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夢の跡13

 どうやって――とは聞かなかった。

 何となく想像はつくし、事細かに説明している場合ではない。何より、こちらに手が無い以上彼女を信じるより他にない。


「頼んだ!!」

 だから叫び返したのはそれだけ。

 同時にこちらで出来ることをする。

「イージス起動」

 途端に流れ込んでくる周囲と上空=ヘリポートによって遮られた全ての映像。


 恐らく、そう遠くない未来にこの頭上の守りは破られる。

 足はそれぞれが叩きつけ、そして室外機や配管やそれらを覆っていたフェンスその他を掴み上げて叩きつけ続けている。

 奴からすればモグラたたきと同じだ。俺たちの場所は分かっているのだから、あとはいつか俺たちが出てくるのを待てばいい。単純なモグラたたきと違うのは、隠れている穴を破壊してしまえるということだ。


「奴が出てくるタイミングを計っている!!こちらで引き付ける!!」

 外に出ようとした彼女の背中に叫び、そして先程飛び込んだ方向に踵を返す。

 頭のすぐ上で何かが潰れる音。パラパラと落ちてくる塵が、それまでより明らかに多くなってきている。

 最早限界――それを告げるようなその塵の向こうを見上げ、敵の位置を捕捉。

「よし……」

 深呼吸を一つ。

 見えている。先が読める。ならば問題ない。


「おおおおっ!!!」

 そこからヘリポートの端まで、叫びながら飛び出していく。

 既に崩落したメンテナンス通路を躱して、だいぶ物が減った屋上を駆ける。

 落下防止用フェンスが所々ひしゃげてなくなっているビルの端まで行き、そのフェンスに沿うように全力疾走。

 すぐ後ろに金属の雨と、巨大な質量の叩きつけが追走してくるのは、その凄まじい音と衝撃、何より頭の中に浮かぶ紙一重の光景で振り返らなくとも手に取るようにわかる。


「っと!!」

 急制動で90度向きを変え、再度ビルの内側に向かって走り出す。

 進もうとしていた方向=ビルの縁に人体より巨大な配管が轟音を立てて落下し、破れたフェンスがビルから落ちていくのは、方向転換してすぐだった。

 配管が道を塞いでいる。そして進行方向にはただの瓦礫と化した、ついさっきまでのメンテナンス通路。

 そこに差し掛かって再度90度左折。

「うおっ!!」

 分かってはいたが、その瞬間の威圧感は凄まじい。

 物を使わずに直接叩き潰しに来た、大蛇のような足と対峙するのは。


「ッ!!」

 即座に左に飛び退いて回避。ヘリポートの縁が削り取られ、それを下敷きにした巨大な足が薙ぎ払うようにこちらを追ってくる。

「ちぃっ!!!」

 その動きによって周囲にあった室外機やクーリングタワーのコンクリート製の土台、それらから伸びていた配管、そして屋上の床自体を津波のように吹き上げながら追ってくる巨大な質量。

 追いつかれれば終わり。だが、回避する方法などほぼない――相当度胸試しな方法以外。

「クソがっ!!」

 だが、九死に一生を得るその方法以外に回避方はない。

 ならやるしかない。九死に一生の確率でも、十死零生より上だ。


「おおおおっ!!!」

 叫びながら一直線にビルの縁へ。

 目指すは真正面。フェンスの支柱としてか、或いは別の目的でか立っていた一本の鉄柱。

 もし外れればそのまま外へ落下。普通にしていれば金積まれてもやらない、いかれた三角飛び。

「おあああっ!!!」

 イージスの軌道計算。そしてマナジェネレーターを最大稼働させている事による身体能力の向上。その二つを信仰の領域まで信じてのギャンブル。

 ――そこまで信じても、咆哮を上げて恐怖心を誤魔化す必要はある。


「ッ!!!」

 一段高くなっているコンクリートの土台を蹴って高さを出し、その勢いのまま鉄柱に狙いをつけて跳躍。

 すぐ後ろに迫っている追跡に捕まればそこで終わり。紙一重のタイミングでのジャンプの直後、即座に鉄柱をキックして跳ね返る。

「……っし!!」

 紙一重の回避。

 空中に舞った俺の、そのすぐ下をコンクリートの津波となった奴の横薙ぎが通過する。


「ぐっ!!」

 着地した先は、表面のコンクリートが剥がれた屋上の基礎とでも言うべき部分。

 露出した鉄骨は、後一度でも叩きつけがあれば簡単に抜けてしまいそうな細さだ。

「敵は――」

 飛び越えた相手を振り返る。

 ビルの縁まで振り抜いた横薙ぎが、巻き込んだコンクリートを大量に下に落としていく。

 恐らく一秒ぐらいしか経っていない、三角飛びに使った鉄柱もその中に巻き込まれ、飴細工のように簡単にへし折られて落下していく。


 奴の足が、ちょこまかと逃げた敵=俺を再度追尾して鎌首をもたげ――そして、そこで止まった。


「覚悟!!」

 姿が見えずとも、しっかりと聞こえてきた有馬さんの叫び。

 そしてその声の方から伸びる一つの雷球。

 それが吸い込まれるように飛んでいくのは、猛威を振るった足を操っていた、ヘリポート上空の京極本人。

「なにっ!!!?」

 奴の叫び。

 皮肉な話だ。あれだけ巨大な足をいくつも操りながら、奴自身は自らを狙った矢を躱すことも出来ないとは。


「ッ!!!」

 雷球が奴に着弾する。

 あれ程硬い液体金属、恐らく鏃が刺さった訳ではないだろう。先程足を吹き飛ばした爆発も刺さっている訳ではなく表面とその周囲を爆風で吹き飛ばし、遠心力が傷を広げていっただけだ。

「貴様、何を!!?」

 だが、京極の反応は、そして奴の体に起きた変化は、そんな事は関係ないと雄弁に物語っている。


 そうだ。関係ない。

 あの雷球はマナの濃度や動きを一時的に乱す――初めて俺の前でそれを披露した時に彼女が教えてくれたこと。

 それを彼女のサポート役のような立場で見ていたはずの京極がそのターゲットになるとは、分からないものだ。


「ぐうっ!!貴様、候補生……ッ!!候補生如きが……」

 だが、感心している場合ではない。俺を追っていた足は、その影響で動きを止めて、ぐったりと動かないまま横たわっているのだ――京極本人に繋がっているそれが。

 なら、やることは一つしかない。


「よっ……と!」

 力を失った液体金属。

 コンクリートをめくり上げていた辺りからも想像できたが、その外見とは裏腹に刃を弾き返す程のそれは、土の上と同様しっかりと上に乗る俺を支えてくれている。

「おおおおっ!!」

 ならば、もう京極まで=このハイブのガードまで足を止めるものはない。

「なっ――」

 奴が俺に気付く。自らに向かって一直線に突っ込んでくる俺に。


「や、やめろ――」

 奴は何をしようとしたのだろう。回避か?或いは防御か?迎撃か?

 そのどれも、力を失っている奴には出来ない相談。

「おあああっ!!」

 叫びながら、奴めがけて大上段に振り上げた得物を振り下ろす。

 強固な液体金属とは全く異なる、抵抗のほとんどない手応えが、しっかりと伝わって来た。


(つづく)

今日はここまで

続きは明日に

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