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落城4

 聞き間違いではない。

 メガリス。確かに二人はそう言った。だが休眠状態とは……?

 その疑問は、流石にメガリス発見に興奮するだけはある二人だ。即座に見抜いていたようだ。


「メガリスにはハイブを形成しガードを生み出して自らを守らせるものと、それをしないものが存在します。前者を覚醒メガリス、後者を休眠メガリスと呼んでいます」

 博士のその言葉に続いたのは、ソルテさんの説明。

「エルフの古い遺跡には、メガリスについて描いた壁画がいくつか存在します。このため、我々のルーツにもメガリスは深くかかわっていると考えられていましたが、今までメガリスそのものを入手するチャンスはなかったのです」

 情報があるのは全て覚醒メガリスでしたので、と付け加える。

 覚醒メガリスという事は、つまりハイブの中でガードに守られているという事で、成程調査とはいえおいそれとそこに突っ込んでいく訳にもいくまい。それで死んでしまっては元も子もない。

 ――配信で有名になるためにメガリスを目指していった人間の感想としてはおかしいかもしれないが。


「そのメガリスが城に……」

「はい。今回の戦闘を何とか回避して、島の北にある我々の集落まで運び込み、そこで本格的な研究を開始したいと思います」

 そんな話をしている間に、城はぐんぐん近くなってきていた。

 この前は脇道から見下ろすような形だったが、今度は逆に城の正面に広がる緩やかな斜面の中腹に出る形になっている。

「!」

 そしてその道の出口にも先程の前進基地の後詰なのだろうか、ゴブリン達が集まって大急ぎで柵で囲おうとしている真っ最中だ。


「大丈夫。このネックレスがあれば彼らには警戒されません」

 ソルテさんが確認のように俺に言い、実際彼と博士はゴブリンたちの真横を通過する。

 当のゴブリン達は二人を気にしていないどころか、存在さえ目に入らないような有様だ。

 そして当然、その効果は俺にも変わらずもたらされた。ゴブリン達がわいわい騒ぎながら地面に杭を打っていく脇をすり抜けて、城の正面をゆっくりと登っていく。

「これはエルフに伝わる魔法です」

 その立役者を手の中に包み込んでソルテさんが振り向く。


「魔法、ですか……」

 確かにそうとしか言えないような技術だ。

 多くの配信者を見てきたが、少なくともモンスターに全く悟られないというのは初めて見る。

「エルフは元々数が少なく、他のモンスターたちと比べて戦闘も得意ではありませんでした。しかし、あなた達が使うスキルのようなものを身に着けていましたから、それをこうして活用することで、モンスターたちの中でも活動できるのです」

 どうやら城の中に入れるからと言って、決して友好的な存在ばかりではないということのようだ。

 それどころか、このネックレスの力でゴブリン達を一時的に従えているところを見るに、本来は彼らも俺たちと同様、モンスターたちからすれば招かれざる客なのだろう。


 その招かれざる客たち一行は城に向かって坂を上っていく。

 すれ違うのはせわしなく戦闘の準備に奔走するゴブリンたちや、その中に混じっているオークたち。

 オーク、人間とほとんど変わらない身長の、猪頭の獣人たちは目撃例こそゴブリンたちよりも少ないものの、やはり配信者にとっては敵と同じだ。

 そして現在の反応は、奴らの周囲にいるよりメジャーな存在と同じだった。

 彼らもまた柵の建設に関わったり、野営の準備をしたり、防衛用に設置されたトレビュシェット(投石機)にサッカーボール大の石を運んだりと大忙しだ。


 その隙間を縫うようにして到着したレテ城は、近くで見ると城というより壁と呼んだ方が相応しい姿をしていた。

 石を組み上げて造られた20m近い高さのそれには、普通の建物でいう二階や三階の辺りに無数の覗き穴が設けられ、木製の覆いを内側から押し開けて弓矢や投石で足元への攻撃を可能としており、普段は通行のために開けられているのだろう一階中央の大門は、戦が近い今は隣接する通用口諸共固く閉ざされている。

「今や戦時ですからね」

 そう言いながら先程俺との合流に使った旗を再び広げるソルテさん。

 それを振りかざすのを、城の一番上、屋上とでも言うべき場所から見下ろしていた何者かが認め、一度引っ込むと同じ旗を掲げて戻って来た。

 と、同時に目の前の壁から音。

 よく見ると、二階に設置されている扉が内側から開かれて俺たちを招き入れようとしている。

 その扉の手前、俺たちのいる城の前からそこまで登るのには、取り外し可能な木製の階段を登っていくしかない。

 階段と言うより傾斜のある梯子と言った方が近いような簡素なそれも、いざ戦闘となれば取り外して城内への進入路を全て断つための造りなのだろうというのはすぐに分かった。


「ようこそレテ城へ」

 ソルテさんがそう言って俺たちを迎え、暗がりに慣れた目はここがどういう場所なのかを克明に映し出している。

 石造りの室内は、壁の中に隙間を作ったと思えるほどに狭く殺風景で、今いる場所は石造りの壁に丸太の足場を渡して造った簡素な床であることは足元を見れば分かる。

 そして同じものが二階や三階の覗き窓の前全てに渡っていて、そこには弓兵たちが各々の装備を並べ、明日には現れる侵略者を手ぐすね引いて待っているという状態だった。


「護衛をお願いしたいものはこちらです」

 そう言われて更に城の奥へ。

 入口と一直線に繋がり、故に今は城内の中ほどからバリケードで隔離されている裏口と呼べる場所から外に出ると、そこで初めてそれまでいた場所は「ロ」字型に造られた城の、南側の一部に過ぎなかったという事を知った。

 そしてその「ロ」の真ん中、正面を突破した敵の頭上から奥と左右の三方向からの投石や弓矢の雨を降らせることを目的とした中庭に一台の四輪馬車。


「これは……!?」

 その幌の外された荷台に積まれているのは、紛れもなくあの日見たメガリスそのものだった。


(つづく)

今日はここまで

続きは明日に

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