落城9
雲が晴れ、一度は止まった守備隊の突撃が再開される。
第二波も止まらず一斉に突っ込んでいく。先程のは何かの間違いだ――そう信じてでもいるのだろうか。
対するスケルトンたちは巨大な機械仕掛けのようにさっと位置を入れ替わる。
今しがたの突撃に対応した兵士がさっと身を翻して後ろに下がり、それと入れ替わるように現れた二列目の兵士たち。
それが何であるのかなど、説明されなくても分かる。
「ッ!!」
一斉に飛び掛かっていく守備隊側のモンスターたち。多分その目の色まで分かるような距離にまで肉薄したのだろう、あと一歩、あと一歩、恐らくそんな風に考えていたのかもしれない。
だが、それよりも前に再びの轟音と辺りを包み込む凄まじい硝煙。
「何が起きている?凄い音がした」
「侵攻側が発砲した!一斉に射撃しているわ!また!!」
二度目と同時に聞こえた一条君の問いに、轟音の中で消えないような声で返す。画面の中では二度目の斉射を受けたモンスターたちが無数に横たわっている。
数で言えばどう小さく見積もっても倍以上あったはずの守備隊側の突撃を、海老沢アリアの戦列歩兵はまたしても一撃で打ち崩してしまった。
「ギッ……」
「ギギ……」
流石にこの短時間で二度繰り返された壊滅は、モンスターたちにも異常として認識されているようだった。第二波に続こうとした第三波は前を行く味方が一瞬で消えたことに、その足を止めてしまった。
初期の鉄砲の役割は現在のそれのように正確に敵を狙い撃つものではなく、数を揃えての弾幕と、その光と音とで敵を威嚇することにあった――本当かどうかは知らないが、昔聞いただか何かで見ただかのそんな話を思い出す。
大軍が、明らかに相手を押し包み圧倒できるだけの大軍が謎の光と音で瞬く間に物言わぬ屍に変わる――その光景への感情は人間だろうがモンスターだろうが関係ない。
第三波は足を止めた。そしてその間にも戦列は動き続ける。射程内で足を止めた相手に即座に三度目の斉射を加えるために。
「また撃つ!」
恐らく聞こえているだろう一条君に告げ、その予告を言い終わるよりも前に第三波が壊滅する。
第四波は――なかった。
破滅的な力を持っている敵の、三度の大規模な殺戮を前にして持ち場を守れる者などいない。
戦線は一瞬で崩壊した。一体のゴブリンが逃げ出す。こちらの塊から一匹、あちらの塊から一匹。
そしてそれが周囲に伝染していく。戦線の一か所であれば一体の逃走で済んだものも、それが全体に同時多発的に起きれば、待っているのは戦線の崩壊だ。
瞬く間に逃げ出す守備隊。それまでの敵に背を向け、武器も放り出して蜘蛛の子を散らすように走り始める。
その彼らの背中に聞こえているのは、再度の突撃ラッパ。
最早大勢は決した。
海老沢アリアを守っていた騎兵たちは、戦列歩兵を飛び越えるような勢いで一斉に敵の背後に迫っていく。
ゴブリンの騎兵が駆っていたそれよりも大きい、現代のサラブレッドに近い馬にまたがったスケルトンの騎兵たち。その右手には馬上で器用に抜刀したサーベルが、朝の光を受けて鈍く光っている。
「ギッ――」
一匹のゴブリンが短い声を上げる。騎兵がそれを瞬時に追い越し、その追い越しざまにゴブリンの首が高く飛ぶ。
それを振り返りもせず騎兵たちが一斉に向かうのは、先程は十分な威力を発揮したトレビュシェット。
既に敵味方入り混じっての乱戦――そう呼ぶには余りに一方的だが――になってしまい、実力を発揮できなくなったそれの周りには、まだ操っていたゴブリン達がまごまごして残っていた。
こんなことになるなんて想定していなかったのだろう、持ち場を離れるべきか、自分の命の為に逃げ出すべきか、それを決めかねている間に彼らの命運は決まってしまった。
「ギッ!ギィッ!!」
騎兵たちは瞬く間に哀れなゴブリン達を囲む。そこで初めて手遅れと気づいたゴブリン達に突進の勢いのままの斬撃襲い掛かり、後悔する暇もないうちにその首が撥ねられる。
一瞬のうちに無人となるトレビュシェット。それを捨てた騎兵たちが向かうのは、逃走した守備隊の先頭集団。
自分の足で、ほうぼうの体で逃げ出すしかないそいつらに馬の脚で肉食獣の如く食らいついていく。
中にはまだ戦う意思を示すものもいないではないのだが、それでも碌な抵抗など出来はしないし、そもそも一度崩壊した戦線で闘志の残っている者などあまりにも希少だ。次々に襲い来る騎兵に抵抗らしい抵抗など出来ず、ただ自ら標的に志願するぐらいの意味しかない。
では、再び敵の方に逃げるべきか――それも当然ながら意味はない。
背後からは歩兵が接近しているのだ。射撃をやめ、着剣したマスケットを構えて蹂躙する戦列が。
「あ……」
ゴブリンも、オークも関係なかった。
背を向けても追いつかれればその背中を貫かれ、正面を向き直っても傷の場所が変わるだけ。
ゴブリンより体格に優れ、スケルトン=人間とほぼ同じ体格のそれらよりも大きなオーク達でも、この状況では最早その優位など存在しない。
まだ得物の手斧を捨てていなかった個体がそれを振り回して抵抗を示すが、一斉に三体の戦列歩兵が飛び込むまでのほんの一秒か二秒だけの抵抗だった。
一人が銃剣を先頭に突っ込んでくるそれと手斧で切り結んだ瞬間、残る二つの銃剣が対応できない彼の胴体を貫く。
「グゴッ……!!?」
その突撃の勢いのまま押し倒されたオークに馬乗りになるようにして最初の戦列歩兵が飛び乗り、地面にピン止めするように再度銃剣を突き立てる。
戦闘とも、追撃とも呼べぬ蹂躙。
余りの光景に一瞬失っていた声を取り戻したのは、一条君からの通信だった。
※ ※ ※
「ようやく先導が揃った!そっちは!」
ようやくやって来た騎兵=守備隊に先駆けてアウロスの侵攻を伝えた斥候が戻って来て笛から槍に持ち替えただけの急場しのぎを迎えてオペレーターに尋ねる。
例えそれでも、出発の条件が整った以上後は一刻も早くこの場所を離れるだけだ。
だからそのために、今どれぐらいの余裕があるのかを確認したい――その考えで尋ねた問いに返って来たオペレーターの声が僅かに震えていたのは、多分聞き間違いではなかった。
「……守備隊は壊滅。侵攻側に損害は確認できず。間もなく城に到着する」
(つづく)
今日はここまで
続きは明日に




