夢の跡11
「私は……、私は証明する!私が成し遂げられる人間だと!私が……私の立場に相応しいと!!」
奴は叫ぶ。
「!?」
それに呼応するように、奴の周囲に流れ出ていた液体金属が一斉に再結集していく。
「いや……」
「これは!?」
それだけではない。メガリスから放たれた光が、その液体金属を照らし、発光させ――そして増幅している。
「なんて量だ……」
それまで奴の体を覆う程度だった液体金属は、その大増量の感想が口から洩れるまでの間に奴と一体化し、手足の代わりにその体を支えるまでになった。
そしてその外骨格のようなそれが、恐るべきスピードで更に延長していく。
無から生まれているとしか説明がつかない、凄まじいまでの巨大化。
メガリスからの光がどういうものだったのかは分からないが、目の前で起きているこの屋上全体を包み込むほどの巨大化がインテリジェント・ワンの科学力の賜物だとするなら、成程連中のお遊びを止められる世界が存在しなかったのも頷ける。
「大きい……」
俺と同じように見上げながら、有馬さんが呟いた。
巨大な蜘蛛、或いは蠍だろうか。
京極は今や支柱と呼んだ方がいいような太さの液体金属でできた無数の足を使って全身を支えている――いや、それだけではない。
ビルをぐるりと囲むようにその巨大な足のうち何本かを巡らせ、恐らく俺たちの位置からは見えないのだろう場所からその先端をUターンさせて、大蛇が鎌首をもたげるようにこの屋上をぐるりと囲んでいる。
「ハ、ハ、ハ……」
奴が笑う。奴からはダニかノミのように見えているだろう俺たちを見下ろしながら。
そして、その高みから発せられた死刑宣告。
「終わりにしてやる!!」
「「ッ!!」」
同時に降り下ろされる一本の足。
蹴りと言うべきか叩きつけと言うべきか分からないそれがヘリポートの真ん中に叩きつけられ、間一髪飛び退いて難を逃れた俺たちを分断した。
「クソッ!」
反射的に斬りつけようとするが、その巨体に見合わず素早い動きで足が振り上げられる。
「後ろ!!」
オペレーターの声。
咄嗟に振り向いた先に、前方にあった足と同じ動きで叩きつけに来るもう一本の足。
「ちぃっ!!!」
こちらを狙って振り下ろされたそれを一直線に走ってギリギリ回避。耳がおかしくなりそうな程の衝突音を発して叩きつけられたそれを、今度こそ振り向いて斬りつける。
「くっ!」
だが、最大の斥力場を生成した刃さえも入って行かない。見た目は液体のようだが斥力によって切り裂くそのとっかかりとなる最初の傷がつかない程の硬さだ。
「舐めるな!!」
奴の足が持ち上げられ、続いて別の足――ただし今度は叩きつけではない。
「ッ!!!」
大きくテイクバックする別の足。
最早完全に触手と同じ動きでその先端をぐるりと丸めると、元に戻る勢いを使ってこちらに迫って来る。
薙ぎ払い。ヘリポート全体をカバーする巨大なリーチでの。
つまり、回避手段はない。
「させない!!」
だが、万事休すではなかった。
薙ぎ払いが始まった瞬間、一本の矢がその足に飛び込んでいく――その射手の叫びと共に。
「ぐぅっ!」
命中。そして爆発と――足の切断。爆発による傷が、それでも止まらず振り抜いた薙ぎ払いの加速による遠心力で直径分まで開き切った。
「貴様ッ!!候補生が!!!!」
遺された足が憎しみを込めた絶叫と共に引き戻され、代わりに放たれるもう一つの足。
だが、即座に放たれた二の矢が再び足をちぎり飛ばす。
「……京極さん」
三本目の矢が向けられたのは、足ではなく、それらによって支えられた奴本人。
「まだだ……まだだぁっ!!!」
呼びかけへの返事はその絶叫。
「ッ!」
そして、金属がひしゃげる耳障りな音。
残っている足が、クーリングタワーを無理矢理引きちぎって持ち上げた瞬間だった。
「邪魔をするなっ!!!」
叫び声と共に、金属塊と化したクーリングタワーが飛んでくる。
「飛び降りろ!!」
咄嗟に叫び、自らも実践する。
ヘリポートから飛び降りて、メンテナンス用通路へ着地。同時に響く凄まじい轟音。
「オペレーター!」
「二人とも無事ね!?すぐに移動して!攻撃はまだ来る!!」
その言葉と同時に、目の前を大蛇のような足が通過する。
その先端には、人間の身長位ありそうなエアコンの室外機。
コンクリート製の土台に金属で固定されているそれが、雑草を引き抜くよりも簡単にちぎり取られて持ち上がった。
(つづく)
今日は短め
続きは明日に




