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ある出戻り配信者の顛末  作者: 九木圭人
ある配信者たちの顛末
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ある配信者たちの顛末20

「「!!?」」

 その光景を、俺と有馬さんは呆気にとられながら見ていた。

 奴は、京極は味方を撃ち殺した。

 見間違いではない。今奴は確実に、瀕死の海風レモンを、奴についてきたのだろう味方を平然と殺した。


「ぇ……」

 撃たれた本人自身が、目を見開いて奴を見上げている。

 何をされたのか分からない――というよりも、何故そうされたのかが分からないというその表情に、撃った張本人が向けるのは隠す気のない苛立ち。

「わかりませんか?」

 たった一言のそれが、死にゆく彼女への手向けだった。

 ぐったりと動かなくなった海風レモン。かつてはアイドル的な人気を誇った彼女の最後は、MCライリーの時と同様の、急速な石化とそれに続く風化。


 その光景に声を震わせたのは、俺たちではなかった。

「あんた……何を考えて……」

 声の方に京極の目が向く。

「その子は……あんたに着いてきたんじゃないの……?」

「ええ。そうです」

 信じられない――全ての声がその感情を形にしたように響く宮園さんの問いかけに、自分がどういう回答をしているのかも気にしていないような様子で京極は答えた。


「じゃあ――」

「彼女は少しは役に立ってくれた。風巻君には必要なかったかもしれませんが……少なくとも、海老沢さんには大人しくしてもらう必要がありましたからね」

 その名は出すべきではなかっただろう。

 宮園さんの肩がびくりと動いた。

「彼女は海風さんを説得に来ました。これは不法行為だと、こんなことをしても得られるものはない、とね……」

 どうやら、アークドラゴンとの戦いの直後宮園さんが語った通りの展開だったようだ。


「まったく、私に言わせれば甘い話です。ルールなどいくらでも例外を作れるというのに、ルール違反という言い訳をして、全力を尽くさないでいる、即ち怠ける事の正当化に過ぎません。全ては結果です。結果を出せば、いくらでも覆すことができる」

 先程コンプライアンス研修がどうだとか言っていた口から出たとは思えない台詞。

 アウロスのコンプライアンス研修は一体どうなっていたのか。


「何言ってんのよ……あんた……」

 その言葉が宮園さんの逆鱗に触れているというのは誰の目にも明らかだった。

 海老沢さんは操られていた。あれが海風レモンの能力なのかは分からないが、彼女が関わっていたことは先程目にした光景と、今京極が語った事からもまず間違いはない。

 つまり彼女は、強制的に戦わされていたのだ。そしてその末に命を落としたのだ。馬鹿な真似はやめろと、かつての後輩や上司を説得しようとして。


 そしてその強制的に戦わせた張本人の口から、これっぽちの反省も感じられない――それどころか海老沢さんを侮辱するような発言が飛び出せば、その海老沢さんを助けるために自らも不法行為を犯したその友人の怒りも無理はない。

「分かり切っている話です。アウロスフロンティアはダンジョン配信事務所であって、仲良しクラブではない。数字を出せと言ったら何をしてでも数字を出す。当たり前の話だ」

「会社は……アウロスフロンティアはもうないでしょう!」


 そして今度は、その宮園さんの一言が、反対に京極の逆鱗に触れたようだった。

「そう、会社はなくなった。本社の馬鹿どもは、保身のためにフロンティアを捨てた。私の、私の思い描いていたプランも全て……ッ!!」

 何となく、こいつが何故こんな真似をしたのかは分かった気がした。

 アウロスフロンティアの内部事情は知らないが、今回の撤退騒ぎでこいつ=現在は運営側に回っていたかつての人気配信者の抱いていた野望なりなんなりはご破算になった訳だ。

「だから私は証明しなければならなかった!本社の馬鹿ども分かるように、メガリスは制御可能な存在であると!我々にはそれが出来ると!」

 だが、それではいそうですかとそんな事を認めることも出来ない。

 故の暴走――溺れる者は藁をもつかむ。


「私の考えを風巻は分かってくれた。彼は元々私に随分懐いていた。海風も、最早後が無いという己の立場を弁えていた。だがそいつは……海老沢はそんな事情など知りもしないで邪魔だてを……。まあ、その程度の奴でも駒ぐらいにはなった――」

「貴様ァッ!!」

 叫ぶと同時に宮園さんが飛び掛かる。

 恐らくとっくに限界が来ていたのだろう、彼女の手には苗刀が握られ、振り上げられたそれがきらりと光っていた。


「ふん……」

「ッ!!?」

 対照的な京極。

 つまらなそうに息をつくと、同時に奴の後ろの石畳がめくれ上がる。

 トカゲのそれを彷彿とさせる尻尾――そうとしか表現のしようのないそれが奴の後ろに現れる。

 先端が鋭く尖ったそれはしかし、完全に金属であると思われる光を放ち、そして背中側から京極を包み込むように瞬時に展開している。


「あ!?」

 有馬さんが叫ぶ。

 俺も声には出なかったが、彼女の感じた衝撃と同じものを感じていただろう。

 奴の尻尾は鞭のように撥ねた。

 自らに向かってくる相手を迎撃するように鎌首をもたげ、その先端はいくつにも分かれた。


「ッ!!!」

 そしてその無数の先端は、肉食獣の牙のような鋭利さをもって、宮園さんの全身を貫いた。


(つづく)

今日はここまで

続きは明日に

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