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落城17

 再び対峙したまま、互いに決め手を欠いたまま時間が過ぎる。

 奴の動きは俺より速い。故に、俺から追っても奴を取り逃がす。

 奴の剣は俺より劣る。故に、奴も仕掛けるのに覚悟がいる。

「「……」」

 一勝一敗、しかし時間が経てば経つほどに有利になるのは奴の方だ。

「ッ!」

 奴の苦無が再び飛ぶ。

 これまた刀身で弾き返し、これまでの動きから奴が飛び込んでくるのを見越して身構えるが、今度はそうではない。


「こっちだ」

 奴が走る。いや、走っている。

 恐らく最初の一歩の段階でこちらに苦無を放っていたのだろう。走りながら正確に投擲する能力は特筆に値するだろうが、今目の前で展開されているものに比べればそれさえ見劣りしてしまう。

「なっ……!?」

 奴は雑木林に突っ込む。勢いをつけ、そこに道が見えているかのように。

 当然、そんな事をしても意味はない――普通はそう考える。

 そして一秒と待たずにその考えは覆される――奴が木の上から現れたことで。

 奴は飛んだ。

 いや、飛んでいる、つまり飛行している訳ではない。むしろ浮いたと言った方がいいかもしれない。

 何の誇張でもなく、奴は浮いている。

 木の頂上ぐらいの高さで、何もない場所に立っている。


「行くぜっ!」

 その空中浮遊のまま、再び放られる苦無。角度がつく分先程までより躱しにくく、また多少弾速も向上している。

「くっ!」

 こちらも移動する。ただし当然ながら俺に出来るのは地上を走る事。

「オラどうした!」

 その俺を追いかける奴。足場があるように空を走って。

 勿論ただ追うだけではない。空から正確に俺の頭めがけて投擲が続く。


「ちぃっ!」

 足は速く、かつ高度もとれる。となればこちらに出来ることは、撃ち下ろされる攻撃をひたすらかわし、弾き返すのみ。

「オペレーター!奴が飛んだ!」

「見えているわ。……ちょい待ち」

 一瞬そう言って通信が途切れる。

 その間に奴は空を走り、俺の頭上を横切っていく。

 まるで奴にしか見えない地面があるかのように安定した動き。というより、実際に地面を走る時のフォームでの移動だ。


「ッ!!」

 不意にその勢いの向きが変わる。

 再度の投擲を躱した直後、その俺の頭上に今度は奴自身が落ちてくる。

「くうっ!!」

 再びお互いの刃が触れ合い、今度は俺が弾き飛ばされる。踏み込むまでの加速と落下による位置エネルギー、そして奴自身の重量を全て支えるのは不可能だ。

「そこッ!」

 バランスを崩したところに放たれた苦無を、あえてそのまま倒れ込むことで間一髪躱す。

 そのまま転がって距離をとろうとするが、すぐに考えを変えて立ち上がり構える。どうせ奴の方が足が速く三次元機動も出来るのだ。地面を転がったところで隙を晒すことにしかならない。


「おっと」

 それならば立ち上がって構えた方が却って安全――そう判断した矢先、奴は再び空に逃げる。

 ――その一瞬に聞こえてくる、何かを射出するような鋭い空気の音。

「一条君、聞こえる!?」

 同時にオペレーターからの声が再び繋がった。

「彼は飛んでいる訳じゃない。能力によって空中にワイヤーを張っている。そこを駆けるのは実力だろうけど、どこかにワイヤーの起点があるはず」

 素晴らしい種明かしを貰った。

 恐らく空中にワイヤーを固定して足場を形成しているのだろう。

 もしかしたらその上を走る程のバランス感覚も奴の能力なのかもしれない。


「了解!」

 同時に降って来る苦無。

 あえてそちらに飛び込むようにして突進して躱し、そのまま勢いを殺さず一直線。向かうは奴が先程飛び乗ったポイント。

「……ッ!」

 目を凝らす。意識を前方の、何もない空間に集中する。

「待て!」

 俺の考えを理解した奴の声と、俺が奴の止めようとしたことを実現したのは同時だった。

 何もない空間。目を凝らしてようやく見える、ごく細い一筋の光の線。

 それが奴の空中浮遊の種だということは、オペレーターからもたらされた情報と奴の慌てふためきと、それと同時に放たれた苦無が証明している。


「おっと!」

 振り向きざまに苦無を刀身で受ける。

 そして即座に振り返り、その勢いをそのままに空中に斬撃。

 一瞬、何かが触れた手応えが返ってくる。

「うおっ!?」

 奴が地面を失った=正解だった。


「捕まえた!」

 昔取った杵柄という事か、突然の落下にも関わらず奴が綺麗に受け身をとって着地した瞬間に、その手応えから引き抜くようにして刀を振りかぶって突っ込む。

「わっ――」

 奴が声を上げ、俺の斬撃を受け止める。

 暫くの拮抗。十字に切り結んだ互いの刃がギリギリと押し合う。

「ッ!」

「!?」

 一瞬だけ、俺は力を抜いた。

 奴の刀身が張り合う相手を失って空を切る。それが一瞬の事であるのは、奴が即座に気付いて体勢を整えようとしたから。

 ――だが、ここではその一瞬が致命傷。


「そこだ!」

 力を抜いて手を僅かに引いた、その動きをテイクバックにして奴の右腕に刀を滑り込ませる。

「ッ!!?」

 確かな手応え。そのまま一思いに刀を引く。

「ぐううっ!!!」

 奴の腕から鮮血が吹き上がった。


(つづく)

今日はここまで

続きは明日に

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