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夢の跡8

「「ッ!!」」

「反応増大!来るわ!!」

 奴の周囲に展開していた水銀のような金属が、明確に意思を持ったように無数の触手を放つ。

 先程戦った時の尻尾と同じ物――そう判断すると同時に飛び下がって回避する。

 目標を見失ったその触手が空を切り、補強された床を叩く。

 直後に響くオペレーターの警告。

「トラバンド展開!複数同時!!」

 奴の頭上にばらけるように浮かび上がったそれらが、一斉に辺りに散開していく。


 第四世代。その最大の――というか俺の知る唯一の――特徴がこのトラバンドの運用能力だ。本来なら、つまり第三世代なら一人につき一機が限度だったトラバンドの運用制限を撤廃し、ほぼ無制限に使う事が出来る。

 何をどうやったのかは知らないが、事実としてこのヘリポートを――というか俺たちと奴とを上から見下ろす形で奴のトラバンドはヘリポートの周囲を滞空している。

「ちぃっ!」

 そしてそのトラバンドから放たれる光線。

 恐らくマナエネルギーをそのまま照射しているのだろうそれは、連射こそ利かないものの強力な援護射撃となる。

「ッ!!」

 ただでさえ複数の金属の鞭に狙われている状況では特に。


「いつまで逃げられるかな!?」

 そしてそれも、奴の想定した運用法なのだろう、確実にこちらを狙って放たれる攻撃は、射撃で足を止め、止まった瞬間を狙って鞭で狙い撃つというコンビネーションを為して襲い掛かって来る。

「なら――」

 射撃で足を止めるから狙い撃たれる。

 正面上空に現れたトラバンド、登場と同時にエネルギーのチャージを表すように煌々と輝きを放ち始めたそいつの真下に向かって突進。

 漂うそれが俯角をとりながらこちらを追うのに合わせて、その真下を通り抜けるように駆け抜ける。

「ここだっ!」

 そのトラバンドの真下を駆け抜け、見下ろしていたそいつがぐるりと90度を超えて回転するのを視界の上端に見るや、俺は左斜め前に飛び出した。

 直後、俺の未来位置を予想していただろう射撃が、右手側の床を赤く照らす。


 トラバンドがその飛行能力を持って、俺と一定の距離を保ちながら後退する動作をしていればこうはならなかっただろう。

 トラバンドの自動制御なのか、或いは京極自身がコントロールしているのかは分からないが、奴は射撃を優先するあまり移動を止めた。

 そしてその一機をフォローするために、他のトラバンドも集まって来る。


「イージス起動!」

 即座に脳内に表されるそれらの現在位置と軌道。そして未来位置や射界。

 無数の動線が示され、それ以上の射線が交差し、そこに混じり込む“本体”の動き。

 ――そして同時に示される、有馬さんの位置と、彼女が辛うじて無事であるという情報。

「……ッ!」

 そして示される、彼女が無事でいられる時間は最長であと5秒という予測。

「それなら――」

 あと5秒で状況を変える手段――その検索にかかった時間と、出てきたプランを選択する時間を考えても、小数点第二位を四捨五入でまだ5秒。


「何を――」

 奴がその決断の真意を読み取れない内に一気に突進=あと4秒。

 刀を降ろし、奴の正面に一直線に駆ける。

 当然、迎撃の鞭が一斉に襲い掛かって来る。

「ッ!!」

 それに対して自分の前に垂直に刀を立て、1/2拍置いて斥力場を最大出力で展開。


 2/1拍。そのタイミングが上手くいったというのを実感したのは、上半身でそれをやりながら下半身が走っていった結果、相対速度で迫りくる無数の金属の鞭と、俺の正面に回って迎え撃とうとするトラバンドが視界を埋め尽くした時だった――あと3秒。

「シャァッ!!!」

 咆哮。そして減速せず突進。

 自分を殺しに来る一切に向かってそうすることに対する恐怖心は、精神保護デバイスとイージスへの信頼だけでなんとか覆い尽くす。

 そしてその信頼が裏切られなかったと理解するのは、ほんの一瞬体が強張った、その瞬間だった――2秒前。


「なにっ!!?」

 奴の狼狽えたその表情が、鞭の隙間から覗けた。

 その狼狽えたと分かる声が、互いに干渉し合う鞭と光線との騒音の中でも聞こえた。

 最大出力で生成した刀身の斥力場。一直線に向かってくる相手に反射的に攻撃を集中してしまったのが京極の失敗だった。

 結果として刃の生み出した斥力場に突っ込むことになった鞭の先端は、その力場に弾かれて後続と衝突。それによって軌道を逸らされた後続の鞭がトラバンドの射線に飛び出す形をとり、結果として俺は無傷で奴の懐に飛び込む。


「おおおおっ!!!」

 叫び、空中で同士討ちをやらかしている鞭の群れを斥力場で蹴散らしながら奴の懐へ。

 なんとか迎撃しようとするその動きがどのタイミングで到達するのかは、既にイージスが算出済みだ――その全てが、俺の攻撃より後になるという結論に達して。


「くぅぅっ!!?」

 奴が身構える。

 左右の液体金属を巨大な二枚の盾のようにして自らを守ろうとするが、僅かに遅い。

 その隙間を縫って刀身が中へと飛び込む――1秒前。


「がっ!!」

 そしてその一秒は、斥力場によって弾かれながらもなんとか致命傷を回避した京極にとっては、致命的な一秒になり得る。

「今だ!!」

 奴がたたらを踏み、その一瞬だけ振り返り叫ぶ。

 それだけで、本人は理解している。


「はいっ!」

 即座に矢をつがえ、放つ。

 液体金属による防御を展開しようとした瞬間、俺は奴から跳び下がる。

「ぐぅっ!!?」

 その俺の肩越しに飛んでくるトラバンドの放つ光線。

 奴自身が従えていたはずのそれが自らの主人を誤射し、その結果生まれた僅かな隙はしかし、エネルギーを込めた矢が到達するのには決定的な時間だった。


(つづく)

今日はここまで

続きは明日に

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