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落城13

 彼女がその言葉を言い終わるのを待っていたかのように、再び凄まじい音がここまで届く。

「!?」

 今度こそ目を城の方に向けると、濛々と土煙を上げながら城の最上部=キングオークと接見した辺りだろうか――が崩れ去っていくのが見える。

 一体何をしたのか、数名の部隊で正面から突入し、あの城を数分で落としてかつ砂浜の城の如く破壊する。


「……ッ」

 冷たいものが背中を走り抜ける。

 その破壊を成し遂げた張本人たちがこちらに向かってくる可能性はいくらでもある。

「城が……」

「皆急ごう!追手が来るかもしれない!」

 博士が我に返ったような様子で声を上げ、同じ状況にあった研究チームが一斉にハッとする。

 そうだ。その可能性がある。

 そして目下その可能性を上げそうな一番の要因の眼下へ、俺たちは向かっているのだ。


「来ませんね……ハーピィたち」

 それを見上げながら口を開く。

 先程まで手ぐすね引いて待っていただろうハーピィ共も、岩の上や上空からこちらを見下ろしてはいるが手を出しては来ない。

 先程のソルテさんの一撃が効いているのか――そうであってほしい。

「……」

 先導が通過し、荷馬車がその後に続く。

 今度の場所は俺たちが通って来た小道から真っすぐ出口に入ることができる上、開けている場所はそのルートの右手側だけで、左側の雑木林にはハーピィの姿はない。また、その立地条件からして左側から攻撃を仕掛けるのは非常に難しい角度となる。

 つまり、攻撃があるとすれば常に右手側からのそれになる訳だ。

 俺もソルテさんも、その事は気付いている。荷馬車の右手側に立ちはだかるようにして並走し、彼らが無事に通り抜けるのを待っている。


「カァァァァァァ!」

 一匹のハーピィが声を上げた。

 それが何の合図かは分からない。荷馬車は既に出口に差し掛かっている。

「カァァァァァ!!」

「カァァァァァァ!!!」

 他のハーピィたちも口々に声を上げ続ける。

 カラスのそれを思い出す鳴き声が、谷間になっているこの広間に響き渡る。

「あれは何を……」

「分かりません。何もないといいのですが……」

 同じように空を見上げていたソルテさんに尋ねたが、彼もまた不安げな様子でそう答えるだけだった。


 荷馬車に目を向けると、ようやく最後の小道に入ったようだ。あと少しで雑木林を抜け、ソルテさんの仲間が迎えに来るはずだ。

 背後にも目を向ける。ここからでは歩いてきた小道の途中までと、未だ舞い上がった土煙の残滓によって薄っすら茶色の霧に覆われたような城しか見えないが、誰かが近づいてくる様子はない。

「……オペレーター、こっちに接近してくる配信者――」

 言いかけた瞬間、誰かが声を上げた。

「ああっ!!」

 反射的にそちらに目を向ける。

 それまでこちらを遠巻きに見ていたハーピィの群れ。それらがまるで計ったように一斉に飛び立つ。

 巨大な鳥が目の前にいるかのように一斉に響き渡る巨大な羽音。空を埋め尽くさんばかりのそれが一斉に迫ってきたのは――荷馬車ではなくその後ろの俺とソルテさん。


「くっ!」

 再び刀を構える。

 そして――イージスを起動。許可を得ている時間はない。

「ッ!!」

 全32羽のハーピィの群れ。その一羽ずつを電撃が走ったような神経と脳が一瞬で捕捉と脅威判定を実施。即座に迎撃すべき二羽を絞り込むのと、そのうち先頭のものが俺の頭上から急降下を始めるのは同時。


「ちぃぃっ!!」

 前方に向けて飛び込む。直後に落ちてくる二本足。

 その先端にあるスパイクのような鋭い爪を間一髪で躱すと、振り向きざまの横薙ぎを落ちてきたその爪の少し上、腿の辺りに叩き込む。

「ガァァァァァァッッ!!!!!」

 確かな手応えと一層大きな叫び声。

 しかしそれを確認する間もなく、振り返りざまに袈裟懸けに斬りつけつつ飛び下がる。

「ガァァァァッ!!!」

 これまた飛び込んできた相手の顔面を二分割する軌道での斬撃。向こうの方から刀身に飛び込むようにして斬ると、叫び声だけを残して歪な軌道で再び空に逃れていく。


「くっ……」

 だがまだ終わらない。頭には先程までの敵の位置情報と、今の一瞬の交錯の間さえも絶え間なく更新され続けている新たな脅威判定とに従って体が動く。

「ッ!!」

 真横にいるソルテさんの方へ一歩跳び、彼に迫っていた一羽を迎え撃つ。

 攻撃に身構えたソルテさんの前で、彼を狙っていた爪をその根元の足そのものを切り落とす。

「ガッ!!」

 短い悲鳴の直後に奴の軌道が乱れ、俺たちの頭上を通り過ぎたそいつがそのまま雑木林に突っ込んでいく。

 種類は分からないが生い茂った葉がクッションになるだろう。岩の壁に叩きつけられるよりはダメージが小さいはずだ。

 ――つまり、また飛び上がる可能性はある。


「ッ!!」

 だが、今はそれより重要な事がある。

 ソルテさんの前を横切って前方方向から仕掛けようとしていたもう一匹の足を同様に切り落とす。

「ガッ!!!」

 今度も同様に短い悲鳴と共に軌道を乱したそいつが俺の横をそれまでの勢いによって飛び過ぎようとして、別方向から突っこもうとしたもう一羽に突っ込んでいく。

「カァァッ!!」

「ガァッ!」

 空中衝突した二羽が一塊になって転がり、雑木林に突っ込んでいく。

 そこまでやって、まだ三秒程度。

 敵の勢いは衰えない。先に厄介な護衛からやろう――先程の鳴き声はその相談だったのか、辺りを飛び回っている連中は絶え間なくこちらに攻撃を仕掛けている。


 その間も更新され続ける脅威判定。今のところ捌けてはいるが、それが殲滅まで続けられる保証はどこにもない。

「ッ!!」

 そう理解した瞬間、まさしくその例がやって来る。

 判定が下した差し迫った脅威=正面と左右から同時に突っ込んでくる三羽。

「くっ……!」

 なら、危険だがやるしかない。

 動きそうになる体をほんの一瞬、動こうという命令を脳が体に伝える時間をごくわずかにだけ遅れさせる。

 その間に近づいてくる三方向のハーピィ。ほとんど誤差みたいな時間だが、その一瞬が致命的な差だ。


「ッ!!」

 正面のハーピィの真下をくぐるような動き。斜め上から急降下を仕掛けてくるそれに対し、地面に伏せるようにして前に飛び込む。

「ガァァァァ!!」

 突然標的を見失った三羽が、標的の代わりにお互いの姿を見て急減速。再度上昇して攻撃――その判断を下したのだろう。奴らが同時に羽ばたいた。


「!!?」

 その瞬間、浮かび上がった連中の中央に一発の火球が飛び込んでいく。

 ソルテさんの二発目。振り返らずとも分かったそれが、三羽の真ん中で炸裂した。


(つづく)

今日はここまで

続きは明日に

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