ある配信者たちの顛末25
それから、俺たちは高速道路を高層ビル群に向かって走り出した。
必要物資の回収は完了。あとはこの片側二車線の高架を、目標に向かって走るだけ。
複数の影、恐らくハーピィと思われるそれが上空で旋回し続けているが、こちらを捉えていないのか、或いは更に先に進むまで泳がせておくつもりなのか一定高度を飛び回るだけで一切降りてくる様子はない。
まあ、それならこちらにも好都合だ。逃げ場のない高速道路上で襲われるとなるとそれなりに面倒もある。
「っと」
その面倒が正面からやってきたのは、それから程なくしてだった。
「前方より高速で接近する反応あり!警戒を!」
オペレーターの声。その姿はこちらでも捉えている。
「確認した!」
高速道路上を滑空する、巨大なシルエット=ドラゴン。
奴にはしっかりと俺たちが見えているのだろう、迷うことなく一直線だ。
「足を止めます」
「頼んだ」
高架の幅員いっぱいに羽を広げたそのシルエットに有馬さんが矢を向けると、即座に退き絞ってそれを放った。
「ッ!!」
影が高度を上げる。
相対速度で迫って来る矢を躱すその動作が、そのまま獲物=俺たちへのトップアタックへと繋がる。
「来る!」
「させません!」
矢の軌道が変わる。
奴に飛び越えるように躱された直後から180度ターンと共に、奴と俺たちとの間に挟まるように。
「伏せて!」
直後に有馬さんの指示。
反射的にそれに従った瞬間、見本を見せるように同じ姿勢をとっていた彼女の頭上で矢が炸裂する。
「ッ!!」
ドラゴンの軌道が変わったのを知ったのは、その爆発の衝撃が背中を叩いたところでだった。
指向性の爆発。その向きと反対にいる俺たちはにびりびりと震えるような衝撃を与える程度に納めていたその爆風は、急降下するドラゴンの頭にしっかりと浴びせかけられている――それこそ、奴がたまらずに軌道を変えて俺たちの後方へ落ちるぐらいに。
「ガァァァッ!!」
奴の咆哮が、アスファルトに叩きつけられる耳障りな音をかき消さんばかりに響き渡る。
焼け爛れた顔面。硬いアスファルトへの叩きつけで折れたのだろう翼と足。
それらへの怒りを全て俺たちにぶつけるがごとく、牙の並ぶ口が大きく開かれてこちらにその咆哮を浴びせてくる。
――だが、それで怯んでいては思うつぼだ。
「おおおっ!!」
反対に叫びながら突進していく。
抜刀し、胃液に着火しようとこちらに口を向けるその直前に、奴の懐に飛び込んでいく。
「ガァッ!」
叫び声と共に勢いよく噴射された奴の胃液。
ガソリンと似た成分を含むそれは、放電可能な上下の牙を通過する際に、そのスパークによって着火され、その強烈な炎を吐きつける――空に向かって。
「シャァッ!」
奴の首の下、間一髪で飛び込んだそこから切り上げる一撃が、その首を上に跳ね上げた。
噴火のように曇りがちな空に炎が上がり、その燃料となる胃液を送り出している首に刃を突き立てる。
「ガッ!!?」
炎が止まる。
ついで奴の体も。
火炎放射が消え、ゆっくりと首がうなだれていく。
最初の矢で半壊していた頭部がアスファルトの上に着いた時には、既に奴の息の根は止まっていた。
「ドラゴンの反応消滅を確認しました。先に進んで」
ドラゴン殺し。昔ならこの一件だけで大興奮して動画の取れ高に胸が高鳴っただろうが、今やもうそういう事もない。
ダンジョン配信事業を復活させるため――ひいては自ら主導の配信事務所を復活させるため――に違法行為に手を染め、挙句はメガリスに取り込まれた男を狙う配信から足を洗おうという者が配信者なら垂涎のドラゴン殺しを前にしても無視して進むというのは、この状況の象徴的な姿かもしれない。
まあ、とにかく。その死骸から踵を返し、有馬さんの所へ戻ると再度前進を開始する。
再度道路沿いに進み、やがて差し掛かる橋が、その終わりを示していた。
護岸が整備された大きな川――というか、周囲を埋め立てた際に運河として残されたかつての海を渡るその橋の向こうで、高架はその高さを下げていき、それまでよりも明らかに大きなビルが立ち並ぶ区画の中へと入っていく。
「オペレーター、高速道路の終わりが見えた。ここから先はどう進む?」
「了解。メガリスの反応があるのは中心部の最も高いビル。高架を降りたら道沿いにそのまま真っすぐ、二つ目の十字路を左折して。マナブイが無いから道中の詳細は分からない。慎重に行動して」
「了解だ」
言われたルートはすぐに分かった。
高架を降りた先、高速道路の終点はそのままL字に曲がった二本の大通りにぶつかって丁字路を為しており、その二本の道はどちらも片側三車線の大きな通りだ。
そしてそのうちの一つ、オペレーターから指示のあった方向に進む道を進めば、進行方向左手のビル群の隙間から、一際高くそびえ立つ摩天楼を見上げる事が出来た。
「あれですね……」
「あれだな」
同じものを見上げて指をさす俺たち。
まるで観光客だが、当然ながらそんな呑気なものではない。
高速道路から一般道へ入り、丁字路を進行方向へ。
道路の真ん中を歩いていくというのも妙な気分だが、まあ今は仕方がない。歩行者天国のようなものだと思おう。
「ッ!?」
「待ち伏せか……」
周囲の建物からわらわらと、俺たちを囲むようにモンスターたちが現れたのもあって、いよいよもって歩行者天国だ。
(つづく)
今日はここまで
続きは明日に




