は、兜の奥でネオン看板のように一列に並んで赤い光を放っている目――と思われる部分が証明している。

 こいつには言葉は通じない。

 そして、生半可な攻撃も、また。


「ッ!」

 一瞬の対峙を挟み、奴が突進する。

 郎党――だったのかは分からないがゴブリン敵前逃亡を許さぬだけあって、己も鎧の重量を感じさせない速さで突っ込んでくる。

 一瞬で詰まる間合。その勢いの乗ったシールドバッシュ(盾による打撃)を飛び退いて躱す。


「ッ!!」

 着地する瞬間を狙ったように斬撃が降って来るのを刀身で受け止める。その巨躯から振り下ろされる斬撃の凄まじさは、強化された肉体でも容易に受け流して反撃とはいかせない圧力を持っている。

「ぐっ!!」

 だが、だからと言ってやられっぱなしではない。

 反撃には転じられないとはいえ斬撃を受け流した俺の目に再びのシールドバッシュの兆しが見える。


 ここだ。

「おおっ!」

 叫びながら、突き出さんとしたその出端に盾の表面を蹴りつけると、足の力で僅かに押し返された盾に合わせて、ほんの一瞬だが奴の体勢が崩れた。

「ッ!」

 だが、流石にそれでは終わらない。

 盾を引くのと引き換えに、再び振り下ろされるバスタードソード――だが、万全ではない体勢では出端が読める。


「シャッ!」

 僅かに体を避けつつ、その斬撃を追いかけるようにして奴の剣を撃ち落とす。

 瞬間、動きの止まる甲冑。

「ッ!!!」

 自分がどうなるのか、その瞬間には奴も分かったようだった。

 そしてそれは的中したのだろう。得物を撃ち落とされた奴が反射的に体を僅かに反らし、それに追いついた俺の突き上げが、鎧と兜の隙間に滑り込む。

「……ッ!」

 手応えあり。鎧の股間部分を蹴って刀身を引き抜くとライトグリーンの体液が傷口から噴き出した。

 ガシャン。荒れ地のむき出しの岩と、奴の膝あてが音を立てた。

 続いて全身がもっと大きな音で追いかけた。


「……」

 せめて一太刀――モンスターにその執念があるのかは分からない。

 だが、最後に奴の右腕が、薙ぎ払うようにして横薙ぎに一閃。

「っと!」

 その斬撃を踏みつけて止め、がくりと落ちた首の隙間に再び突きをくれる。

 地面にピン止め。その瞬間、今度こそ奴を仕留めた事を、全身から立ち昇る緑色の煙と、質量がなくなっていく手応えで理解したのだった。


(つづく)

今日はここまで

続きは明日に

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