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ある出戻り配信者の顛末  作者: 九木圭人
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「更に反応複数が接近中。数は……二十近い」

 オペレーターから続きの情報。

 それとほぼ同時に、集まっているゴブリン達の奥からお馴染みの棍棒を持ったゴブリン達を先導に、ガラガラと材木や石材を満載した台車が転がされてくる。

 当然、その周りを最初にいた連中と同様の工兵ゴブリンが囲み、先着していた四体と合流するや、ワイワイ言いながら積み荷を降ろし始めている。

 数は二十以上。対するこちらは二人だけ。

 作業している者達も、その周囲で空になった台車を押してもと来た道を帰ろうとしている者達も、こちらには気付いていない。


「……」

 ちらりと有馬さんの方をみると、彼女も俺と同じことを考えていたのか、連中から見えないように慎重に弓に矢をつがえようとしていた。

 やるなら最初の一発だ。連中の中央で爆発させ、それで壊滅させる。

 多少生き残りがいたとしても組織的抵抗が出来ない状態であれば多少の数の差はひっくり返せる。反対に初撃でそこに持っていけなければ、逃げ場もない上に途上とはいえ砦に向かって少数で攻め立てるのは自殺行為だ。


「待ってください」

 そこにそれまで沈黙を守って来た京極さんの声。

「ゴブリン達が何かを企んでいる事が分かった。それだけで十分です。現在位置から左手、山脈側に、上に登って連中を迂回できる小道があります。そちらに進んでください」

 指示された方向に目をやると、確かに木々の隙間を縫うようにして一本の道が――というか、木々の隙間があるように思える。

 道と言ってもほとんど木が避けているだけのスペースといった感じで、その地面はほとんど背の高い草に覆われており、永らく未踏査地区故に人間は無論の事、モンスターたちも通っていないことが伺える。


「……随分詳しいんですね」

 そこから得られる率直な感想をぶつける。

 言外の意味=お前を怪しんでいるというのも汲み取れるように。

 そしてそれはしっかりと相手に伝わっていたようだ。音声に苦笑が混じり、それから声が続く。

「実は以前にも、未踏査地域の調査は行われていました。その時は今ほどの準備もなく、失敗に終わっていますが、その時の資料から地形についてはある程度把握できています」

 あの打ち合わせでは一切出てこなかった情報だ。

 その部分についても当然放っておくつもりはないようだ。

「打ち合わせの際はお伝え出来ず、申し訳ありません。何分見ての通り、我々もモンスターも全く立ち寄らない道ですので。ただ今回は、前進基地の建設という、これまでになかったゴブリンの行動があります。彼らを迂回し、可能な限り未踏査地域の調査をお願いします。その道を進んだ先の洞窟を通過すれば、連中を迂回できます」


 その声の主と、すぐ隣で同じものを聞いている有馬さんに聞こえないように小さくため息を一つ。

 アウロスを信用しないで――オペレーターが前に発したその言葉が頭の中に浮かび上がる。

「……そういう事です。ゴブリン達を迂回して進んで」

 当のオペレーターの頭の中にも同じ言葉がもう一度浮かび上がっているだろうというのは、なんとなく察することが出来た。

「「了解」」

 俺たちは指示に従い、音を立てないよう慎重に小道の方へと移動。

 草木のこすれる音が妙に大きく聞こえたが、その時には既にゴブリン達がワイワイ言いながら作業を初めて、石や材木が工具類と共に盛大な音を立てていたので問題はなかった。


「その辺りには他にモンスターの反応は無し。そのまま警戒しつつ進んで」

 オペレーターの言葉通り、辺りにはモンスターはおろか鳥の鳴き声すらも聞こえてこない程に静まり返っていた。

 その小道の勾配が徐々に強くなり、足元も草に覆われた地面からゴツゴツした石が目立つようになる頃、視線の下に一部の木々が見えるぐらいの高さになっている事に気づいた。

 どうやら道はいつの間にか向きを変え、山の斜面に張り付くようにして山脈に平行に進んでいるらしい。人一人分ぐらいの幅しかないその小道から、眼下にゴブリン達の建設現場が見える。

「足元注意してくださいね」

 振り返らずに後続に伝えつつ、自分も周辺へのそれと同様に警戒を足元に向ける。今や岩肌むき出しの路面は、所々苔のような草が生えていて、足を滑らせればがけ下に真っ逆さまだ。


「その洞窟の辺りまでで今のマナブイの範囲から出ます。次のブイを」

 やがてその道のゴール=ぽっかり山肌に開いた洞窟の入口で、オペレーターの声が聞こえた。

「了解」

 答えながらポーチから取り出したのは次のマナブイ――ではなく小型のフラッシュライト。掌に収まるサイズでありながら、十分な光量を誇り、その出力調整も可能。防水防塵耐衝撃と、配信用にうってつけのライトだ。

 それを正面の洞窟内に向ける。

 中から光に反応したように冷たい風がそよぐ。


「足元は……大丈夫そうだな」

 入口の辺りに異常は見られない。

 そっと踏み込んで、中にブイを設置。例え相手が岩肌であっても合金の先端は問題なく伸びていく。と言っても流石にドリルの様に突き刺さる訳ではなく、溶接する様に岩肌に食いついて形を変えているのだが。

 設置を終えてから再度洞窟内をライトで照らす。

 どうやらそれほど大きい所でもないらしい。天井には十分な高さがあって、奥の方は入り口から少し下がっているようだ。幸い、洞窟内は天井が高く、酸素もある。

「洞窟の奥にモンスターの反応在り。まだこちらには気付いていない」

 その言葉にライトを下に向ける。それでも周囲の環境は分かる。


「……了解」

 そのまま、冷たく湿った洞窟内を、足音を殺して進む。

「滑りそうですね……」

 後ろから有馬さんの声。振り返ると、彼女もライトを持って照らしながら降りてくる。

 ライトが必要なのは入ってすぐの場所だけで、その奥の下り坂で繋がったもう一つの部屋は所々壁の亀裂から外の光が入っていたのは僥倖だった。ライトで足元を照らしながらでは、まともな戦闘は不可能だ。


「止まって」

 そしてその部屋の手前、ライトを消し、部屋の中に目を向けながら後方へ伝える。

 大して広くない部屋の中をふらふら彷徨うように一体のモンスターが歩き回っている。

 人間とほとんど変わらない体格に、取って付けたような足での二足歩行。

 のそのそとしたその動きはなんとなく着ぐるみを想起させるが、生々しく(うごめ)(しわ)だらけの表皮と毒々しい色の頭の笠がそんな可愛らしいイメージをぶち壊してくれる。

 マタンゴ。その巨大な歩くキノコが、次の苗床を探してか洞窟内をうろついていた。


(つづく)

今日はここまで

続きは明日に

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