ドラゴンスレイヤー4
「なんだ……?」
先頭集団も同様に辺りを見回す。リザードマン以外に見えるものはない。
だが、そのリザードマンたちが散り散りにどこかへ逃げていく。
「何が起き――」
誰かの声が中断される――再びの咆哮と、姿を現したその主によって。
「ッ!!」
それは一瞬の出来事だった。
ウミネコが観光客の持っていた食べ物を狙うように、急降下してきた巨大な何かが、途中まで何かを発していたその誰かを一瞬で咥えて飛び去った。
「うわっ!!?」
「何だ!?」
その周囲で叫び声が上がったのは、その何かが哀れな獲物を咥えて飛び上がった後。
「あれだ!」
「あれは……」
既に誰の武器も届かないぐらいの高さまで舞い上がったその後姿を、私たちはようやく捉えた。
ある意味ではリザードマンによく似ていた。
細長い胴体と、それと同じぐらいの長さのある尻尾。
そして、その全身よりも更に大きいのではないかと思われる二枚一対の翼。
「ドラゴン……」
そう呼ぶしかない代物がひらりと舞って、再び私たちに向かって降下を始めた。
「逃げろ!!」
誰かが叫び、一斉に全員が蜘蛛の子を散らす。
直後、先頭集団のいた辺りを、ガスバーナーみたいな火炎放射が炙っていく。
人間など簡単に消し炭にできそうなそれを吐きつけながら地表すれすれまで降りて、再度上昇するドラゴン――先程捕えられた同期がどうなったのかは考えないようにした。
「このっ――」
その代わりのように、私は再び弓に矢をつがえ、力を込めて光を宿す。
再び上昇を始めるドラゴン。その尻尾に向かって放った矢に意識を集中。トラバンドが補足していた映像通りに、頭の中に送られてくる相手の背後から距離を詰めていく。
「……ッ!!」
尻尾の先端を捉え、その根元に向かって加速。
近くで見ると本当に大きくしたトカゲのような姿だ。
そのトカゲのそれと同じ腹の下に潜り込むべくわざと高度を下げる。直撃させる必要はない。爆発の範囲内にいればダメージを与えることは出来る――他の空を飛ぶモンスターと同じならば。
「えっ!?」
だが、そうはいかなかった。
奴はこちらの接近に気付き、僅かに頭をもたげ――同時に異様な身軽さで視界から消える。
「あっ――」
咄嗟に誘導モードを解除。頭の中に流れてきた情報から実際の視界が優先権を取り戻し、そしてその視界が、ドラゴンが空中で宙返りするようにして私の矢を躱したことを教えていた。
そして直後の火炎放射。狙いは地上ではなく、自分自身を追いかけてきた新たな敵=矢に向けて。
誘導を切ったことでただ直進するだけとなったそれが一瞬にして火炎に包まれ、敵を巻き込むはずだった光の爆発が炎にかき消される。
その直後、地面から発射された投げ槍がその火炎放射に集中したドラゴンの腹を射抜いた。
「この野郎ッ!」
同期の誰かが放った攻撃。
私の矢と同様に光を宿した――というか、光りが銛の形をとったそれがドラゴンの腹に刺さり、そして私がそうしようとしたように強烈な閃光を放って爆ぜる。
その爆発の中から、推力を失ったドラゴンが遠くへと落ちていく。
「やった……」
思わず漏れてきた声が自分のものだと気付くのに一瞬時間を要した。
横取りとか、撮れ高とか、そんな事を気にする様子は周りにもない。
「やったぞ!!」
「すげえ!ドラゴンをやった!!」
一斉に歓声が上がる。
「今のしっかり映ったよな!?」
仕留めた張本人も己の戦果をようやく理解したようだ。
皆一斉に舞い上がっていた。
だから、気付いていなかった。落ちていったドラゴンの上空、明らかに異質なサイズのもう一匹がこちらへと急行してくるのを。
「えっ……」
最初私は、何かの錯覚だと思った。
新しいドラゴンは今仕留められて落ちていくドラゴンと、恐らく直線距離はそこまで変わらない。
なのにそのサイズは、遠近感を狂わせるほどに巨大だった。
全長は恐らくさっきのドラゴンの倍はある。広げられた翼の面積も桁違いで、その巨大な背中にはテニスコートだって作れそうだ。
まるで怪獣映画。その巨大なドラゴンは私たちの発見が遅くなったことを咎めるように咆哮を上げる。
「「「「ッ!!!??」」」」
私含め全員が耳を閉じ、同時に腰を落として踏ん張る姿勢をとった。
それは最早咆哮ではなかった。巨大な地響きと、叩きつけられる衝撃波だった。
そしてその巨大な怪物は、その巨体とは似つかわしくない程の速さで私たちの頭上まで移動してくる。
「な、なんだ……あれは……」
「でかすぎる……」
先頭集団をすっぽり覆うほどの巨大な影。
その瞬間、誰もが釘付けになっていた。
逃げることも、戦うことも、その圧倒的な存在感が頭から弾き飛ばしていた。
――そしてそれが、致命的なタイムロスを産んだ。
「……ッ!!逃げて!!!」
私がハッと我に返って叫んだ時、その声を聞こえた人間がどれだけいたのかは分からない。
それを確かめる方法は、永遠に失われた。
火炎――というより熱線と言った方がいいような凄まじい火炎放射が一瞬で先頭集団を包み込んだのだから。
「ッ!!!!」
そしてそれっきり、巻き込まれた彼らは跡形もなく消えてしまったのだから。
(つづく)
今日はここまで
続きは明日に




