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ある出戻り配信者の顛末  作者: 九木圭人
ドラゴンスレイヤー
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ドラゴンスレイヤー9

 岩のドームのようになった地下空間、今いる場所の周囲と、そこから奥に伸びている一本道以外は全て透明な水で満たされており、時折鍾乳石から垂れる水滴が波紋を作る以外、その水面は静まり返っている。

「……」

 一瞬足を止め、その映像をしっかりと撮影。あまりにも静かで美しく、出来過ぎなまでの光景だ。

 ホーソッグ島には時折こうした風光明媚な場所は存在するが、ここはその中でも間違いなくベスト5に入る場所だろう。モンスターがいるダンジョンでなければ、本当にこれ目当ての観光客を当て込めるような神秘的な光景だ。


「その先に先行した部隊がいます」

「了解」

 一通りその景色を映してから真ん中の道を渡っていく。今回の動画のサムネイルには今の地底湖のところを使ってもいいかもしれない。

「お待たせしました」

「よし、それではそれぞれに進む」

「了解。無線感明度良好」

 それぞれの装備を再度確認し、改めて枝分かれしているそれぞれのルートへ進む。

 國井さんたちが一番左へ。村上さんの部隊が真ん中。そして残された俺が右だ。

「ここから先は未踏査区域になります。マナブイを設置しながら進んで」

「了解」

 先程と同様に細い入口を入るが、幸い中の通路はそれほどの窮屈さは感じない。天井は刀を振り上げられる程の高さがあり、左右の広さに関してもすれ違うのは厳しくとも、余裕がない訳ではない。


「……明るいな」

 そして何より、洞窟内は入口からここまで一定の明度が維持されていると言うのが一番の驚きだった。

 当然、ダンジョン内に照明がある訳ではない。故に普通なら自然光に頼らざるを得ないはずで、それが期待できない洞窟内という事で照明の類も持ち込んでいたのだが、その必要が全く無さそうなほどの視界だ。

 その呟きを拾ったオペレーターが、俺を通して見ている映像から仮説を導き出す。

「恐らく、周囲の岩壁に繁殖している光輪苔の影響かと思われます」

 言われてよく見ると、確かに岩に薄っすらと張り付いている苔が淡い光を放っているのが分かった。

 光輪苔という名前の通り、不思議な光を放つこの苔もこの世界に独自の植物だ。

 未だに謎が多いが、何しろ発見した例が少ないため研究もあまり進んでいない。少なくとも毒性はないと言われている程度だ。


「……これを見たら、また財団から依頼されるかも」

「かもね」

 俺たちはそんな事を言いながらマナブイを設置する。光が確保されているというだけで随分気持ちは変わるものだ。

 更に奥へ。

 洞窟は緩やかな下り坂になっていて、同じような道が単調にまっすぐ続いている。


「……」

 全く変化のない道。同じ空間がループしているのではないかと思うほどに長い直線。

 思わず振り返ってみるが、坂道という構造上入口は既に見えなくなっており、代わりに見えるのは前にあるのと同じような、不思議な光を放ち続ける道だけ。本当にループしているのではないかという錯覚に陥るが、幸い定期的に設置しているマナブイによってそうではないことを実感している。

「マナブイが無かったら発狂しているな……」

 漏らした声は隠さぬ本音。

 有難い事に、その発狂するような長い通路は唐突に終わりを迎えた――それまでとは段違いのむっとするような熱気に出迎えられて。


「なんだ……」

 長い下り坂の先には先程までより小さな地底湖。

 だが温度と、何より湿気が凄まじい。

「オペレーター、凄い熱気だ。映像は問題なく映っている?」

「ええ。大丈夫。……ガス濃度も異常なし。ただ熱いだけみたいね」

 その理由は分かり切っている。周囲に広がる地底湖だ。

「これじゃ風呂場か、サウナか……」

 先程のそれとは異なる、明らかに熱湯と分かるそれから絶えず湯気が沸き立ち、眼鏡をしていたら完全に視界が奪われるほどに濃い霧となってこの空間を埋め尽くしている。

 その霧がそっくりそのまま纏わりついているような気がするぐらいに、僅かな時間でも汗が噴き出してくる。


「何だってここだけ……」

 言いながら、なんとなく理由は察する。

 温泉が湧く場所に何があるのかなど、大体の想像はつく。

「オペレーター、この辺りは火山帯なのか?」

「まだ調査中のため詳しい事は分かっていないけど、少なくともギルベス山の辺りは火山地帯だと言われているわ」

 まさか溶岩を生で見ることになるとは思わないが、このままこのボイラー室のような空間を歩き続けると思うと流石に気分が沈む。


「……了解。マナブイを設置する」

 摂氏-10度~+50度まで動作が保証されているため大丈夫だとは思うが、それでも機械に優しくない高温多湿だ。

「……壊れたから交換に来いなんてのは勘弁だぞ」

 愚痴に関しては音が拾われなかった。

「……先に進む」

 そのサウナ室の先、一本道で伸びている通路は、当然ながら同じような温度と湿度が延々と続く空間だ。

 正直、日本の夏を知らないでここに立ち入ったら危険と判断して脱出していたかもしれない。ある意味体が暑さに対して馬鹿になっていることで助かっている。


「っと」

 と言っても熱中症は軽視できない。水を持ち込んでいた過去の己を褒め、喉を落ちていく冷たいそれがラジエーターのような効果を発揮してくれないかなどと考えながら先へ。

 今度の道はすぐに終わった。


「……マジかよ」

 そして最悪の光景が目の前に広がっていた。

「……有毒なガスは検知されていませんが、警戒して進んでください」

 ついさっき生で見ることはないと思っていたそれが、今は橋のように対岸に伸びている石の床の下数mのところを、どろどろと流れている。

「ッ!!マジかよ……」

 そしてもう一つの発見。

 そしてその溶岩地帯の対岸の岩壁、張り付いているのは爬虫類のような生物。

 サラマンダー、溶岩がそのままトカゲの形をとったようなその生き物が複数、溶岩焼きみたいに熱せられているであろう岩に張り付いていた。


(つづく)

今日はここまで

続きは明日に

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