ある配信者たちの顛末3
「なんだこいつ!?」
見たことが無いモンスター。
いや、アークドラゴン自体は見たことがあるどころか、ここに運び込むために戦った相手ではある。
だが、一度死んだはずの相手が再び動き出すなど前代未聞だ。
「来ます!」
有馬さんのその言葉と、マナのそれと思しき赤い光が半分ぐらい骨格だけになった奴の口の中に光ったのを見て反射的に横にすっ飛ぶ。
「ッ!!?」
直後放たれるブレス――そうとしか言いようのない放射。
かつてのような熱線ではなく、マナのエネルギーそのものをジェット気流のように放出するそれは、しかし威力の面では生前に決して劣るものではないという事を、深々と削られた地面が物語っている。
「ちぃっ!」
放射を躱し、反射的に目の前にあった奴の前足に斬りつける。
下半身は見えないが、恐らく崖に張り付くような形で体を支えている筈で、そうなればその支柱となっているこの二本の足を切り離せれば、後は重力がどうにかしてくれるだろう――穴だらけでボロボロになった翼が、その見た目通り飛行能力を奪われていればの話だが。
「ッ!!」
奴の杭のような指の一本が、斬りつけられたことに驚いたように崖から離れる。
見た目通り、かつてのような硬さはなく、刃はほとんど抵抗なく腐敗した肉体を通過していった。
「一条さん!!」
有馬さんの叫び声と、こちらを敵と認めたのだろう奴の二つの赤い光点=眼窩の奥のそれがこちらに向けられ、反対側=洞窟の入口に通じる坂道側に一直線。
「くっ!!!」
そのすぐ後ろ、赤い閃光が放たれたのが、視界の隅を赤く染めるその目を焼くようにまばゆい光で分かった。
「うおっ!!?」
加えて襲い掛かる反対側の前足。
どうやって体を固定しているのか、崖っぷちから完全に離れたそれが、平手うちで俺を迎え撃った。
「……ッ!!」
相対速度で迫って来る壁。
例え後ろから光線が迫っていなくとも、その巨大な腕に叩きつけられればそれだけで原形を留めない程のダメージとなるだろう。
「ぐうぅっ!!!」
それに比べれば、飛び込んで岩肌に転がる痛みなど、甘受せねばなるまい。
頭を守り、骨折を恐れて手もつかず、袖口辺りから落ちて肩で転がり、体を丸めて転倒の勢いを受け止めずに可能な限り転がる。
そのまま横に一回転。その受け身の勢いを利用して立ち上がる。
赤い閃光は間一髪のところで俺への追撃を諦めていた。そしてそれ以上にギリギリのところで、槍のような爪が並んだ奴の前足での薙ぎ払いもまた、掠めていったことを知った。
「大丈夫ですか!?」
「ああ、なんとか……」
いくらか痛む箇所はあるが、幸いどこも折れてはいない。
立ち上がった俺と、駆け寄って来た有馬さんの正面=口から硝煙のように赤い煙を吐きながら再度こちらに首を向けるアークドラゴンだったもの。
「!!」
その口内に、いやもっと奥、首より下の胴体に当たる部分からも吐き出された閃光と同じ光が漏れている。
フラッシュバックする記憶=以前ここで猿渡教授に聞かされたアークドラゴンの火炎放射の原理。
曰く、食道に寄り添う形で存在する特有の器官で生成された体液を噴射して、それに着火させている。
通常のドラゴンが可燃性の胃液を逆流させて上下の牙の間で通電させることで着火するのに対して、アークドラゴンは燃焼専用の液体を体内で生成できる。
だとすれば、今奴の体内で、上半身の露出している骨格や、腐肉の隙間から余すことなく噴火のように噴き出しているこの閃光は何だ?
放たれた閃光は明らかに炎や熱線ではない。実際にギリギリの距離で躱している体は、アークドラゴンの熱線が掠めた時のような熱を一切感じていない。
「ッ!!」
その閃光の噴射が更に勢いを増す。
今や体の内側全てが発光しているかのように赤い光を放ち、洞窟全体を赤く照らす如き強烈な光が奴の体から発せられている。
「二人とも聞こえる!?そのモンスターの体内から尋常ではないマナエネルギーを検出!!絶対に避けて!!!」
「了解!」
叫び返し、そしてすぐ隣で弓を構える有馬さんを見た。
「無理だ!」
考えている事は分かる。だが、この状況ではあまりにリスキーすぎる。
何しろあの光は、いつ放たれるか分からない。発射前のチャージ――最初の二回はあったかもしれないそれは、しかし今では最早どれがチャージなのか分からない状態だ。
奴がこちらに向き直る。その時には既に、全身が光の塊と化していた。
「「ッ!!」」
逃げるしかない。反射的にそう判断して彼女も狙撃を中断。
オペレーターから耳を疑う情報がもたらされたのは、そのタイミングだった。
「後方から未確認の反応が接近中!」
そして俺たちの頭上を飛び越えた三日月形の白い光が赤い閃光の塊となったアークドラゴンに叩きつけられたのは、その直後だった。
(つづく)
今日は短め
続きは明日に




