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落城14

 炸裂した火球が一瞬のうちにハーピィたちを飲み込んでいく。逃げようというその直前の連中の判断をあざ笑うかのように。

「助かりました――」

 振り返った先の光景=膝をつき、杖を支えにしているソルテさん。あの一発がどれぐらいの負担なのか。

 そしてその凄まじいコストを払った攻撃をもってしても、斃せたのは三匹だけ。

 まだまだハーピィたちは空を埋め尽くすほどに飛んでいる。


「くっ……」

 余程俺たちが憎いか、流石に火球の威力を再び思い知らされたことで再び上空に逃れたようだが、それだって攻撃を諦めた訳ではない。

「……」

 もう一度ソルテさんの方に目をやる。

 何とか立ち上がれるほどには回復したようだが、あの様子では三発目を期待するのは無理だろう。少なくとも、この襲撃の間にもう一発とはいくまい。

 ――ハーピィがもしそこに気付いたら?その時はいよいよ終わりだ。


「なら……ッ」

 イージスはまだ敵を捕捉し続けている。

 大量のハーピィたちの軌道は全て、その未来位置の予測と共に俺の頭に常時入り続けている。

 その映像が、連中が火球の威力によって警戒に移ったことを教えている。

 ベルトのポーチに手を伸ばす。襲撃から警戒に移り、安全のために距離をとる=高度を上げている――こちらにとっては絶好のチャンス。

 ポーチから取り出すショックウェーブ弾。取り出すと同時に安全ピンを抜き、即座に振りかぶって真上に向かって投擲。


「伏せて!」

 同時に叫び、手本のように自らも実演。

 ソルテさんがそれに倣ったと音とイージスの映像が教えてくれた、まさにその瞬間に乾いた破裂音が上空に響き渡った。

「ぐっ……」

 同時にやって来る背中への加圧。

 そして大質量の雨が辺りに降り注ぐ。

 イージスはまだ生きている。俺とソルテさんの頭上にそれが落ちてこない事も、今の一撃で十羽以上を巻き込めたことも、それによって今度こそハーピィたちが襲撃を諦めた事も、流れ込んでくる情報が詳細に教えてくれた。


「よし」

 顔を上げた先、果たして先日リックワーム達に使用した時と同様の威力が発揮されたことを、周囲の死屍累々の有様が物語っていた。

 突然叩きつけられた衝撃波によってハーピィたちはその翼を失い、そうでない者も胴体を打ち据える見えない力によって地面にはたき落されている。

 そのうち落としと、それを迎えた硬い地面。これらによって二度殴られたに等しいハーピィたちは、恐らくもう二度と飛び立つことはないだろう。止めを刺された者が大半のようだが、まだ息のある一部も既に戦意を喪失しているのは目に見えている。


「凄い……」

 その光景を見てぼそりと漏れたソルテさんの声が、彼方へ逃げ去っていくハーピィたちのやかましい鳴き声と羽音に混じって聞こえてきた。

「何とかなりましたね……」

 それについては俺も何も言わず、ただ安堵のため息とともにそう答えるだけ。

 自分が凄い訳ではないのだが、あれ程の魔法を放つこの人からそう言われると、なんどかこそばゆいような気がしてしまう。

「とにかく、これでハーピィの危険は去りました。後は――」

 言いかけたところで、先行した荷馬車の方に目をやる。

 こちらが何とかしてハーピィたちを引き付けている間に雑木林を抜けたのだろう、荷馬車は俺をゴブリンの砦の前で待っていたソルテさんのそれと同じ旗を掲げた旅人と合流していた。


 と、それを認めたところで低く独特な管楽器の音色が響いてきた。

「これは……?」

「エルフに伝わる楽器です。仲間が合流出来たようです」

 こちらも安堵を隠さないソルテさんの言葉。

 やり取りをしながら、俺たちもそっちに合流するべく足を向ける。

 ここからでも見える旗の下に、ソルテさんと同じようなフードを被った二人組がいて、荷馬車の周りにいた研究チームがその周りを囲んでいる。

 ここからではやり取りは聞こえてこないが、少なくともお互いに出会いを喜んでいるのは何となく分かった。


「彼等には事前に話をしてあります。メガリスを隠蔽するための魔法力を込めた布を用意してくれたはず」

「メガリスの隠蔽……?」

 その耳慣れぬ言葉にオウム返しにすると、彼はその同胞たちに目を向けながら続けた。

「調査によって分かったのですが、メガリスにはどうやらモンスターを引き寄せてしまう効果があるようなのです。どうもメガリスの発する独特のマナがそれを引き起こしているらしく、今回の移送の際に何とかしてそれを覆う事が出来ないかと試行錯誤したのですが、現地で十分な対策をとるのが難しく、加えて城の攻撃で私たちの村から魔法布を持ってくる時間も確保できず……こうして途中で合流するのが限界となりました」

 どうやら、それが今回の護衛の――更に言えば、今しがたまでハーピィの集団に襲撃されていた理由らしい。

「……成程」

 あのパスファインダーは恐らく今回の城攻めに活用されただろう。

 もしアレが無ければ、攻城作戦は延期され、今回の護衛も発生しなかったかもしれない――自分の行動に今回の仕事を難しくする一端があったように思えて、慌ててそれを頭の中で打ち消す。あのルートを知っているのはアウロスだけで、攻撃を行った八島の連中は知らない=どの道今日のこの時間で城攻めは行われたはずだ。


「……ま、一件落着か」

 そこに辿り着いてそう口の中で結ぶ。

 だがそう口にした瞬間、そんなお気楽な見方など到底できないのだと、オペレーターの切迫した声が教えてくれた。

「そちらに城の攻略部隊の一部が接近中!先頭には例のルートを抜けたアウロスの風巻空斗!」

 どうやら本当に、俺は自分で自分の仕事を際限なく難しくしてしまったらしい。


(つづく)

投稿大変遅くなりまして申し訳ございません

今日はここまで

続きは明日に

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