ある配信者たちの顛末21
「「あっ……」」
俺と有馬さんの声が同時に漏れる。
始めてみる光景=人間が串刺しになって宙に浮かぶ姿。
奴の尻尾は金属の触手のように動き、ほとんど抵抗なく突き刺した相手=宮園さんを持ち上げている。
「かっ……ぁ……」
彼女の口から、声にもならない息だけが絞り出される。
ガランと音を立てて苗刀が石畳に落ち、その上にこれまた音が鳴る程の勢いで、赤黒い血の滝が流れ落ちていく。
そしてその衝撃的な姿を前に、手を下した張本人の浮かべる表情はただひたすらに興味を失ったという類の冷酷なそれ。
「宮園麗華……残念です」
ただそれだけ吐き捨てると、どうでもいいように彼女の体を投げ捨てる。
「貴方は何をしにここへ来た?配信者がダンジョンに潜って、わざわざ他の誰かの邪魔をしに来たのですか?」
勿論、こいつは本当は分かっているのだろう。
その挑発めいた口調のまま、奴は倒れ伏した彼女の方に歩みを進める。
「くっ……かは……っ」
対する宮園さんにはまだ息があった。
無論、もう長くない事は直感的に分かるような状態だったが。
体中を穿たれ、恐らくLIFE RECOVERYの発動直後にその回復量を上回る勢いでのダメージだったのだろう、辛うじて動く両腕で必死に体を這わせるその先には、彼女の友人の亡骸。
「ア……リア……」
最期にせめて――その思いで伸ばしたのだろう腕を、奴の尻尾の一本が正確に撃ち抜いた。
「があぁっ!!!」
意味などない。彼女には最早抵抗する力も意志も無かっただろう。
ただ、不必要に痛めつけるための攻撃。
「やめなさい!」
それに声を荒げたのは有馬さんだった。
俺の知らない、初めて聞く怒りを隠そうとしない彼女の声。
そしてそれは決してただの脅しや演技ではない。その証拠に彼女が弓引いたのは、今や変わり果てた姿のかつての上司だ。
「京極さん……自分が何をしているか分かっているんですか!?」
鏃には光が宿り、張り詰めた弓から指を離せば、即座に京極を爆殺できる状態だ。
「みんな、みんなあなたの……アウロスの仲間だったんじゃないんですか!!?」
自分の部下にして仲間。それを平然と使い捨て、逆らえば殺す。その姿に対するごく正当な怒り――俺自身も感じているような。
だがそれに対して向けられた京極の視線は、先程までと同様に冷ややかなものだった。
「君は確か……ああ、候補生だった子か」
奴が向き直る。
第六感:こいつを近づけるのは危険だ。
「厳しい事を言おうか。そんなだから候補生のままなんだ」
奴の尻尾が、その別れたすべての先端が、蛇がそうするように鎌首をもたげる。
「この世界は結果が全てだ。数字が全てだ。だから、それを少しでも良くするために皆本気でやっている。君も本気になればわかるはずだ。誰もが本気になれば、多少の体裁など気にしてはいられない。成功のためには全てを賭けろ――」
「そんな事を聞いているんじゃない!!」
有馬さんが叫ぶ。
「貴方はアリアさんを操った!無理矢理戦わせた!それを止めようとした宮園さんを襲わせた!」
そこで奴の顔に明確な失望が浮かんだのが見えた。
直感が訴える。こいつは話が通じない。
恐らく、有馬さんが何故怒っているのか、こいつは半分も理解していないだろう――俺たちがこいつの垂れ流す理屈を全く理解していないように。
そしてその事は、当事者である奴自身が一番理解しているようだった。
「やめよう。不毛な話だ。……終わりにしよう」
「ッ!」
その瞬間、俺は刀を振り上げていた。
恐らく時間にして一秒にも満たない時間。その一瞬のうちに、奴の尻尾が俺たちを串刺しにせんと飛び込んできている。
「ッ!!」
その先端を切り落とす。
有馬さんも感付いたか、後ろに跳び下がって攻撃を躱している――その一撃だけは。
「あっ!」
着地と同時に彼女が声を上げた。
その足にもう一本の尻尾がしっかりと絡みついている――それを俺が見つけた瞬間、彼女の体は桜の木の幹に叩きつけられていた。
「有馬さん!?」
目にもとまらぬ速さ。ほとんど瞬間移動と言ってもいいようなそれに思わず視線が釘付けになる。
しかし同時に、頭は冷静な――ある種冷酷な――判断を下した=まずは目の前の敵が先決。
ほんの僅かな、一秒の十分の一程の時間での判断。
「くっ!!」
しかしその時間で、奴の尻尾は確認できるだけで四本が俺に向かってきていた。
(つづく)
今日は短め
続きは明日に




