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ある出戻り配信者の顛末  作者: 九木圭人
ある配信者たちの顛末
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ある配信者たちの顛末10

 宮園さんが苗刀を大きくテイクバックする。

 既に刀身全体が白い光を纏い、巨大な光の刃を振りかざすような姿にも見える。

 そしてその宮園さんに対してなんとか攻撃を辞めさせようとする風巻の操る赤い糸と、それによって盾にされる先行部隊の亡骸。

 ――だが、イージスが告げている。予想される彼女の放つ白い閃光の軌道と、風巻の迎撃の軌道は決して交わらない。


「……シャァァッ!」

 気勢と共に振り下ろされる苗刀。釣竿を振って遠くまで針を飛ばすように、彼女の刀身を離れた白い閃光は、アークドラゴンに対してそうだったように三日月形の光の弧となって風巻を襲う。

「ッ!!」

 奴が感付き、そして赤い糸から飛び降りる。

 その紙一重の所を、光の弧が飛び去る――その軌道上にあるあらゆる赤い糸を断ち切って。


「!!?」

 風巻が着地する。

 そしてその後を追うように、奴の操っていた先行部隊の亡骸と、彼等の武器とが音を立てて落ちていく。

 宮園さんの一撃。そのたった一度の光の射出で、奴の操っていたそれらを結ぶ結節点を切断している。


「風巻!!」

 叫びながら奴に飛び掛かる。最早奴を守るものはない。

 ならばこのチャンスを逃す手はない。

「ッ!!」

 突進と同時に放った袈裟懸けを、奴はギリギリのところで跳び下がって躱す。

 刀身が奴の前で風を切って音を立て、その直後に更に踏み込んで同じ軌道を往復するように切り上げる。

「ちぃっ!」

 これもまた回避――驚くべき身軽さの後方宙返り。


 だが攻め時なのは変わらない。奴の着地に合わせるように唐竹割りに正面を斬りつけると、奴は初めて回避より防御を選択した。

「「ッ!!!」」

 カッと音を立てて、お互いの得物が火花を散らす。

 奴が咄嗟に逆手に持った苦無が正面から斬撃を受け止めている。

「「……ッ!!」」

 互いに拮抗する――それを理解した瞬間、奴が僅かに俺の刀の下に潜り込むように足を進めて、空いていた左手が動く。

「ちっ!」

 拮抗を解き、飛び下がりつつ刀を振り下ろす。

 奴の左手に握られたもう一つの苦無。こちらは順手でわき腹を狙って来たそれが、再び乾いた金属音と火花を生じさせた。


 間一髪の攻防。苦無を撃ち落とすと同時にそれを持つ指を斬ろうとしたが、伝わってくる手応えは金属のそれだけ。

「ッ!!」

 直後、マナジェネレーターによって強化された動体視力が、失明を間一髪で回避させた。

 苦無による反撃を凌がれた――そう判断した瞬間に奴が口から放った、いつの間に仕込んだのか分からない極小のベアリングがそれまで目のあった場所に飛んで顔に当たる。


 攻撃はかわした。だが、一瞬だけそれに意識を向けた。

 そしてその僅かな隙も、奴に逃す気はない。


「くっ……!」

 目潰しを躱した直後に僅かにのけ反る。

 奴の腹への刺突からの勢いを殺さずに放たれた、間髪入れぬ後ろ上段回し蹴りが顔の前を掠めていく――そのかかとに仕込んだ蹄鉄のような金属部分が見えるような距離で。

 前にもまして忍者らしい。もし前情報なしなら非常に戦いにくい相手。

 だが、イージス発動状態でならば、その手の内も想定の範囲内だ。


「しっ!」

 奴の蹴り足が戻っていくのに合わせてこちらから仕掛ける――蹴りの間も位置の変わらない腹に向けての両手突き。

「ッ!?」

 奴の反応=その場で尻もちを搗くように倒れる。

 瞬間、イージスが伝える次の動き――俺は刀を引き、その直後に刀の柄=それを持つ俺の手を狙ったのだろう奴の蹴りが地面から垂直に突き上げられた。


 その爪先には、靴に仕込んでいたのだろう刃が飛び出している。

 だが、当たらなければどんな刃物も無意味だ。


「この野郎ッ!」

 叫びながら、俺が今度は蹴りをかます。今は地面のすぐ近くにある奴の頭に向かって。

「ッ!!!」

 奴が片腕でそれを受ける。

 つまり、その瞬間動きが止まる。

「シャッ!」

 蹴り足を軸足に切り替え、奴を踏みつけるように更に踏み込む。

 同時に今度は薙ぎ払う。ゴルフクラブみたいに、床のスレスレに切っ先を走らせて。

「ッ!!!」

 一瞬、金属ではない手応えが返って来た。

 そしてそれに合わせるように、花火のように打ち上げられた赤い光。

 ピンポン玉ぐらいのサイズのそれが、俺の顔の高さまで浮かぶと、即座に閃光が視界を満たす。


「くっ!!」

 目くらまし――仮にイージスが無くても分かる。

 思わず目を閉じ、奴から跳び下がって距離をとる。

 同時に刀を顔の前に立てると、完全に立て終わるよりも僅かに早く金属音と軽い手応え。

 イージスが教えている――光による目くらましの隙をついて奴は脱出し、同時に苦無を放っている、と。


「ちぃっ……」

 即座に目を開け、まだ残っていた赤い光の糸の上に飛び乗った奴に対峙する。

 逃げられた。千載一遇のチャンスを逃した。

 後一瞬でも俺が速ければ、確実に奴に致命傷を与えていただろう。


「……」

 だが、その攻防が無駄ではないことは分かっている――先程確かに感じた手応えと、赤い糸の上で器用に立っている奴の片手がわき腹を抑え、奴の足元にぽたぽたととめどなく滴っている血によって。


(つづく)

今日はここまで

続きは明日に

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