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ある出戻り配信者の顛末  作者: 九木圭人
ドラゴンスレイヤー
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ドラゴンスレイヤー6

 ではこの案件を受けないのか、と言えばそんな事はなかった。

 八島総警という大手も方から持ってきた案件などという経験は中々ない上に、映像が公開されれば当然知名度は更に上がる。

 悪名は無名に勝るというのは、この前の城攻めの一件で経験した。どんな形であっても顔と名前を売るのは必須だ。

 ――更に言えば、結局パスファインダーの動画を未だに公開しないアウロスに対するちょっとした意趣返しの意味もある。


 映像に再度目を落とす。アークドラゴンと命名されたその巨大なドラゴンの襲撃によって壊滅した候補生の中には幸い有馬さんは含まれていないようだった。

 だがそれでも甚大な被害が出ているのは事実だ。アウロスにとってそれがどれほどの痛手になるのかは分からないが、全くと言っていい程ダメージがないという事もあるまい。


 それに対して俺たちが少しでもアークドラゴンの討伐に協力できたとすれば、連中に対して少しばかりでかい面をしてもいいだろう。これ以上の損耗を恐れてか、SNSの公式アカウントを見るに、アウロスは本件に関しては静観する方針のようでもある。


 どの道あのドラゴンが暴れ回っている間は東レテ一帯に接近できないのだから、誰かがやらなければならない。その道を切り開いた誰か=その時には更に知名度は上がっているだろう者が誰なのかを知った時に奴らがどういう風に手の平を返すのかを見るのもまた一興だ。勿論、その掌を雑に振り払うのも、また。


 まあ、そんな俺自身の思惑とは別に自体(事態)は動いていた。

 社長は既に乗り気でいたし、俺もそこに異議はない。アークドラゴンは危険だ。だが危険なのはメガリスを襲撃した時から変わらない。

 ――何より、俺の求めていたダンジョン配信とはつまりこういう事だ。

 道に落ちている木の棒を拾ってちょっと遠くの公園まで冒険する子供――それがそのまま大人になったどうしようもない人間に、ドラゴン退治なんて話を放っておける訳がない。


「(株)植村企画と申します」

 オファーに返答した翌日には、俺とオペレーターは八島総警のオフィスを訪れていた。

 オフィスと言っても、その名の通り八島総警は警備会社で、ダンジョン配信を行っているのはその広報部の一部署に過ぎない。

 故に、通されたのは本社ではなく、まだ移って来て日が浅いと思われる事業所だった。

 ごく普通のオフィスの、会議室のような場所。

 恐らく居抜きなのだろう、一応綺麗にはなっているが建物自体には年季が入っていると分かる。アウロスのそれとは随分雰囲気の違う場所だった。


「お待たせしました」

 俺たちの到着から間もなく会議室に現れたのは、体格はいいがごく普通のサラリーマン風の男と、その後ろから同じくスーツ姿の國井玄信その人だった。

「この度はありがとうございます」

 そう言って先頭のスーツの男から名刺交換。

 受け取ったそれによれば八島総警広報部広報二課課長との肩書。

 どうやらアウロスの配信者はこの広報部広報二課の所属なのだろうという事は、その後改めて挨拶を交わした國井さんからも受け取った名刺で分かった。

 挨拶もそこそこに、それぞれが向かい合って席に着く。長机二つを向かい合わせただけの簡素なそこでご対面。


「では早速ですが、弊社國井の方から、今回の案件についてご説明いたします」

 手元に配られたのはまだ温かい紙の資料が一束。

「では今回のコラボについてご説明いたします。お配りしました資料の一ページ目をご覧ください」

 引き継いだ國井さんが、自らのそれにちらりと目を落としながら話し始める。

「既にご存じかと思いますが、東レテに出現し、アウロスさんに甚大な被害をもたらしているモンスター、アークドラゴンの討伐作戦への協力を依頼いたします。我々の調査によりこのドラゴンは東レテ盆地全体をテリトリーとしており、先日のアウロスさんの一件でも分かるように多くの配信者にとっても大きな障害となっています――」


 そこで資料がめくられる。

「お手元の資料二ページをご覧ください。これが東レテ周辺の地図と、そこにアークドラゴンの行動半径を追加したものになります」

 言われた通りの写真に目を落とす。

 小レテ山脈の東端に位置する山に記号のようにデフォルメ化されたドラゴンの頭がプリントされていて、それを中心にした円が周辺を覆っている。

 そしてその円の範囲内にいくつかの点。

 それに目が行ったところで、國井さんの説明がそこに言及した。


「地図上にいくつかの点があると思いますが、この辺りは地下資源の埋蔵されている可能性が高く、点の場所では更なる調査が予定されています」

 ホーソッグ島にいるのは配信者だけではなく、その豊富な各種の資源を目的として複数の企業が進出している。

 そして八島総警は警備会社だ。当然、そうした企業との契約もあるのだろう。

 彼らがアークドラゴン討伐に積極的な理由が分かって来た。

 ――ついでに、渡された資料にデカデカと「持ち出し厳禁」と記されている理由も。


「配信者にとっても重大な障害であることに加え、この理由からアークドラゴンの速やかな排除が必要となりますが、アークドラゴンはこの……ギルベス山をねぐらとしており、標高の関係から周囲を見下ろす形をとっています。また周囲に生息する複数のドラゴンを従えていると思われる行動も見られ、これらのドラゴンが常に周辺の監視を行っていると思われる事から、地上からの接近は不可能と思われます」

 確かにあの動画でも、アークドラゴンの前に普通のドラゴンが飛来していた。

 と、そこで次のページへ。

 同じような写真。ただし今度はレテ城付近から一本の線がギルベス山方面に向かって伸びている。

 線は東レテ盆地の手前辺りまでは一本だけだが、そこからギルベス山に向かう途中では毛細血管のように枝分かれして、山の麓にそれぞれの先端が達していた。


「そのため、今回はこちらで発見した洞窟内を進み、ギルベス山にいるアークドラゴンを直接急襲。これを無力化しようと考えています」


(つづく)

投稿遅くなりまして申し訳ございません

今日はここまで

続きは明日に

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