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ある出戻り配信者の顛末  作者: 九木圭人
ドラゴンスレイヤー
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ドラゴンスレイヤー13

 ジェネレーターの出力が向上するのが体で分かる。

 熱と痛みを発し続けている左腕にじんわりと包み込むようなぬくもりを覚え、それと同時に痛みが引いていく。

 ジェネレーターの持つ回復機能を手動で起動させての治療。その間に動く方の腕で予備のLIFE RECOVERYを取り出して一息に飲み干す。


「……よし」

 空になって濁った音を立てるだけになったその容器をダンプポーチに投げ込んだ時には既に腕の痛みは退いていて、ずるずるに剥けて生焼け肉のようになっていた腕も、溶け出して籠手と癒着していた皮膚も元通り。ジェネレーターの回復機能様様。

「一個使ってしまったが……まあ、仕方ないか」

 LIFE RECOVERYの残数を手で確認。一個ずつ納めていたポーチが三つ。今では残り二つだ。即ち今飲み干した分と合わせてあと三回だけは命を繋げるという事――勿論、即死しない前提で。

 そして風巻の時に思っていたように、最後の一個は戦闘を続行するためのものではなく、脱出のために五体満足にしておくという意味のもの。つまり、戦闘を継続できるのは後二回分。簡単に言えば残機は二機だ。

 正直なところ多いとも少ないとも言えない。言えないがしかし、ある程度は割り切るしかない。死を恐れながら、同時に進まなければならない。


「……よし」

 頭を切り替える。俺は一人だけ。出来るのは前進のみ。

 そもそも論だが、本当に安全第一、人命最優先ならこんなところにいない――再び決意を新たにトンネルの方へと足を向ける。

「オペレーター、今の崩落でマナブイは無事か?」

「一応無事みたいだけど……、反応は微弱になっているわね」

 今度はちゃんと動く両手で一本だけ正確に取り出す。

「了解。念のためここにも設置しておく」

 トンネルの入口に新しいマナブイを差し込む。この場所なら崩落に巻き込まれる心配もないだろう。


「國井より全部隊。國井より全部隊」

 それに対するオペレーターの回答に替わって聞こえてきたのは、國井さんの無線越しの声。

 反射的にそれまで沈黙していた無線機に意識を向ける。

「北部中腹付近の地表にて大型で高速の獣型モンスターと遭遇。こちらとは交戦せず、崩落個所から洞窟内に潜入した。各部隊は不意の遭遇に警戒せよ。なおモンスターの詳細は不明。オーバー」

「村上隊了解。周囲を警戒しつつ前進するオーバー」

「一条了解。こちらも周囲を警戒しつつ進みます。オーバー」

 さて、そうは言ったものの何を警戒すればいいのか。大型で高速の獣型など思いつくものは片手では足りない。


「また中腹部は複数個所で崩落が発生している模様。洞窟内を進行する際はトップアタックに警戒せよ。國井アウト」

 その意味はすぐに理解できた。

 20m程のトンネルを潜り抜けた先に広がっていたもう一つの空間。本来なら背後と同様、地下空間に溶岩が流れていたのだろうその場所には、トンネルを抜けてすぐの広場と、同様に対岸に広がる同じぐらいの広場。そしてその奥に続く、今抜けてきたのと同じようなトンネル。

 そしてその間の広大な溶岩のため池に突っ込んでいる、巨大な樹木と、石造りの建物の残骸。

「なんだ……これは……」

 崩落が発生している――それは分かったし、言葉の意味も理解できたし、大体の状況も想定していた。

 だがそれは精々落盤が起きたとか、地表に穴が開いているぐらいの意味だとする想定だ。

 巨大な樹木が地表=こちらから見れば天井の裂け目から下へ落ちて、その巨大な幹と恐らくその下に毛細血管の如く広がっていただろう根っこを溶岩に沈めて、半分ぐらいまで炭化しながら、先端の枝に至るまで表面を燃燃やされている姿など、どうして想像できるだろうか。


「オペレーター、見ての通りトラブルだ。進行方向に道がない――」

 そう報告している間に、それに対する反証が目の前に展開される。

「ギッ!?」

 あのリザードマンが、恐らく元々は鐘楼かそれに類する何かだったのだろう、折れて横倒しになった石造りの塔らしいものの残骸を橋代わりにして向こうに渡る瞬間を見てしまった。

「……どうやら通れるらしい」

「通れるって……危険では?」

 それはその通り。

 安全に渡れる根拠など、吹き上がって来る水蒸気に耐えながら下を覗き込み、それなりの大きさの建物が落盤によって溶岩の中に落ちている=人一人ぐらいで崩落する可能性は低いぐらいに鐘楼の残骸の下に石の山が築かれているという、建築の素人の見立てだけ。

 精々、体格的には似通っているリザードマンが平気で渡れたこと、そして……。

「ギィィィッ!!!」

「ギィィィッ!!!」

 ここに留まって、トンネル出口の上で待ち伏せていた他のリザードマンに囲まれるよりはまだ安全だろうということぐらいしかない。


「後退は出来ないか……」

 リザードマンたちが今しがた出てきたトンネルの前に立ち塞がる。

「ッ!!」

「「ギィィッ!!!」」

 と、同時に二体左右から迫ってくる――考えている時間はない。

「くっ!」

 反射的にイージスを発動。突入までのほんの一瞬でもなんとか対処法の提案と実行を間に合わせる。

 より距離の近い右側の敵を優先。左足で右足を越えるように体の向きを変えると、右足で迎撃するように踏み込んで抜刀。そのまま抜き打ちに奴の胴を払う。


「ギャッ!!!」

 確かな手応え――それが手を通じて脳に届く瞬間には既に刀を返し、そのまま体も振り返りつつ上段から斬り下ろす。

 突然目の前で上半身と下半身を分けられた仲間。その映像に一瞬だけ戸惑ったのだろう背後から迫って来たリザードマンの、大型のバトルアクスを振りかぶったままの両手を狙った斬撃は、爬虫類のそれと分かる指を、奴の得物の柄と挟み込んで全て切断。

「ギィッ!!!??」

 激痛以外に何が起きたか分からない――バトルアクスをとり落したそいつの動きが止まるその一瞬、横入りするように遅れて飛び掛かって来たもう一体を、即座の向き直りの勢いで逆袈裟に切り上げて仕留める。


「ギッ、ギィィ……」

「ギィィィィッ!!!」

 襲い掛かった三体尽く切り倒されたことで、包囲した連中の動きが止まった。

「ギィィッ――」

 それを対岸で見ていたのだろう先程から逃げ回っている一体が踵を返すのが、遠巻きにこちらを囲むリザードマンたちの間から見えた。

「あっ――」

 そして、逃げようとするそいつの頭上から巨大な影が急降下するのも。


(つづく)

今日はここまで

続きは明日に

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