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ある出戻り配信者の顛末  作者: 九木圭人
ある配信者たちの顛末
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ある配信者たちの顛末6

 洞窟の奥へと俺たちは走る。

 前衛を俺と宮園さん。その後ろに有馬さんが続く、逆三角形の隊形。得物と好む立ち回りから自然とこの形になった訳だが、こうした通路のように左右の移動が制限されている状況では理に適ったフォーメーションかもしれない。


 まだ鉄のような臭いがしそうな、血飛沫の残る通路を奥へと進む。

 飛び散った血は既に乾いて黒っぽく変色しており、それらがべっとりと染みついた壁はどことなく水墨画のような姿にも見えた。

「左に分岐。警戒を」

「分かった」

 見えてくるかつての警備員宿舎方向への警戒を促しながら、自分でもそちらに注意を向けて足を緩める。

「来たッ!」

 と、同時に分岐に差し掛かった宮園さんが叫び、即座に90度その襲撃者の方に体を向けた。


 エルフの剣士。あの日と同様真っ赤な目を爛々と輝かせたそれが、相手にバックラーを押し付けるように突き出して飛び込んできた。

 その突撃に、宮園さんは苗刀の峰に手を置いて下から切り上げるような形で受ける。

「シャァ!!」

 気勢と共にバックラーが上に弾かれ、代わりに右手の剣が伸びてくるよりも早く、彼女の苗刀の切っ先が反対に下からエルフの剣士を突き上げている。

 日本刀によく似た形状をしているが、より大型の苗刀。その刃が意思を持っているかのように相手に飛び掛かり、貫く。


 即座に退き抜かれた刃を拭う間もなく、俺たちは更に先へと進んでいく。

「話の通りね、エルフたちが襲って来たって」

「まあな……」

 財団がどこまで公表したのかは分からないが、どうやら彼女たちにも情報が伝わっているようだ。

 そのまま、ソルテさんのいた小部屋の前を通過して緩やかな坂道へ。

「右ッ!」

「おおっ!!」

 今度は反対に宮園さんが俺に叫び、俺が振り向きざまに対処。


 先程とは異なり剣を振り下ろしながら飛び込んできたそのエルフの剣士の一撃を刀身の表=左側で受け止め、即座に左足で一歩踏み込んで、同時に返した刀で奴の右ひじに斬りつける。

「ッ!!?」

 エルフが剣をとり落し、その隙を逃さず奴の腕を越えて喉元を突く。

 こちらも即座に前進を再開することができるぐらいの攻防で仕留める事が出来た。


「二人とも伏せて!」

「「ッ!」」

 と、同時に背後からの声。

 それに反応するのも、これまたほぼ同時。

 前回の戦闘以降何かあったのか、天井の一部に生じた亀裂から染み出るようにこちらの頭上を狙っていたブラックスライムの、そのコアを守るタール状の部分が、有馬さんの矢に宿った光の爆発によって吹き飛んだ。

「よし!」

 落ちてくるのは、半分以上露出した肉塊。

 そのコアを、俺は思い切り踏み潰した。

 守るべき主を失い、ただのタールになって辺りに広がっていく、かつてのブラックスライムの一部。それらを越えて下り坂を降りていく。


 幸い、それ以降敵の待ち伏せと呼べるものには遭遇しなかった。

「っと」

「通さないってことね……!」

 それが次に現れたのは坂道を下り終えた先。

 博士を発見した場所の手前にある分岐だ。ただし、前回は存在した財団のコンテナは全てなくなっており、そのちょっとした広さの分岐点に徘徊騎士が一体、侵入者の存在を予見していたかのように佇んでいた。

「……ッ!!」

 奴が何を思ったのかは分からない。

 だがとりあえず、奴の目当ては俺の方ではなく宮園さんだという事は分かった。


「右手の奥より更に反応が高速接近!」

「!?」

 そのオペレーターの言葉に振り返った瞬間、そいつは飛び込んできた。

 2m近い獣人。鋭い爪の揃った両腕を大きく広げ、その爪が密集しているような牙を見せつけながら俺の方を睨むその生き物は、間違いなく捕食対象としてこちらを見ているようだ。

 ウェアウルフ。この二足歩行の凶暴極まりない人狼は、見た目からも分かる俊足を持って即座に俺の懐に飛び込んだ。


「ちぃっ!」

 奴の爪の一撃を横っ飛びに躱し、その動きに合わせて奴の脛を払う――が、感じたのはゴムのような妙な感触だけ。

「こいつ……!」

 狼らしく体毛に覆われてはいるが、その下の皮膚は相当に分厚く、妙に弾力がある。

 ゴム製の鎧のようなその皮膚を切るのは、恐らく生半可な事ではないだろう。少なくとも、今の攻防で奴の脛に目立った傷はない。


「……まあいい」

 それならそれで、こちらにもやり方がある――多少リスキーなやり方だが。


「ゴオァ!!」

 咆哮をあげて飛び込んでくるウェアウルフ。

 速い――しかし単調な爪の振り下ろし。

「くっ!!」

 単純なスピードでは凄まじいそれも、タイミングと軌道が見えれば回避自体は可能だ。

 そして紙一重で躱した獲物を今度こそ捕えるために、反対の爪が振り下ろされる。

 その一撃を、腰を落として刀身で受ける。爪と爪の間に刀身を差し込むようにして食い止め、即座に右手一本にそちらを任せる。


「ガアァァッ!!」

 獣のそれと分かる臭いを吐き散らしながら咆哮するウェアウルフ。

 獣が故の本能か、目の前にいる相手には牙をむき出しにしたその口でもって噛み砕きにかかる。

「うるせぇっ!!」

 左手で引き抜いたダガーを抜いた形のまま振り上げ、そのまま逆手で振り下ろす――突き出された奴の口のすぐ上にある眼球めがけて。

「ッ!!!」

 奴が怯む。

 目を潰してはいない。だが、切っ先が触れたのは感覚で分かる。

 即座に頭がのけ反り、それに体が続く――逃がす手はない。


「おおおっ!!」

 ダガーを一度手放し、再び両手で刀を握る。

 既に爪は引かれている。つまりこの刃を止めるものはない。

「ッ!!!」

 大きく開かれた口の中は、体のような質感はなく、しっかりと奥まで刃が貫いた。


(つづく)

今日はここまで

続きは明日に

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