ある配信者たちの顛末11
奴がプレートキャリアやそれに類する防具を着ていなくて助かった。
今の攻防で負わせた傷は確実に今後の動作に、更に言えば命に係わる傷だ。
「これで終わりだ」
脇腹の出血を抑えながらこちらを見下ろしている奴に、切っ先と共にその事実を向ける。
戦闘中に止血する余裕はあるまい。
そうなれば、事前に仕込んでいるだろうLIFE RECOVERYを発動させて回復するしかない。
そして――ちょうど以前の戦闘がそうであったように――それを発動した時点で、次にするべきは撤退だ。
「お前が武器を捨てて投降するつもりなら――」
言いかけたところで、奴の中にマナの反応が増大する。加えて、アークドラゴンが纏っていたような赤い光が、改めて奴を包み込んだ。
LIFE RECOVERYを使用した――間違いない。
その上で戦闘を続行するつもり――これもまた、間違いない。
「正気か?」
そういえば前回の交戦時もそうだった。
こいつはLIFE RECOVERYの使用=次にするべきはその再チャージと、そのための安全確保という概念を理解していない。
いや、流石にアウロスの正規メンバーだ。頭では分かっているのだろうが、それ以外の何かがこいつに己の命に係わるその問題を棚上げさせている。
「……次は殺すぞ」
念のための宣言――半分は奴に、もう半分は俺自身に。
瞬間、答えるように奴から発せられる後光のような赤い光。
「ッ!!」
その瞬間、放射線状に飛んだ赤い光が、再度転がっている武器類を取り上げる。
「……京極さん……俺を拾って……だから……恩に報い……」
ぼそぼそと、ネットで配信していたとは思えないほど不明瞭な言葉を垂れ流す奴の口。
「風巻君、認めようよ。もうアウロスはないよ」
その言葉にため息交じりにそう返したのは、同じように苗刀を奴に向けていた宮園さんだった。
「京極に何言われたのか分からないけど、君の配信は十分に奴の期待に応じていたと思う。それにどんな恩があってもね、今君たちがやっている事は違法行為だ。違法行為の片棒を担ぐのを拒否するのは、恩知らずにはあたらない……私はそう思うけどね」
よく考えなよ――そう付け足しても、しかし奴の様子は変わらない。
直感:奴はこちらの言葉など聞こえてはいない。
「俺……配信者になって……拾ってもらって……だから……」
こちらを見下ろしていたはずの目は、今や焦点の合わないまま虚空を見つめていて、彼の口から紡ぎ出される言葉は、その虚空に向かって独り言のように垂れ流されている。
「……駄目だこりゃ」
もう救えない――そう判断したのだろう、宮園さんが再び苗刀を垂直に天井に向け、その刀身に白い光を纏わせる。
何かを振り切るように小さくかぶりを振って、それから再度風巻の方を見上げる。
「……嫌いじゃなかったけど、ごめんね」
その宣言と共に放たれた閃光。
俺たち二人を狙って殺到していた四つの武器が、それを操る赤い糸を引きちぎられて明後日の方向に飛んでいく。
三日月型の閃光はそのまま風巻に一直線。
「ッ!!」
だが、どれほど狂っていても自らの命の危機にまで鈍感ではいられない。
奴はその三日月を飛び越えるようにして跳躍すると、空中で姿勢を変えて落下を開始する――その手には、指の間の数だけ苦無。
「ちぃっ!!」
そしてそれが一斉に俺たちの頭上に降り注いだ。
イージスがそれら全ての軌道を伝え、放たれると同時に判明した着弾点から、とるべき行動を体が実行する。
ほんの紙一重の所を苦無が掠め、それが間に合わないものを刀身で弾く。
「っと!」
その苦無の雨の後には、投擲した本人が落ちてくるのも予想済みだ。
「「ッ!!」」
奴の忍刀が俺を串刺しにせんと振り下ろされ、床と切っ先が嫌な音を立てたその瞬間を逃がさずに奴に袈裟懸けに斬りつける。
「ちぃっ!」
横にすっ飛んで躱す風巻。それを追って奴の方へ振り向くように踏み出し、俺も斬り下ろした場所から逆袈裟に切り上げる。
「!!」
奴が今度は後ろに跳ぶ。同時に顔に向けて放たれた苦無を首を引っ込めて躱す。そのほんの一瞬のうちに奴はこちらの間合の外に脱出。
「はあぁぁっ!!」
だが、奴は忘れている。
そこに奴の動きを呼んだ宮園さんが向かっていたことを。
「ッ!!」
飛び下がってすぐに彼女の袈裟斬りを紙一重に躱す風巻。対する宮園さんの斬撃は止まらず、袈裟斬りの勢いのまま再度苗刀を振り上げて反対の袈裟斬りが奴に殺到する。
カッと金属同士の乾いた音が響き、振り下ろされた苗刀と奴が両手で支える苦無とがぶつかり合っていた。
拮抗――ただし一瞬だけの。
「はっ!!」
宮園さんの足が奴の下腹部に突き刺さる。
一瞬バランスを崩した風巻。再度襲い来る苗刀は何とか受け止めたものの、片手は懐から目つぶしを放るのでやっとだ。
――そして、その動きは宮園さんも想定のうち。
「ッ!!」
目を狙って飛来する飛礫を回避して更に斬りつける宮園さん。
たまらず飛び下がる風巻が、再度飛び乗った赤い糸――イージスの想定した通りの位置に、想定通りのタイミングで着地。
「おらっ!」
なら逃がす手はない。今度はこちらが棒手裏剣を放つ。
「!?」
ほんの僅かにだが、奴がバランスを崩した。
そしてその一瞬が、すぐ下で赤い糸の根元を狙った宮園さんと、それの成功を見越して突入した俺には十分な時間だった。
「はぁっ!!」
赤い糸が、ほとんど抵抗もなく切り落とされる。
バランスを崩したままの状態で足場を失った奴が着地するのは、俺が刀を構えたその目の前だ。
(つづく)
今日はここまで
続きは明日に




