表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
154/169

夢の跡6

 叫び、そして矢を放つ。

 床から垂直に飛び出した矢は天井付近まで飛んでいき、そこで急速に姿勢を変えると、彼女の怒りを買ったシェイプシフターに向かって落下を始める――その光を宿した鏃を戦闘にしてなのは言うまでもない。


「ッ!!」

 シェイプシフターがその飛来物を見上げる。

 海老沢アリアの姿をしたそれが、自らに迫る死を見据える。

「……ッ!」

 そして諦めたのか、或いは何も対策が思いつかないのか、奴はそのまま棒立ちで、飛んでくる矢の、その鏃が爆ぜる閃光の中に消えた。


 周囲に爆発が広がっていく。シェイプシフターの周りにいたスケルトンたちをも巻き込んで。

 やがてその光が消えた時、そこに残っていたのは、バラバラになった大理石のようなもののかけらだけだった。

 シェイプシフターはその限界が分かるものなどほとんどなく砕かれ、それによって周囲のスケルトンたちも跡形もなく消えた。


「反応消失。敵はいないわ」

 オペレーターが告げ、有馬さんがふらりと自らが仕留めたその残骸の方へと歩みを進める。

 彼女の進行方向に転がったのは、シェイプシフターの中でも数少ない、それが頭部だったのだと分かるぐらいに原型をとどめた残骸。

 ヒビだらけで、辛うじて形を保っているようなそれを、有馬さんは渾身の力で蹴り飛ばした。

「……ほんと、悪趣味」

 砕けたそれを目で追う事もなくうなだれる。

 ぼそりと漏らしたその声は、先程の叫び声と同じく、今にも泣き出しそうに震えていた。


「……行こう」

「……はい」

 それから少しの間、彼女を放っておいたが、いつまでもそうしておく訳にもいかない。

 あえて顔を見ず、何も聞かず、ただそれだけ伝えて進行方向=入ってきたのとは反対側の扉に向かう。

 ――海老沢アリアと彼女との間に何があったのかは分からない。

 だがあの時、彼女が海老沢アリアを撃たなければならなかったあの時、決してそれが本人の望んだ姿ではなかったことぐらい俺にも分かる。

 その彼女に対して、シェイプシフターの選択は非常にまずいものだった。敵ながら、そしてモンスター相手ながら、その点だけは同情する。

 だがもし、奴が分かっていてそれを選択したのなら、その選択に相応の末路を迎えたと言えるだろう。


 彼女の応答の前に少しだけしゃくり上げるようなものが入ったのは、聞かなかったことにした。


 屋内庭園を後にした俺たちの前に現れたのは、反対側と同じようなエリアだった。

 会議室や、パソコンと事務机がいくつかあるだけの比較的小さなオフィス。そしてそれら全てが、広々とした窓から眼下に広がる大都市を見下ろせるレイアウトになっている。

 俺のいた会社もビルの中にあったが、それほど大きなところではなかったし、窓には常にブラインドが降りていた。

 だからかもしれないが、こうした広大なパノラマを前にして仕事をするのは何となく落ち着かないような気がしてならない。特に天気のいい日など、そのまま会社を飛び出してサボりたくなる欲求に耐えるのに大変だろう。


 まあいい。そんなアホみたいな感想を抱きながらそうしたオフィスに左右を挟まれた廊下を抜ければ、現れるのは二基のエレベーターと、その横の階段。

 エレベーター横の案内板の最下層がこの50階であるところを見ると、どうやらこれが上層部用のエレベーターらしい。


 そしてその案内板に書かれているのは60階まで。それぞれの階に何があるのかはAIの描いたイラストの中の文字のように読めないが、少なくとも60階が最上階であると考えてよさそうだ――そこから更に別のエレベーターに別れているのでなければ。

「いよいよ最後の階段だ」

 やはり動かないエレベーターを迂回して、先程登り続けたのと同じような階段へ。

 再び俺たちはそこをひたすら登り続ける作業を始めた。

 先程50階分続けた登り。先程までと違うのは、各階の廊下と階段とを隔てている扉がガラス張りになっていて、向こう側が見える事=廊下に敵がいた場合こちらを発見される危険性があると言う事だ。


「用心して進もう」

 後続の有馬さんに告げ、そのガラス張りを指さして示すと、彼女も意味を理解してくれたようだ。

 階段の踊り場は狭い。二人で登っていると余計に。

 その狭い場所で、ガラスとはいえ遮蔽物によって行動を制限され、加えて上下の階段という平地よりも移動しづらい退路しかない場所で、自由に動ける敵に発見されるのは非常にまずい。特に遠距離攻撃手段を持っているような連中なら尚更だ。

 故に、その移動は細心の注意を払う事になる。各階に到着する直前で足を止めて階段状に身を伏せ、向こう側を確認して人気が無ければすぐに駆け上がってそこを通過。


 幸いなことに、それが空振りに終わる展開が10回続いてくれた。

 そして最上階である60階に到達したとき、もう一つ50階までと異なる点に気付く。

「まだ上が……」

「屋上ですね」

 最上階の廊下にも人の気配はない。

 そしてこのハイブに入った時のオペレーターの言葉=メガリスの反応は一番高いビルの屋上から検出された。


「オペレーター。この屋上にメガリスの反応があるんだな?」

「ええ。それと……」

 強張った彼女の声が一度途切れる。

 何が続くのか、それについては予想するまでもない。

「それとは別の強力なマナ反応が一つ。ガードがそばにいるわ」

 このメガリスのガードが何者なのかなど、今更確認するまでもない。


「……了解」

「二人とも、どうか無事で」

「はい。ありがとうございます」

 先程は後れを取った。だが、今度はそうはいかない。

 今度こそメガリスを破壊する。

 そして、京極と決着をつける。


(つづく)

今日はここまで

続きは明日に

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ