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夢の跡20

「終わりか……」

 ぼそりと、思い出したように奴が呟いた。

「残念だ……」

 ことばとはうら腹に、その表情は満ち足りた笑顔だった。

 片方だけしか残っていない目は、しかしその片割れを抉った張本人に対してさえ、にっこりと笑って見せていた。

「だが……楽しい最期だ……これなら……いい……」

 ただそうとだけ言い残して、奴はゆっくりと前のめりに崩れていく。


「……へっ」

 対する俺の口から漏れたのは、その奇妙な音。

「へ、へ……」

 少しだけ笑ったような気がする。

 本当の所は分からない。それを最後に、俺はダガーに続いて意識も手放していた。


「――て!――条君!!返事を――」

 誰かの声。

 暗闇の中で自分を呼んでいる気がする。

 と、同時に何かを口に突っ込まれる感覚。

 それが何なのかは分からない。

 だが何か液体のようなものが、口に突っ込まれた恐らく管状のものから口の中に広がっていくのは知覚出来た。


「一条君!!一条君返事をして!!!」

「!?」

 そこでようやく思い出す。

 微かに聞こえてきた声の主を。

「……オペレーター」

 ぼそりと聞こえてきた音が自分の口から出たものだということと、それが可能になったということはつまり、口に突っ込まれていた何かが引き抜かれたのだということは――そしてついでに、自分は意識を失っていたのだということも――それから少し遅れて理解した。


「目を開けるっすよ!!」

 そしてもう一つ、異なる声が混ざる。

「ぁ……」

 二つの声。それを認識した瞬間、俺の暗闇に薄っすらと光が差した。

 と、同時に体中を痛みが駆け巡る。

「ぐぅっ!!!?」

「起きた!起きたっすね!」

 もう一度意識を失いそうになる程の激痛が、それを認識した瞬間に薄まっていく。

 一度縮こまらせた体から力が抜ける。

 目覚ましになった激痛が退いて、目の前に人間に戻った鷲塚君が覗き込んでいる事と、彼の手に空になったLIFE RECOVERYの容器が握られているのが見えた。


「俺は……」

「一条君!!生きているわね!!?」

 オペレーターの叫び声が耳に届く。

 ちょっと涙声の、メリン島の時以来かもしれない取り乱した声。

「ああ……大丈夫」

「よかった。……本当によかった」

 体を起こす。注入されたばかりのLIFE RECOVERYは早速俺の体から傷と痛みを取り去っている。

「聞こえている」

 そう付け加えてから、鷲塚君の方を見る。

「ありがとう。助かった」

「へへ、これで今度は俺が貸し1っすよ……っと、そっちも」

 そう言うと、彼は踵を返して倒れている有馬さんの方へと向かう。

 蹴り飛ばされたダメージは小さくなさそうだが、幸い命に別状はなさそうだ。


「ぅ……」

 よろよろと、弱々しく立ち上がった彼女は、腹を押さえながら頼りない足取りでこちらに近寄って来る。

「大丈夫っすか!?」

「だ、大丈夫……です……くっ」

 言いながら、自分のLIFE RECOVERYを口へ。

「さっきはありがとう。助かった」

 改めて彼女に礼を言うと、痛みが癒えた彼女もまた、俺に安堵の笑みを向けてくれた。

「よかった……。これで……」

 その目は俺から、倒れているかつての最強配信者へ。

「ああ、これで……」

 応じながら、俺の目はその奥に鎮座しているメガリスへ。

 ガードを失い、今や丸裸のメガリス。

 これさえ破壊すれば、ここから脱出できる。


「終わりにしよう」

「そうですね」

 ガードを踏み越え、メガリスに近づいていく俺たち。

「これ、使ってください」

 その時、有馬さんがそう言って俺に差し出したのは、彼女の持っていた脇差だった。

「すまない」

「いいえ。……終わらせてください。これで全部」

 そう言った時の彼女の目は、メガリスをしっかりと睨みつけていた。

 メガリス=この状況を生み出した元凶。

 このメガリスと、恐らく彼女が恨んでいるのだろうメガリスは別物で、後者は先程破壊したのだが、それは大した問題ではない。

 人間を呑み込み、その弱みや望みに付け込んで利用する――彼女自身の境遇が、もしかしたらメガリスへの感情を生み出しているのかもしれなかった。


「よし……」

 彼女の脇差を受け取り、メガリスに更に近づく。

「ッ!?」

 不意に、メガリスの中から光の触手のようなものが現れ、俺めがけて一直線に飛んできた。


(つづく)

今日は短め

続きは明日に

なお、次回で最終回の予定です。最後まで温かく見守って頂ければ幸いです

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