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メガリス6

「何だと!?」

 叫び返しながら改めて辺りに目をやる。

 動くものは近くにない。目立つものも正面の周囲の木々よりも一際大きな古木か今しがた倒したオーガの、毛むくじゃらの死体以外には何も。

 遠くの轟音は未だに時折聞こえるが、それにしたってまだ遠い。

 では――。


「方向は?」

 直感:すぐ近くにいて、なおかつ他の何かに擬態している。

 もう一つの直感:もしそうだとすれば、一つだけ考えられる可能性がある。

 その二つの直感への答えは、オペレーターの緊迫した声が証明してくれた――どちらも正解だと。

「12時方向!」

 12時=正面。

 辺りに根を伸ばしている巨大な古樹がそびえ立っている方向。

 再び遠くの轟音。今度は先程までより少し近い。


「オペレーター……」

 刀を構えなおしながら、9割方の確信をもって尋ねる。

「その反応は……あの木からか?」

「……その可能性が極めて高い」

 その答えと同時に、俺の手はポーチに入っている。

 取り出すのはショックウェーブ弾の横に収めていた発煙弾。

 その頭についているピンを引き抜いて正面の木に向けて放る。シュッと空中で音を立てたそれが爆ぜて、真っ白な煙が放物線を描く。

 そのゴール地点は巨木の根元。瞬く間に白煙が巨木のシルエットを覆い隠していく。

 発煙弾は熱を発している訳ではない。ここで使われているものはピンを抜くことで内蔵された薬品同士が混ざり合い、それが煙となって放出されるのだ。

 この煙自体は人体に有害な成分は含まれていない。だが、一部のモンスターにとっては不快に感じるものらしい。


「ッ!やはりな……!」

 不意に煙が二つに割れた。

 俺の漏らした声は、メキメキという何か硬いものが折れるようなそれにかき消された。

 そしてすぐに声の主とご対面だ。煙の向こうから現れた、その幹に憤怒の表情を浮かべた巨木と。

 人面樹、トレント、様々な呼び名で聞いたことのあるモンスターだったが、実際に見るのは初めてだ。

 地面から掘り起こした根を足の様に動かして地面を滑るように――というには鈍重な動きだが――移動し、伸ばした枝を腕の様にこちらに向けてくるその姿は先程のオーガよりも遥かに大きく、最早怪獣と呼んだ方がいいような大きさだ。


「来ます!」

「くっ……!」

 オペレーターの叫び声と同時に、振り上げていた太い枝が俺めがけて振り下ろされる。

 流石に石斧のような衝撃はないが、それでもあれで殴られればひとたまりもないと言う事は分かるような太さと勢い――そして石の床に叩きつけた時の濁った音。

「流石にここじゃな……」

 辺りを見回して決定。あまり広い所で戦うのは分が悪い。

 こいつが上手く動き回れない狭所に入り込んで――恐らく定石だろうその考えは、奴の腕が横に薙ぎ払う動きを見せた段階で捨てた。


「うおおっ!!?」

 ギリギリのところで躱した薙ぎ払い。

 だが届いたのはたまたまで、奴の狙いは俺自身ではなかったとすぐに知ることになる。

「ッ!?」

 鈍い音が響く。

 そして何かがねじ切られるような音がそれに続く。

 反射的に目をやった音の方向。飛び込んできたのは、振り抜かれた奴の腕=太い枝が、周囲の木々を捉えてねじ切る瞬間だった。

 さっきまで木刀のようにこちらに振り下ろして来たものと同じとは思えない動きで木の幹を包み込み、ほとんど抵抗なくそれをねじ切る――まるで重機のそれ。


「危ない!!」

 オペレーターの絶叫と奴の放り投げたその木が俺の視界を埋めるのは同時。

 俺が飛び退くのも同時でなかったら、赤い霧に変わっていたかもしれない。

「逃げ道が……ッ!」

 ここに来るまでに通って来た方向を倒木が塞ぐ。

 いや、それだけではない。奴はすぐに次の木を同じようにねじ切っては投げつけてくる。

「うおおおっ!!」

 これまたギリギリでの回避。そしてその二本で、こいつを狭所に誘い込むなど到底不可能だと思い知る。

 こちらがいくら逃げようが、奴は追ってくる――自分に十分なスペースを確保しながら。


「……」

 憤怒の表情が俺を睨む。

 ずるずると引きずるように距離を詰める。石造りのドームの残骸を、ほとんど抵抗を受けた様子もなく破壊して。

「ちぃっ……!!」

 覚悟を決める。

 そっちがその気なら、ここでやる以外にない。


「ッ!!」

 奴の腕が再び振り上げられる。

 彼我の距離は十分。振り回せる枝の数は多いが、これだけのリーチをカバーできるものは左右で最も大きい――そして恐らく最も強力な――二本だけ。

 その片方が振り下ろされ、横に飛んで躱したところに次の一本が同様に落ちてくる。

「くぅっ!!」

 同じ方向に再度飛ぶ。反対側=来た方向に戻れば二本の腕に挟まれるから。

 石の上にダイビングして転がり、起き上がりざまに目の前にある太ももぐらいある枝に振り下ろす。

 デカブツ相手は末端を狙う――この鉄則はこいつにも適用する。


「ッ!?」

 適用できる――はずだった。

 奴の鱗のような樹皮が吹き飛び、硬いそれを切り飛ばしたはずがその中身に対してほとんど傷がつかなかったのを確かめるまでは。

「中空だと!?」

 硬い、先程のオーガの筋骨と同じかそれ以上の硬さを感じた樹皮を切断することは出来た。

 問題は、その樹皮と奴の恐らく本体であろう部分との間が空洞になっていて、渾身の一撃でも樹皮を切るのに留まってしまったという事。

 その上斥力は樹皮を吹き飛ばすことには使えても、触れていない本体には影響しない。

 空間装甲という斥力場生成ブレード最大の弱点がこいつの全身を覆っている。


 ではどうする?動き回る相手の、今の攻撃と全く同じ場所に全く同じ角度で切り込んで本体を斬るか?そんなもの、曲芸を通り越して机上の空論だ。

「なら……」

 もう一つの手:ショックウェーブ弾を使う。

 衝撃波をぶつけてより広範に樹皮を吹き飛ばし、むき出しになった場所を攻撃する。

 まだこちらの方が勝機があるだろう。


「……」

 だが問題は、それをするには余りに残弾が足りないという事だ。

 凄まじいリーチと怪力を誇る、どこが急所だかも分からない相手にショックウェーブ弾一発だけで正確に弱点を突く――勝機があるとは言ったが、これだって十分に机上の空論だった。


(つづく)

今日はここまで

続きは明日に

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