ある配信者たちの顛末9
「キィィィッ!!!」
ハーピィの絶叫。
つまり、奴はまだ生きている。
「たあああっ!!」
ならばやることは一つだ。もう一度動き出して襲ってくる前にとどめを刺す。
奴の方へ走り寄り、まさに失った足を引きずって飛び立とうとしている瞬間に遭遇。そのまま一気に突進する。
「キィッ!!?」
浮かび上がるハーピィ。
まだ床からなんとか離れるぐらいの高さにいたそいつに、私は逆手に持った小太刀を一思いに振り下ろした。
「ギッ――」
ハーピィの声が濁る。
突き刺すというより体ごと突っ込んだと言う方が近いだろう一撃で、鍔元まで小太刀が突き刺さる。
ハーピィが再び床に崩れ落ちる。周囲の机の上に山積みにされた書類や、パソコンのモニターを盛大に道連れにしながら。
「よし……」
だが、まだ安心するには早いという事実を聴覚が即座に伝えた。
「くっ!!」
「キィィィッ!!」
鳴き声に反射的に振り向くと、二匹目のハーピィが部屋に飛び込んできた瞬間だった。
「ッ!」
まだ距離はある。
飛び込んだ新たなハーピィは近くの机の上にとまり、それから私の方を見た。
つまり、飛び込んでくる前には私の正確な位置を知れなかったはずだ。
そして私の状況=今倒したハーピィのすぐ向こうに、先程取り落した弓矢が一緒になって落ちている。
「なら……っ!」
飛び込み前転のようにハーピィの死骸を飛び越える。
着地と同時に受け身をとり、その勢いのまま弓を拾うと、起き上がる勢いで背後に向けて一気に引き絞る。
「キィッ!!」
同時にこちらに反応した新たなハーピィが飛び込んでくる。
翼を広げ、この部屋でとれる高度ギリギリの飛行で、その鋭い爪をむいて。
「……」
その姿を目で追い、併せて未来位置を予測して照準を修正。
奴は真っすぐ私に向かっている。高度の高さは直前で下方に調整する――つまり、落差は小さいが急降下するはずだ。
「……ッ!!」
僅かに吸って息を止める。
元々佐川流は、かき集められた足軽に短期促成で弓を使わせるための流派だ。
当然、その想定される状況には武装してこちらに向かってくる敵の迎撃も含まれる。
それを想定した槍練り=槍を持って向かってくる相手を前に、弓を引き絞ったまま指示があるまで動かない訓練は、何度も何度も繰り返した。
「ここっ!!」
それからすれば、コースの読めるハーピィなど、鳥型の的と変わらない。
「キィィッ!!?」
命中した矢は、相手の喉元をしっかりと貫いていた。
急降下の直前に射抜かれたことで、姿勢を崩したそのハーピィが大きく軌道を逸れて、私の身長よりやや上の辺りを飛び越えていく。
直後に響く耳障りな轟音。
振り返った先で、壁に頭から叩きつけられ動かなくなっているハーピィ。
「ギッ……ギッ……」
まだ息はある。だが、既に戦闘能力はない。
そして戦闘能力はないものの、戦意は失われていない。
「……」
こちらを睨みつけるハーピィ。鋭いくちばしをこちらに向けて、罵声を浴びせるように叫び続ける。
「……終わり」
もう一本の矢を構える。今度はしっかりと力を込めて、鏃にマナエネルギーを送る。
「ギッ!!?」
放ったそれがハーピィの胴体に命中し、一拍置いてギュボっと音を立てて爆ぜた。
「ふぅ……」
ようやく安どのため息を吐くと、同時に肩口に刺されたような感覚が走った。
「いたた……」
見ると、先程ハーピィの爪に掴まれた肩から血がにじんでいる。
戦闘中はジェネレーターによって痛覚がコントロールされていたが、落ち着いてくると痛みがしっかり出てくる。
幸い、皮膚の表面に傷がついただけのようで、多少の痛みを我慢すれば動作に支障はない。持ってきた医薬品の応急処置だけで大丈夫そうだ。
「ここ、どこなんだろう……」
新手が入ってこないことを確かめるのも兼ねて、ハーピィたちが飛び込んできた窓から外を覗く。
下に広がっているのは、オフィスらしきこの部屋からは考えられない、公園のような広場。
そしてその中央に真っすぐ一本伸びている並木道。
「なんだろう。ここ……」
以前一条さんと一緒に入ったハイブの事を思い出す。
あれが唯一ハイブに入った経験だったが、もし他のメガリスも同様の傾向があるのだとすれば、あの時のMCライリーというガードと同様、ここもガードに馴染みがあったり、そうあって欲しいと望んだ空間なのだろうか。
まあ、先に進まない事には分からない――そう結論付けて、ポーチから消毒薬を取り出す。
「大丈夫だよね……二人とも」
そして先に進むには、あっちの二人が無事でいてくれなきゃいけない。
勿論、先に進まなかったとしても。
※ ※ ※
「ちぃっ!!」
槍に変わって飛んできた刀を、再び己の刀で弾く。
先行部隊の持っていた武器は、今や全て風巻が操る赤い光の糸によって手繰られ、その糸の上を駆けまわってこちらに捉えさせずにいる奴によって一方的な攻撃手段として俺たちに向けられていた。
「ちょっと汚くない風巻君?」
宮園さんが、言いながら自らに向かって飛んできた短剣を躱す。
――と、見ている場合ではない。
「くっ!」
飛んでくるのは武器だけではない。奴の糸は動かなくなった先行部隊そのものにも向かっている。
ただし、こちらは器用に操ったりはしない。
「うおっ!!」
無数に張り巡らされた赤い糸、その隙間を縫うようなコントロールで、その死体そのものが飛んでくる。
危うく飛び避けると、即座にそこを狙って飛んでくるのは赤い糸本体。
「この野郎」
こちらを拘束しようとするそれを切り落として迎撃すると、その間隙を縫って再び刀が飛んでくる。
防戦一方。
それは俺だけではない。
「そういうことするならさ……」
同じく紙一重で躱しながら、しかし宮園さんはあるタイミングで足を止め、肩に担いだ苗刀を天井に垂直になるように立てる構えをとった。
「ッ!!」
その姿、そしてその刀身=先程アークドラゴンに叩きつけられたのと同じ三日月型の白い光を苗刀の刃が纏うのを目にして、俺は直感的にやるべきことを悟る。
「イージス起動」
即座に頭に流れ込んでくる全ての武器、死体、そして赤い糸とそれを操っている風巻の位置。
俺のするべきこと=宮園さんがアレを放つまでの時間稼ぎ。
「そのおもちゃ、斬らせてもらうよ!」
彼女が宣した時、俺は現在位置から横にすっ飛び、途中に見えた赤い糸二本を切り落とした。
彼女に向かうはずだった槍が穂先から落ちて地面に刺さる。
イージスが伝える――これで、一秒後の射出を邪魔するものはいない。
(つづく)
今日はここまで
続きは明日に




