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ある出戻り配信者の顛末  作者: 九木圭人
ドラゴンスレイヤー
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ドラゴンスレイヤー7

 つまり、枝分かれした洞窟の中に忍び込んで進むことになる。

 ドラゴンとの対決ではあるが、実際にはダンジョン攻略がメインとなるだろう。


「洞窟は内部で枝分かれしている事は判明していますが、どのルートが最短か、或いは安全かという事はまだよく分かっていません。本来なら十分な下調べの上で攻略するべきでしょうが、残念ながらそうもいかない事情があります」

「その調査……ですか?」

 國井さんが小さく頷く。

「無論それもありますが、問題はアークドラゴンに飛行能力がある事、そしてその行動範囲や生態系がまだよく分かっていない事です。奴が何のためにあの辺りを縄張りにして、生きるために何が必要なのか、それがまだよく分かっていない以上、放置すれば島全体に危険が及ぶ可能性もある」

 アークドラゴンには飛行能力があり、映像で見る限りその高度は決して低いものではない。それはつまり奴にレテ山脈を越える能力がある可能性を示唆している。

 奴がどういう存在で、何故東レテに留まっているのかは不明だが、もし縄張りを移したり拡張しようと考えていたとしたら、危険はホーソッグ島全体に及ぶ。


「そこで我々としては、この洞窟を利用して肉迫、包囲して一斉攻撃を加えることで敵が飛び立つより前に可能なら無力化、それが難しい場合でも飛行能力を喪失させたい。そこで植村企画さんには洞窟攻略の別動隊として、分岐の一つを担当していただきたいのです」

 以上が今回の作戦のあらましだった。

 そして、我々の答えはもう決まっていた。

 ――この情報がもたらされた後で、社長に入った連絡=八島総警に対し、財団がドラゴンの死骸の回収及び可能であればアークドラゴンのそれも回収を考えているという話。

 頭上を飛び越えて取引がされているような気がするが、まあいい。どうせ俺たち、つまり実働部隊が一人だけの零細配信事務所にそんな話を振られても到底不可能なのだ。ならば、そこに一枚噛んで名前を売れるだけよしとしよう。

「もう少し現場に出られる人間が増やせればいいんだが……」

 社長はそんな事を言っていたが、ないものねだりをしても始まらない――納得がいかないのはまあ事実だが。


「洞窟内は未だ十分な調査が行われておらず、マナブイも設置されていません。正直に言って危険の伴う探索となります。それでも大丈夫ですか?」

 尋ねる國井さんの表情には、形式上の確認と書いてあった。

 彼は分かっている。俺たちが受けざるを得ないという事を。

 そして俺が――理屈の上では納得いかない点があるとはいえ――感情の部分では非常に惹かれているという事を。

 未知の洞窟に潜って進み、巨大なドラゴンを退治する。

 この危険そのものをやりたいがあまり、一般社会に馴染めずにいたのだ。なら、今更何を怖気づくことがあろうか。

「勿論、やらせていただきます」

 話はついた。

 お前ならそう言うと思っていた――そんな國井さんの表情は、どことなく嬉しそうだった。


 それからすぐ、俺とオペレーターは一度部屋を辞した國井さんが戻ってきた時に引き連れていた参加メンバーと顔を合わせる事となった。

「この前はどうも」

 軍曹村上こと村上順。あの日風巻を回収して撤退した人物。

 俺と面識があるのは國井さんとこの人だけだ。

「どうも。よろしくお願いします」

 元空挺という経歴は伊達ではないと一目でわかる鋼の肉体。

 互いに挨拶を済ませると國井さんが彼を示して役割を説明してくれる。

「彼が今回、我々の攻略部隊の片方を指揮します。後のメンバーは永谷栄一と礼二。それにエレナ・ゴールドバーグ」

 紹介された彼らと挨拶を交わす。全員あの城攻めにいたメンバーだ。

 つまり、本腰を入れての攻略部隊ということだろう。


 それからもう一つのグループの方へ。こちらには知らない顔が二人。

「こっちが私の指揮する部隊。彼がドクター高野こと高野佐一(たかのさいち)

 彼はその三人の中で唯一俺も知っている人物だった。

 ドクター高野という名で配信をしている、八島の異端児とされた男。

 実際、元々八島の人間ではなく他所からの移籍だと言われている。医師免許はないものの、ドクターという芸名が示す通り医学的知識が豊富で、救急救命士の資格を持っているという配信業界の異端児でもある。

「どうも、よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」

 こちらとも互いに挨拶を交わし、その時にオペレーターと彼が一瞬目を合わせたのに気づいた。


「それからこっちがリー松沢こと松沢翔(まつざわしょう)

「よろしくお願いします。松沢です」

 こっちは知らない人だ。

 年の頃は俺よりも下、もしかしたらまだ未成年かもしれない。

「そしてこっちが竹山レッドこと竹山力(たけやまりき)

「竹山です。よろしくお願いします」

 こっちもまた、先の松沢さんと同じぐらいの年恰好の、面識のない人物だった。

「この二人は大規模な作戦は初めてなので、こちらで面倒を見ることになります。植村さんの方で三つ目のルートをお願いします」


 それぞれの紹介が終わるといくつかの確認を行い、後は具体的なブリーフィングだ。

 と言っても、俺に課せられた任務はそう多くない。

 三つあるルートのうち一つを任され、パスファインダーも兼ねて探索しつつ先へ。ギルベス山に到着後は八島の二部隊と協力してアークドラゴンの地上の逃げ道を塞いで一斉に攻撃。それによって反撃の隙を与えずに対象を無力化する。

 写真で見る限り、ギルベス山のアークドラゴンの住み着いている辺りはカルデラと化していて、陸路での脱出は地形が阻んでいる。


 となれば、あとは奴を飛び立たせなければ逃げることはない。

 如何に必中の距離まで接近し第一撃を叩き込めるか、言い換えればそこまで如何にたどり着くかが今回の肝となるだろう。


(つづく)

投稿遅くなりまして申し訳ございません

今日はここまで

続きは明日に

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