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落城15

 風巻風斗についてはいくらか知っている。

 アウロス第六期生のホープ、アイドル路線に向けたとされるアウロスにおいて期待されていはいるが、その立場にいるのは決して容姿だけが理由ではない。

 元パルクール選手の身のこなしにマナによって得られる身体能力を組み合わせて複雑な三次元起動を可能としており、ダンジョン攻略においては通常ではあり得ないルート開拓を行い、戦闘でもその機動力を遺憾なく発揮して巨大なモンスターも翻弄する。


 つまり、決して油断ならない相手だ。


「一条さん……?」

 ソルテさんに呼びかけられる。

 その表情は彼の抱えている不安が形を成したような有様だ。

 俺はちらりともう一度荷馬車の方を見て、そのまま彼に告げる。

「すぐにあちらに合流して、極力距離をとってください」

「えっ、それって……」

「城攻め部隊がこちらに向かっています。ここでその足を止めます」

 イージスは既に切ってある。長時間発動させるのは消耗が大きい。

 だが、再起動が必要になるかもしれない。奴の動画は何度か見たことがあったが、慣れなければ視界から消えることもあり得る。白兵戦の距離において、敵を見失うのは一瞬でも一生と同じだ。


「オペレーター、敵の先頭は?」

「通って来たルートを高速で移動中。間もなくそちらの前に出る」

 敵と呼んだことに一切戸惑いはない――俺も彼女も。

「……了解」

 アウロスの人間と出会い、協力してハイブを突破した。

 その結果アウロス内に顔見知りも出来た。

 だが、それとこれとは別の話だ。


「……」

 周囲を確認する。

 ソルテさんは荷馬車の方に向かっている。雑木林を抜け、ただっ広い平野の片隅にいる荷馬車に。

 そことこの場所=ハーピィたちの死体が転がるちょっとした広場はちょっとした小道一つで繋がっている。

「仕方ないか……」

 三次元機動を得意とする相手と戦うのに高い崖のような岩に囲まれ、谷間となっている場所で戦うのはあまり得策とは言えないが、ここを抜かれれば何も遮蔽物もない所で護衛対象まで一直線だ。


「風巻空斗更に接近……、ッ!彼の映像にあなたが映った!」

 オペレーターの声と俺の視覚は一致した。

 その名が示す通り、つむじ風を巻き起こすような勢いで飛び込んでくる人影が一つ。

「ん……」

 向こうも俺に気付くと、そこで足を止めて正対する。

「人?配信者……?」

 口に出した言葉を自分で信じていないと分かる声の調子。

 自分たち以外の配信者がいるなどと知らなかったのだろう。無理もない。難攻不落のレテ城に攻め込んで、その城を落とした直後なのだ。彼の立場で言えば、今この島にいる人間の中で一番北側にいるのは自分のはずだ。

 だがそれを出迎えた人間がいる。そんなはずはない。


「……あなたは?」

 そしてそこで、では一体どういう人間が城の北側=モンスターが守っていた側にいるのかという部分に辿り着いたのだろうという事は、その警戒心をむき出しにした声が物語っていた。

「こちらは(株)植村企画所属、潜り屋一条」

 怪訝そうにではあるが尋ねられたので答えておく。

 今彼は生放送中だ。そして俺は今回の任務の性質上財団から配信の許可が下りていない――配信者としての営業活動を兼ねての名乗り。別に俺が配信している訳ではない。彼に尋ねられたから名乗り、それが彼の配信に映って全世界に公開されているだけだ。


「……なんでここに?」

「企業秘密につき答えられない」

「さっき爆発があったようだけど?」

「それも答えられない」

 押し問答が続く。

 だが、尋ねながら彼が本当のことを薄っすら分かっているというのは、見ただけで察することが出来た。

「……モンスターと結託している?」

 その薄っすらを確信にするための問い。

 ――いや、そうではない。既に確信している。陣羽織つきの忍者装束のような衣装の懐にそっと手をやったことがそれを物語っている。


 向こうは仕掛ける気だ。

「……答えられない」

 なら、ゴングはこちらから鳴らしてやる。


「ッ!!」

 直後に飛んでくる二本の苦無。

 予想通りのそれを刀身で弾き落すと、乾いた金属音と共に火花が散る。

「あっ――」

 その僅か一瞬で奴は消えた。

 いや、消えたのではない。

「上か!!」

 叫びながら顔を上げる。

 5m以上あった距離を一瞬で飛び越えるように高く跳躍した奴が、今まさにこちらに落下してくる瞬間だった――背負った刀を抜き放ち、その勢いで振り下ろしながら。


(つづく)

投稿遅くなりまして申し訳ございません。

今回は短め

続きは本日19時頃投稿予定です。

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