幕間の一幕1
俺たちは島を離れた。
助けてくれた有馬さんと共に、彼女が使っていたゲートまで移動して。
そしてその頃には、博士と鷲塚君は無事に脱出したことをオペレーターから聞かされていた。
「本当に、本当にありがとうございました」
ゲートを通り、行きよりもだいぶ人が――それも、誰でも名前を知っているような向こうの開発に関わっている大企業の関係者やら記者やらが――増えてごった返しているダイブセンターに戻ってから感謝の意を伝える。
「私からも、本当に助かりました。ありがとうございました」
同じように、少し涙を流した跡があるオペレーターも深々と頭を下げた。
俺たちは彼女に大きな借りが出来てしまった。少し恥ずかしそうにかしこまっている当の本人はそんな事は何も言わずにごく普通に分かれたのだが。
「……それにしても」
慌ただしく行きかう連中に目をやる。
各企業の人間は当然だろうが、記者たちも数少ない生存者に一切目を向ける様子はない――それどころか、向こうから返って来た直後の俺たちを見た時に「期待外れ」と露骨に顔に表していたことは分かっている。記者どもの一人がその“期待外れの帰還者たち”を見て舌打ちしたことも、また。
「まあ仕方ないじゃない。私たちより、あっちの方が大ごとだろうし。それより、社長が心配していたから、声を聞かせてあげて」
オペレーターはそう言って俺をなだめ、俺も彼女に従って社長に電話。自らの生存と博士を脱出させたこと、そしてアウロスの候補生に助けられたことを簡潔に報告する。
だが、どうやら博士の件に関しては財団を通して既に連絡があったようだ――財団の研究チームの唯一の生き残りが博士であったという事も、また。
翌日から、世間は大騒ぎだった。
メリン島での一件は向こうで発掘や開発を行っている各社に少なからぬ影響を与えている訳で、当然ながら日本経済そのものの話になって来る以上当然の反応ではある。
あの時メリン島で何が起きていたのか――その事については財団が、同様に異世界の研究をしている海外の機関とも共同で記者会見を開き、それについても騒ぎになっていた。
だが、俺たちについては静かなものだ。
当事者であるはずの――そして、死者・行方不明者を多数で壊滅した警備の、唯一の生還者だった俺についてもその事に変わりはない。
ダンジョンの冒険から、地球と同じくお利口さんの時代だ――あの時の國井さんの言葉が何度も蘇る。
向こうで何をしようと、俺たちはこちらでは決して目立つ存在ではない。
ダンジョン配信は金になる、それはあくまでそれで食っていくことも理論上不可能ではないという意味でしかない。今大騒ぎしているような各企業や、それらについてコメントしている何とかいう大学のお偉い先生や、それが出ている番組を作っているマスメディアにすれば物の数にも入らない。
「まあ……、静かでいいか」
そんな風にごちて、それから普段なら自分のチャンネルの確認に使っているオペレーターのパソコンの前で、俺と彼女と社長とが面を突き合わせる。
画面に映し出されているのは昨日の一件を投稿できなかったために結果として凄まじいチャンスを棒にした我がチャンネル――ではなく、間もなく始まる犬養博士の記者会見の生放送だ。
「昨日の件、もう発表できるんですね……」
画面に博士が登場する前、オペレーターが漏らした。
「まあ、財団も協力関係にあった海外の研究機関や大学も、仮説としては把握していたし、それを信じる者もいたらしいからね。全く想定外って事ではないのだろうな……おっ、始まるぞ!」
それに答えた社長の言葉尻が示すように、画面に現れた博士と、財団の幹部なのだろう俺のよく知らない人物。
最初に色々と挨拶なりなんなりのやり取りが流れ、それから博士にカメラが集中する。
昨日の今日でよくこんな記者会見が出来るものだ――顔に大きな絆創膏を貼られている状態で、多少やつれてはいるものの、驚くべきガッツと言うより他にない。
「ではまず、今回の事故についての経緯をご説明いたします――」
発表については、多くの学術用語やら専門用語やらが含まれており、俺にはよく分からない点も多くあった。この辺はそのうち一般用語で説明してくれる者がネット上に現れたりするのを待つしかあるまい。
――そう思っている事を先読みするように、博士は要約を付け足す。
「簡単に申し上げますと、メガリスを読み解くことで我々はあの島、それだけでなく世界中のゲートと繋がっているあの異世界についてと、その異世界に深くかかわっているインテリジェント・ワンと呼称する存在についてが分かると、その仮説において、メガリスに接触する実験だった訳であります」
事件の前に聞いていた話と大体同じだ。
それを言ってから、博士は一度沈黙した。何かを考えているような、或いは決意するために心を整理しているような沈黙。
それから、自らに向けられたカメラを見据えてはっきりと言葉を発した。
「……この実験は大きな犠牲を支払うこととなりました。しかし現場責任者であった立場から、私は得られた事実を、ここで発表する必要があると考えます。それは極めて荒唐無稽であり、作り話のように聞こえるかもしれません。しかし、我々と、死んでいった多くの仲間たちが掴んだそれは、間違いなく事実なのです」
フラッシュがたかれ、画面が激しく明滅する。
しかし博士は自らに向けられたその無数の光源に一切たじろぐことも怯むこともなく、じっと視聴者の方を見据え、そして言葉を続けた。
「結論から申し上げます。メガリス、そしてホーソッグ島を始めとした世界中の異世界。それらは全て、インテリジェント・ワンと呼ばれる存在が生み出した……兵器とその工場であります」
(つづく)
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