表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ある出戻り配信者の顛末  作者: 九木圭人
パスファインダー
28/169

パスファインダー2

 風巻と別れてすぐ、中松からの報告。

「候補生押さえられました」

 これでまず片方は整った。

 マネージャーもオペレーターもいない候補生には直接会話ができる分、こういう時の交渉は簡単だ。

 その上私の名前を出してくれれば、恐らく拒絶することはないだろう。


「後は例の無名の……」

「そちらにも?」

 一瞬だけそうしようと思ったが、すぐさま考えを変える。大事な相手ほど自分でやる――サラリーマン時代からの鉄則だ。今は同期や上司に奪われる事はなくなったとはいえ、それでも一度ついた習慣は簡単には消えない。

「私が直接やろう」

「了解しました」

 やり取りをしつつ中松が扉を開く。

 キャスト統括マネージャー=今の私の肩書と共に手にしたそのオフィスへ。




※   ※   ※




 打ち合わせのあった翌日、俺は朝からまた会社に呼び出されていた。

 今度の相手はオペレーターではなく、初対面となる初老の男性。

 内容は、メガリス破壊時の俺の体験をその人物に詳細に説明すること。

 配信の映像を確認しながら、実際にその時に起きていたことについて、俺の感想なども交えて――それを教えてくれと言われる時に――説明していく。

 オペレーターが記録していたログ=俺のバイタル等も残っているそれを確認しながら、まるで医者の問診の様に。


「……成程、よく分かりました。今日は忙しい所ありがとうございました」

 一通り話し終わったところで、それまで何かを書き込んでいた手帳を閉じ、その人物は立ち上がった。

「いえ、お役に立てたのでしたら幸いです」

 同時に立ち上がって握手に応じる。

 向かい合っていた机の上にはその小さな手で俺の手を握っている男性の名前と肩書を示した名刺が、前職の新人研修で習った通りの形に置いてある。


 山名財団主任研究員犬養宗拓(いぬかいむねひろ)博士=俺たちの親会社――に当たるはずだ――の偉い人。

 向こうの世界のあれやこれやを研究している財団にとって、メガリス及びガードとの接触・交戦・撃破は極めて興味深い経験なのだそうだ。財団でメガリス関係の研究をしている本人が言うのだから多分間違いない。


「また何かの機会にご協力をお願いすることになるかもしれませんが……」

「私にできる事でしたら、喜んでご協力いたします」

 そう言うと、博士は丸眼鏡の奥で笑った。

 今回の話の中には、垣間見たガードの記憶についても含んでいる――即ち、MCライリーこと白石理人が馬場崎喜一郎殺害の犯人である、というそれも。


 あの戦いの翌日、俺は警察署にそれを伝えに行った。

 自分の立場と、配信の内容。メガリスやガードとの接触で得た情報。それらを担当した捜査官に出来るだけ門外漢にも分かるように説明した。

 その反応が自白マニアのそれを相手にする時のものに近いのだろうというのは、警察相手など初めての俺でもなんとなく察した。

 まあ、無理もない。

 今では配信者は星の数ほどいて、大手事務所には願書の届かない日はないとまで言われているご時世であっても、世間一般や、それを作っているマスメディアでもこんなものは怪しげでチャラついたネット上のお遊びという扱いだ。

 俺の話を聞いている年配の刑事が特別頑固だとか、時代遅れだとかいう話ではない。俺の両親がそうであるように、基本的に俺たちの仕事というのはあまり世間一般からいい目では見られない。


 俺がこの博士への協力に乗り気だったのも、行かなくても良かったと思いながら警察署を後にしたことがあるからかもしれなかった。


 まあとにかく、話は済んだ。

 横でパソコンの操作やバイタルその他の説明を担当していたオペレーターと共に博士を見送ろうとしたところで、ちょうど階段を登ってくる足音が響き、すぐさま扉が開いた。

 その向こうにいた人物と目が合ったオペレーターが最初に頭を下げる。

「あ、社長。お疲れ様です」

「お疲れ様です」

 俺も続く。思えばこの人に会ったのは入社の時以来かもしれない。

「やあ、お疲れ様。博士もいらしていたのですね」

「おお植村君、いや、とてもいい話を聞かせてもらいましたよ」

 社長と博士は知り合いなのか、それから二言三言言葉を交わして、それから博士は引き取った。


「さて、二人とも、ビッグニュースだ」

 言いながら社長はパーティション奥のデスクに向かい、俺たちもそれに続く。

「さっき私の方に連絡があってね」

 そう言いながら、社長は一番窓際のデスクに荷物を置き、興奮気味に自らのスマートフォンを取り出した。

 このオフィスにも固定電話はあるが、どうやら代表番号は社長の個人のものに設定されているようで、ここにかかってくることはほとんどない。

「一条寺君、遂にコラボのお声がかかったぞ」

 そう言った社長の様子は、言われた俺よりも興奮気味だった。


「向こうの提示した条件もいくつかあるが、ようやくいい方向に動き出したと言えるだろう」

 オペレーターがそこで問いを挟む。

「相手はどこなんですか?」

 よくぞ聞いてくれました――社長の表情にそれが浮かぶ。

「この前のお陰かな?アウロスフロンティアだ。有馬さん……だっけ?あの娘とのコラボ企画だよ」


(つづく)

今日はここまで

続きは明日に

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ