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メガリス8

 時間にして一秒かそこらだっただろうが、俺が口を開くまで随分かかったような気がした。

「あ、えっと……」

 彼女は謝っているが、実際は命の恩人である。

「いや、助かりました。ありがとうございます」

「え?」

「配信者ですが、生ではないので。むしろ――」

 驚いている様子の彼女に今しがたその本人が吹き飛ばした巨木の残骸を示しながら続ける。

「こいつをどうしようかと思っていたところだったので、助かった」


 そこまで言うと、どうやら彼女も状況を飲み込めたらしい。

「そうですか……よかった」

 そう言ってほっと胸をなでおろした様子の彼女と少しだけ笑いあう。

 そんな俺たちを彼女のトラバンドがじっと見つめている。

 多機能追従型デバイス。撮影機能を持つこれが使用できるという事は、彼女は第三世代強化人間だろう。

 第三者視点での動画撮影を可能とするトラバンドの普及=第三世代型強化人間の普及によってアウロスなどがそうであるように配信者が人気になるには見てくれも必要になったと言われているが、その意味で彼女は第三世代の恩恵を受けられる側だと思われる、可愛らしい笑顔だった。


「それじゃあ、私はこれで」

「はい。ありがとうございま――」

 言いかけたところで、オペレーターの緊迫した声が耳に飛び込んでくる。

「聞こえる!?高エネルギー反応を検知!!先程までより大きい!」

 ただのモンスターの出現と言った様子ではない。

「何が――」

「マナ濃度急速に上昇!これは……メガリス!メガリスが近くにある!警戒して!!」

「メガリス!!?」

「えっ、どうしました?」

 怪訝そうに俺の方を振り返る少女。

 何とかして状況を伝えなければ――そう思ってそちらに目を向けた瞬間、先程の閃光よりも更に強い光が辺りを包み込んだ。


「「……!?」」

 視界が再び光に満たされる。

 互いの姿も、反射的にかざした己の手さえも見えない程の強烈な光の中で僅かに耳に届いたジェットエンジンのような甲高い音。

「……!」

「――か?……聞こえ……」

 その音が途切れ、耳鳴りのような残響の中に誰かの声。

「聞こえますか!?応答を!!」

 それがオペレーターからの必死の呼びかけだと気付いた時には、光りに包まれてからどれぐらい時間が経っていたのだろうか。


「こちらは大丈夫。ここは……」

 答えながら辺りに目をやる。

 それまで存在していた森も、ねじ切られた木々も、ねじ切った巨木の残骸も、石で出来たドームも、そこには存在しない。

 その代わりに広がっているのは全く見覚えのない、しかし俺たちの世界に戻って来たのではないかと思うような光景だった。


「ここは……」

 一緒に飛ばされてきた少女が辺りを見回している。

 その表情には戸惑いがありありと浮かんでいて、自分の見ているのが夢ではないのかと疑っている様子だ。

 無理もない。先程までいたはずの森は完全に消え去って、、鉄筋コンクリート製と思われるビルやアパートに変わり、それらの中を奥へと続いている舗装道路に俺たちは立っていたのだから。

 その様子を尻目にとりあえずオペレーターに返答。


「こちらは無事だ……、遭遇した別の配信者も」

 その答えは安堵のため息を最初に入れてから返って来た。

「了解。こちらのマナ濃度はメガリス出現を示しています。恐らくそこは既にハイブ内のはず。何があってもおかしくありません。警戒を」

 ハイブはメガリスと呼ばれるこの世界の不思議な石塔が生み出し、その石塔を収納している小規模なダンジョンだ。

 ここに入り込んでしまった以上、脱出にはそのメガリスを破壊するしかない。

 つまり、街並みに見えるがここは既にダンジョンなのだ。


「了解。メガリスを探し出して脱出する」

 オペレーターにそう言ってもう一度少女の方を見ると、どうやら彼女は俺とオペレーターの会話に気付いていたらしい。

「えっと、オペレーターの方ですか……?」

「え、ああ。どうやらメガリスのハイブに入ったらしいですね……あ、ちょっと」

 再びオペレーターからの呼び出しに説明を中断。


「回線をオンにします」

 それだけ言うと、すぐに秘匿回線から公開チャンネルに切り替わるのが分かった。

 流石に視聴者には聞こえないはずなので全世界に公開という事にはならないだろうが、ここから先は俺だけでなく目の前の彼女にも同じ通話が聞こえると言う事だ。

「そちらの配信者の方、聞こえますか?」

 それから呼びかけたのは、目の前の少女に対してだ。

「こちらは(株)植村企画、オペレーターの宍戸と申します」

 反射的にこちらも頭を下げる――サラリーマン時代の習い性と言ったところか。

「同じく(株)植村企画の一条寺直重です」

「あ、えっと、アウロスフロンティア第八期候補生、有馬玄(ありまはるか)です」

 候補生という肩書がついてはいるが、あの業界最大手の所属だ。

 ともあれ、互いの正体が分かったところで、改めてオペレーターが持ち掛ける。


「さて、現在私たち……というかあなた達はメガリスのハイブ内に取り込まれた状態です。そして脱出にはメガリスを破壊する必要がある。ここまではいいですか?」

「はい」

 相手も理解しているようだ。

 彼女のキャリアは不明だが、俺がソロ一年目の時はまだメガリスがどうの言われても分かっていなかった気がする。やはり大手となるとその辺の教育もしっかりしているのか、大手のお眼鏡にかなうような者は取り組む姿勢が違うのか。

 まあ、とにかく、状況を理解してくれているのなら話が早い。


 それはオペレーターも同じ考えだったのだろう、単刀直入に切り出した。

「そこで、どうでしょう。脱出までの間私が得られた情報をそちらに提供します。一時協力と行きませんか?」


(つづく)

今日はここまで

続きは明日に

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