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ある出戻り配信者の顛末  作者: 九木圭人
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パスファインダー6

 その発言への反応がどういうものだったのか、オペレーター以外には分からない。

 だが、間違いなくそれを予想してはいなかったはずだ。


「はい……。今回のコラボ企画です。先程打ち合わせを行いましたが、配信に使用する未踏査地域はレテ城にほど近く、城に接近する可能性があります。また配信の時期も向こうが決める形となっています。普通に考えれば、コラボ相手の知名度があるうちに企画を打ち出した方が注目を集められるはずですが、配信予定日を明言せず、そのうえ彼らの一存で配信できる形になっています。それにレテ城は島の北側に進出する上での唯一の障害で、島の南側にはほとんど未踏査地域は残されておりません。以上の点から、恐らくですが、彼等は城攻めを画策していて、その足掛かりとして城に接近する方法を探しているのでは?」

 オペレーターが電話の向こうで、恐らく信じられないという顔をしているだろう社長に説明する間、俺は城の周辺状況を記憶から掘り起こしていた。


 レテ城はその名の通りレテ山脈にある唯一の通り道を塞いでいる城で、左右を山脈に、正面を碌に遮蔽物のない平地に面している。

 つまり、この上なく守るに易く攻めるに難い地形だ。その上敵は恐らく島の北側にも存在するだろうモンスター、即ち、城の後方から補給が望めると来ている。

 これまで何度かここを攻略しようとする動きはあったが、それら全てを跳ね返して来たのがこの難攻不落の城という訳だ。

 ――その城で財団職員がどういう活動をしているのかはよく分からないが。


「はい……了解しました。失礼します」

 そこでオペレーターがスマートフォンを仕舞い、俺の方に目を向ける。

「財団側に説明して今後の対応を決めるそうよ」

「俺たちは?」

「とりあえず予定通り、コラボ企画は実行する」

 まあ、仕方がない。

 財団からしてみれば利敵行為だろうが、俺たちだって財団がそこで活動しているなど今初めて知らされたのだし、今更コラボを白紙にする訳にもいかない。

 その辺を財団が理解してくれることを期待するしかない。


「……面倒な話になって来たな」

「社長が上手い事話を付けてくれることを祈りましょう」

 とりあえず道端での話を切り上げて、その会社に戻るために駅へ。

 結局、俺たちに出来るのはそれだけだ。




※   ※   ※




「さて……」

 自分のオフィスのガラス張りから、去っていく彼らを見送る。

 鍵のかかっているデスクを開き、中から取り出したのは連中の知らない資料。

「上手い事踊ってくれればいいが……」

 ノックの音にそれを元の場所に戻す。

「どうぞ」

 入ってきたのは中松だった。

「候補生の様子は」

「少し緊張しているようですが、問題は無さそうです」

 彼の後ろで扉が閉まる。

 それを合図に再度例の資料を取り出す。

 先程のミーティングでは出さなかった極秘の資料。まったく、昨今の空撮ドローンの性能と言うのは目を見張るものがある。城への道筋だけならこれで十分だ。


「予定通りのルートを進みますかね?」

「進むさ。進ませるし、何より……」

 ぱさり、とデスクに放った資料が音を立て、同時に腕時計を覗き込む。

 同時に再度のノック。

「風巻です」

 ドアの向こうで時間通りの来客が名乗る。

 私と中松は一瞬だけ目配せした。

「彼なら、多少ルートを外れても問題ない」


 それから入ってくるように言うと、ドアの向こうから現れたのは手足の長いまだ二十歳をほとんど越えていない若い男。

 風巻空斗=四期生のホープにして私に心酔している男。

「やあ、よく来てくれた」

 彼に先程まであの候補生が座っていた席をすすめ、中松が私のデスクの上にあるのと同じ資料をその前に置く。


「この前話した通り、君にしか出来ない案件なんだけどね――」

 彼は私に心酔している。だが、それだけでは不十分だ。

 勿論、高い倍率を勝ち抜いて四期生の座を手にした時点で見込みはある。だが、私に言わせればそれはスタートラインの一歩手前。彼が本当に私の必要とする人間であるかを見極めなければならない。

 今後の保険として持っておくべき駒なのか、という部分を。




※   ※   ※




 打ち合わせの翌日=コラボ企画撮影当日。

 俺たちはアウロス側の指定したダイブセンターに来ていた。


 あの後、帰社した俺たちを待っていたのはつい今しがた準備を終えたというウェブ会議のセッティングされたノートパソコンと、それを準備していたであろう社長。

 そして画面の向こうにいる犬養博士と知らない数名。

 画面越しの挨拶でその数名が博士率いる研究チームのメンバーと、別の場所にいるらしい、財団のなんだかいう役職の人物であると分かった後は、俺とオペレーターによる「何故城攻めが近いのか」の説明会となった。

 財団の決断=その役職持ちの人物と犬養博士の現場での作業予定の調整が決定され、俺たちはとりあえずコラボについては予定通り進めると決まったのは、既に日も沈んで、室内に差し込む夕日もなくなって久しい時間だった。


 とにかく、コラボ自体は通常通り行われる訳だ。

「おはようございます!」

 いくつもある準備室という名のスペースで装備を整え終わると、ちょうどノックされた。

 開けた先にいた相手=既に装備を整えた有馬さん。

「本日はよろしくお願いします」

「はい、こちらこそよろしくお願いします」

 彼女の装備は前回と同様、白と水色のセーラー服の上からハーネス。

 ――ミーティングの時も思ったが、学校どうしているのだろうか。


 まあ、いいや。

 今考えるべきは今日を無事に終える事だ。彼女の正体も、このコラボの裏で進んでいるであろう城攻めも、それによって財団からの仕事の難易度が上がるかもしれないという事についても、一旦忘れることにしよう。


(つづく)

投稿遅くなりまして申し訳ございません。

今日はここまで

続きは明日に

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