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夢の跡9

「ぐおおおっ!!?」

 奴の展開した防御の隙間に矢が飛び込む。

 正確に液体金属の隙間を狙ったその一発は、防御を掻い潜った一瞬後に、その防御の内側から発する光で奴を包み込んだ。


「ッ!!!」

 普段のそれよりも小さな爆発。

 いや、爆発が小さい訳ではない。奴の防御の内側で起爆することによって、外に広がるべきエネルギーが奴の周囲だけで収まっているのだ。

 その小規模に凝縮された爆発が治まる。

 それまで奴の体の一部のように周辺に展開していた液体金属の装甲は、突然重力を思い出したかのようにドロドロと高さを失って奴の周りに広がっていく。


「やったか……?」

 その溶け出した金属の海の中に見える、こちらにむかって投げ出された奴の足。

 ぴくりとも動かないそれはしかし、その先にある五体がそのままの姿で残っていることを知らしめると同時に、激しく動き始めた。

「「ッ!!?」」

 反射的に構える俺と、次の矢をつがえる有馬さん。

 そして、痙攣のような動きから突然、倒れる瞬間を逆再生するように起き上がって来る京極。


「……まだだ」

 奴の喉から発せられたと思われるその声は、奇妙なエコーがかかって聞こえてきた。

「まだ……まだ私は……」

 それまでのような液体金属の装甲は存在しない。

 ただ奴の体だけ、ボロボロのスーツ姿の京極一人がそこに立ち、うわ言のようにそう漏らし続ける。

「私は……私はこの会社を……私こそが……」

 焦点の合わない目。誰にでもなくただ言葉を垂れ流すだけの口。

「私が……支配する……」

 そしてそんな状況に似つかわしくない発せられる言葉。


「……何を言っている?」

 その問いかけに答えはない。

 ただその代わりのように、奴の背後でメガリスが光を放ち始めるだけ。

「メガリスの反応が急速に増大!一体何が――」

 返事の代わりに届くのはオペレーターの驚愕の声。

 その台詞を言い終わると同時に、メガリスと同じ光が粒子状になって、奴からあふれ出し、そのまま光が辺りを飲み込んでいく。


「ッ!!」

 MCライリーの時と同じ現象――記憶をさかのぼるまでもなく、その瞬間が脳内に再生され、そしてその映像と同様の光が俺の視界を完全に埋め尽くしていった。




※   ※   ※




 生まれてからずっと、私の人生は決定されていた。

 私の記憶は都内の私立幼稚園に通う所で始まっている。そしてその頃の記憶=最も古い記憶でさえ、習い事のない日は無かった。


 父は実業家だった。

 弁護士だった母とともに、一人息子の私にはあらゆる教育を施した。

 私の人生は初めから決まっていた。それに異を唱えたことはないし、不満に思ったこともない。生まれた時からそうなるものだと決まっていたのだし、周囲もまたそういう子供しかいない世界だった。

 私は母と同じ私立幼稚園に入学し、それから高校までエスカレーターだった。

 大学は父と同じ国立大学に入学し、在学中に二年間アメリカ留学を経験した。


 自分は特別ではない――なぜなら、周りも皆そういう家庭の子供だったから。

 だが、世間一般というものはそういう目では見なかった。

 エリート、いい所のお坊ちゃん、親ガチャ――様々な表現方法で私を呼ぶ。歳をとるにつれてそうした声を耳にすることが増え、その度にその無数の語彙を生み出す頭を自己研鑽や勉学に向ければいいだけの話なのにと思っていた。


 世間一般。そう呼ばれる世界があることを知ったのは大学生の時だ。

 そして彼等からすると、私のような人間は選ばれしエリートと呼ばれるものらしく、そしてその選ばれしエリートは生まれが良かったことで人生がイージーモードらしかった。

 意味が分からない。一体こいつらは何を言っている?

 こいつらの中に幼稚園の頃からあらゆる習い事をさせられて来た人間がいるのか?

 常に競争と比較の中にいる人間の気持が?

 努力することが当たり前の環境が?


 結局、ひがみだ。

 努力するという当たり前のことさえ出来ない人間が、それを積み重ねてきた者が得る正当な地位と報酬をねたみ、足を引っ張ろうとしているだけ。それが、私の得た感想だった。


 大学を出て、私は証券会社に入社した。

 テレビCMを毎日のように流し、就職説明会が受付と同時に満席になるような、有名企業。

 大学の先輩方が多く在籍するそこに入社した私は、そこで初めて、自らの力以外の存在を知った。

 今にして思う。まだ二十歳そこそこの若者だった時の私は、余りに物を知らなかった。

 所謂学閥によって就職先を得られるというのは、決して普通の事ではなかったのだ。


 新卒の私が配属された部署には、当然と言うべきか、同じ大学の出身者が多くを占め、極僅かな他大学出身者はほとんど隅に追いやられていた。

 それは身分制と言っても過言ではない。同じ会社の中の同じ社員。だが実際の扱いは親会社と子会社か、或いはそれ以上の差が純然と存在する。

 同じ役職、いや場合によっては下の役職の者に対してでも、非学閥の者は頭を下げ道を譲る。それが当たり前だった。


 私の出世は約束されていた。

 学閥に所属する時点でそれは半分決まりだった。そして残りの半分=同じ大学出身の同期の中でも、私の成績はトップだった――これまでの人生全てと同様に。


 そう。私の出世は約束されていた。

 たとえ、同じ大学出身の同期の“中では”トップ=他大学、即ち非学閥の同期に全体のトップを奪われたとしても。

 つまり、学閥の『恥さらし世代代表』であったとしても。


(つづく)

今日はここまで

続きは明日に

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