表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/169

落城18

 奴の喉元に切っ先を向ける。

「……ッ!!」

 瞬間、奴の周囲が爆ぜた。

 恐らく奴の能力の応用――そう気づいたのは、反射的に目を覆いながら飛び下がり、無事だった目を立ち込める土煙に向け直した時だった。


 恐らくこれまで奴の体に作用していたのだろう、加速や超人的な身体能力を支えてきたと思しき凄まじい突風が俺を追って来て即座に追い抜いていく。

 それによって晴れた土煙の向こうに、斬りつけたはずの右手に刀を携えた奴の姿――それが、一瞬土煙によって体勢を崩して退いた俺の隙を逃すまいと突撃してくる。

「くっ!」

 俺たちの間の地面がなくなったかのような急加速。

 その加速に乗せた斬撃は単純で大振りだが、それでも油断ならない切れ味だ。


 LIFE RECOVERY――俺も使っているが、配信者の保険とも言える薬品が機能したのだろう、奴の腕からは既に血は流れていない。

 それまでと変わらない奴の斬撃、袈裟懸けからの横薙ぎ、そこからの逆袈裟と全てダメージを気にする様子はない。


「そこっ!」

 その逆袈裟が吹き抜けるのを躱した瞬間、更に踏み込んだ奴の左手が俺を掴むように伸びてくる。

 刀を持った相手に不用意に腕を伸ばす=自殺行為。

「ぐうっ!!?」

 だが無論切られに来た訳ではない。

 奴の腕が伸びきったところ=俺の体と1mも離れていない所から発せられる、体が浮き上がる程の突風。

 風が吹くというよりも大質量を叩きつけられたような衝撃が走り、思わずたたらを踏む。

「しまっ――」

 あと少しで手の届く距離で、刀を持った相手を前にたたらを踏む=手を伸ばす以上の自殺行為。

「しゃああ!!」

 その隙を逃す手はない。奴の右手がほとんど腰だめの姿勢でその切っ先を俺の腹めがけて突き出してくる。


「ちぃっ――」

 その瞬間にその動きが出来たのは、ほとんどただの幸運と言ってよかった。

 回避も防御も間に合わない。反撃など言うまでもない。

 なら、通常ではない方法で躱すしかない。

 そんな思考を辿るまでもなく、俺の体はその場で重力に全てを委ねていた。

「ッ!」

 尻もちを搗くようにその場に崩れ落ちる。

 奴の突きが臍のすぐ前で完全に伸びきり、それが一瞬だけ映った視界もまた、その刀身を見上げるような高さまで落ちる。


「くっ……」

 その勢いのまま後ろに転がるようにして距離をとる。奴が先程やった事の真似――ただし、同じ能力がないためあくまで一撃を躱すだけだが。

「はああっ!!」

 更に飛び込んでくる奴の斬撃を、何とか体を起こして刀身で受け止める。

 上からの振り下ろしと、片足立膝での攻防。


「「……ッ!!」」

 互いの刀身がギリギリとせめぎ合い、同時にどうにかして相手の刃を自分の体に向けさせまいと動く。

 そうして互いに恐れている点こそ、鍔競り合いの恐ろしい点だ。

 人間の体は刃に対してあまりに柔らかい。そして例え傷を負うのが末端であっても、それによって失われる血液の量や、奪われる機能は馬鹿に出来ない。

 極端な話全身が致命傷になり得る状況で、お互いにこれ以上ない程的が大きくなっているのが鍔競り合いだ。

 ほんの僅かにでも形が崩れれば、その瞬間に相手の刃が自分の体に食い込む。


「……ッ!」

 加えて先程の風を叩きつける攻撃。

 アレがある以上、この距離では圧倒的に奴が優位だ。

 それに先に気づいたのは俺だったのだろうが、奴の動きはそれについての対策を思いつくよりは速かった。


「お、お……」

 片手が刀から離れる。

 確実に発動するために左手が俺に向けられる。

「……ッ!!」

 俺に掴ませないようにだろうか、柄から離れた左手は自らの得物よりも後ろに引き下げてこちらに掌を向けている。

 ――どうするべきかを体が決定した、というか思いつくと同時に実行したのは丁度奴が発射する直前だった。


「ッ!!」

 刀身に閃光が走る。

 同時に体を奴の左手に近づけるように持っていく。

 斥力場生成ブレード、その本来の能力を、奴の意識が左手に向かったところで発動する。

「あっ――」

 ほんの僅かなはずの奴の声が妙に耳に残る。

 刀身に生成された斥力場によって、奴の刃が僅かに浮き、そして弾かれる――奴も右手の感触で察するほどに。

 お互いの体の中心線から弾き出される奴の刃――これを確実にするために左手に近づくような形をとった。

 そして一瞬でも互いの攻防が解かれれば、その瞬間に俺の刀身は自由になる。


「ッ!」

 半歩で密着。刀身を互いの体の間に入れるように。

「あ――」

 再び奴の声。自分が負けたのだと理解した瞬間の。

「シッ」

 小さく息を吐きながら、俺は奴の首筋に押し付けた刀身を一思いに引き切った。


「おあっ!?」

 奴が声を上げて飛び下がる。風の塊が俺のすぐ横の地面を叩く。

 攻撃を外した、その事さえ意識から外して咄嗟に首を抑えに行く奴の左手。

 ――この隙もまた、逃がす手はない。

「……ッ!」

 一気に間合いを詰める。それを理解したのだろう奴が刀を構えなおそうとして、それでは最早間に合わないと悟ったのだろう。

「おおおっ!!!」

 半ばヤケクソの咆哮が木霊し、それと同時に放たれる袈裟斬り。


「ッ!」

 それを刀身で受けて払い落とす。

「ぐううっ!」

 恐らく首の傷が動きで開いたのだろう、苦痛に表情を歪めながら後退する奴。

 それでも戦意を失わないのは素晴らしいが、しかしもう限界に達している。

 それを表すような攻撃=胴だか脛だか分からない、太もも辺りに向かって飛んでくる横薙ぎを再び斥力場を生成した刃で撃ち落とす。


「!?」

 斬撃の勢いと斥力場、そして既に全力を発揮できなくなっている奴の体が、撃ち落とされた切っ先を地面に突き刺した。


「ッ!!」

 更に一歩、撃ち落とした刀を前に突き出して。

「……終わりだ」

 踏み込むと同時に、こちらの切っ先が奴の下腹部へ届いた手応えが返って来た。


(つづく)

今日はここまで

続きは明日に

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ