落城2
会議を終えて、もう一度悩みの種を表示すると、隣で見ていたオペレーターもそれを覗き込んだ。
「それにしても、錚々たる顔ぶれってやつね」
城攻めは業界二位の八島総警が中心となり、そこに最大手のアウロスが協力する形のようだ。
して、その内容。八島側は國井玄信、軍曹村上、永谷雄一&礼二、エレナ・ゴールドバーグ。
元々が警備会社であるという性質上、自衛隊や警察関係者が多数在籍している八島総警だけあって、今回投入されるのは全てそうした関係の出身者だ。
先頭にいる國井というのは八島総警最高戦力と目される人物で、それだけでなく全配信者中最強との呼び声も高い。元SATという経歴に恥じない怪物と呼ぶべき存在だ。
他にも空挺上がりの軍曹村上、同じく自衛隊出身の永谷兄弟と、元海兵隊員のエレナ・ゴールドバーグ。つまり、出せる最強の戦力を揃えてきた。
「で、アウロスの方は……」
アーネスト広田、海老沢アリア、バーバリアン☆吉川etc……最後のetcが誰になるのかは分からないが、他の三人も実力者として知られている者ばかりだ。
アーネスト広田はオランダとのハーフで、西洋甲冑にロングソードという正統派騎士装備での攻略で根強いファンを抱えているアウロス三期生。海老沢アリアはその後輩にあたるが、これも召喚という独特のスキルを使うらしい――らしいというのは、実際にそのフルスペックでの戦闘を見たことがないからだが。
そして三人目のバーバリアン☆吉川。ふざけているような名前に聞こえるが、実力は本物だ。
元プロレスラーで身長2mの巨漢。原始人のようないで立ちでゴブリンの持っているそれをそのまま巨大化したような棍棒を振り回すという極めて単純なスタイルでありながら、学生時代にアマチュアレスリング全国大会出場の身体能力と、全身を瞬時に鋼鉄以上に硬化するマナによるスキルによってオーガさえも殴り殺した、これまた怪人と呼ぶに相応しい人物だ。
「恐らく、あの通路を使うとなれば……」
「etcの誰かでしょうね」
俺たちの間で見解は一致していた。
アウロスがあのルートについて八島に教えているとは思えない。
城攻めは一大イベントだ。この作戦の成否に、今後の国内のあらゆる配信者の行動が左右されると言って過言ではないし、それについてはアウロスも八島も例外ではない。
と同時に、そのための一大決戦で八島にだけ美味しい所を持っていかれるのをアウロスは良しとしないだろう。公開されている攻城戦参加メンバーはいずれも正面切っての戦闘を得意とするタイプだ。
つまり、あの道を使わずレテ城正面の緩やかな斜面をその能力でもって正面突破して城に向かうつもりだろう。その方が遥かに見栄えがいいから。
だが同時に、城の側面から殴り込めるあのルートの存在は無視できまい。
となれば、戦闘よりも探索や隠密行動に長けている誰かがそのetcに含まれると考えるのが自然だ。
――そしてそれは、その何者かと遭遇し、最悪交戦する可能性を意味している。
それが誰か、探ろうとしてやめた。余りに数が多すぎる。
とにかく、俺の仕事は先程通話していた相手を確実にレテ城から脱出させることだ。
そして、当日。
前回と同様のゲートからスタートして、前回と同じルートを移動する。
「周囲に反応なし。今回は安心して進めるわね」
オペレーターの言葉を聞きながら、この前は二人で進んだ森の中の道を一人奥へと進んでいく。
今回は俺一人だ。当然ではあるが、他の配信者の姿も見えない。そもそも、ここがもう未踏査地域ではないことを知っているのは、多分俺たちの他にはアウロスの一部だけだろう。
その秘密の道を進んでいく。打ち合わせでは、途中で迎えが来ているとのことだった。
「間もなくゴブリンの建設現場に……待って」
オペレーターの様子が変わる。
それに合わせて俺も鯉口を切る。安心して進めるのは、あくまで周囲の状況を把握しながら進めると言うだけの話だ。最悪の場合は想定されなければならない。
「建設現場に反応多数。これは……」
言葉通りの状態だと知ったのはすぐだった。
建設現場、いや、既にその言葉は正確ではない。
二重に張られた柵の向こうには、その奥に続く道を隠すような壁がそびえ立つ。丸太を立てて繋いだだけのそれでも、侵入を拒むには十分だ。
その二つの壁の間にある小さな隙間には槍を携えたゴブリンが二体並んでこちらに睨みを聞かせており、壁に出来た銃眼のような小さな穴の向こうにもチラチラと行き来するゴブリン達の姿が見える。
連中は既に砦を完成させていた。
その総兵力は分からないが、少なくとも一人で突破するにはかなりのリスクがある――端的に言って無謀だろう。
さて、どうするか……番兵のゴブリン達に見つからないように身を隠して考える。
打ち合わせでは味方であることを示すために、向こうで緑地に金の刺繍の入った専用の旗を立てると言っていたが、そのようなものはどこにも見えない。
怪しい者ではない、お前らの所にいる人間の護衛に来た――ゴブリン達にそう言って分かってくれるとも思えない。
「お……」
と、その時だった。
番兵のゴブリン二体がさっと門の外に身をかわして直立不動の姿勢をとる。
その向こうからやって来たのは外套を纏った背の高い人物。
その何者かは外の柵の辺りまでやってくると、手に持っていた代物を地面に垂直に立てた。
「!」
彼の身長ほどありそうな竿。
そこに丸められていたものが風に揺れてなびく。
緑地に金の刺繍の旗。間違いなく、俺を迎え入れる印だ。
(つづく)
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