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ある出戻り配信者の顛末  作者: 九木圭人
インテリジェント・ワン
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インテリジェント・ワン25

 聞き間違いではない。

 その声、その名前。間違いない。

「聞こえた?」

 聞き逃すはずもない。

「ああ……ああ聞こえた!」

 敵は未だに迫ってきている。このままでは間もなく包囲されるだろう。

 だが、何とか切り抜ける希望が見えてきた。


「ギィィィッ!!」

 そこで一度中断。まさにその包囲の尖兵になるゴブリンが二体、俺の左右後方から躍りかかる。

「ッ!!」

 イージス未だ健在。

 振り向きざまに左の相手を逆袈裟に斬り捨て、その勢いのままに一歩左に動いて右の振り下ろしを躱して振り下ろす一撃で仕留める。

「彼女に繋げられる?」

「待って……、よし。大丈夫」

 オペレーターの返事を待ってから口を開く。

「こちら(株)植村企画、潜り屋一条です。有馬さん。ありがとう。助かります」

「オペレーターの宍戸です。私からも救援ありがとうございます」

 久しぶりに聞いた気がする相手の声に、心からの感謝を。

 それに返って来た答えは、心強さを感じる頼もしいものだった。

「一条さん!まだ無事ですか!?」

「今のところは」

「了解です!今島の入口にかかる橋に向かっています!もう少し耐えてください!」

「了解。こちらも入口に向かい脱出を開始します」

 答えながら体は既に駆け出している。

 イージスが伝えてくる情報はその方向の敵は決して少なくないと伝えているが、それだとしても足を止める理由にはならない。第一、空からの脱出が不可能になった以上他に手はないのだ。


「……ッ!」

 洞窟の方へ戻る道に差し掛かり、即座に視認する先程の巨大な竿状武器を携えた別の一隊。

 光線を放つあの竿を抱えたエルフを中心に組まれた、エルフたちの部隊が、二頭のバーゲストに率いられてこちらに向かってくる。

 咄嗟に身を翻して民家の焼け跡の陰に身を潜める。

 木製と思われる部分はほぼ全て焼け落ちてしまっているが、それでも石造りの壁はまだ往時の姿を留め、凄まじい熱を持っていて、近くによるだけでも痛い程の熱さがあるものの、遮蔽物として使えないことはない。


「グォォォッ!!」

 その壁の後ろに俺がいるのをその嗅覚でもって悟ったか、バーゲストがうなりを上げながら飛び込んでくる。

「ッ!」

 奴が人の背丈ほどの石壁を飛び越えるのにタイミングを合わせて後ろに跳び下がり、左籠手に仕込んだ棒手裏剣を投げ込む。

「ギャンッ!!」

 飛び越える瞬間に晒した腹に突き刺さったそれに一匹が絶叫して転がり、そのすぐ後ろから飛び越えたもう一匹が牙をむき出しにして飛び込んでくる。

「っと!」

 慌てず左籠手でその牙を受け止め、右手で引き抜いたダガーを、その首の下にアッパーを叩き込むようにして何度も突き立てる。

 三度目で牙が力を失ったのを感じて死体を振り払うと俺の居場所を悟ったエルフの砲手があの竿を構えるのを感知して、道を挟んだ反対側の民家の陰に向かって一気に駆け出す。

 道を横断する瞬間にエルフたちの前に身を晒すが、構う事はない。そのまま駆け抜けて照準の修正と、その切り札を守るためにエルフ兵たちが前を固めるのを強いておき、それから再び飛び出す――もう一発残っていたショックウェーブ弾を手に。


「おらッ!!」

 放り、元の石壁の後ろに戻る。直後に響き渡る炸裂音。

 そして直視していればまず間違いなく目をやられただろう閃光が、石壁に遮られたこの辺りすらも昼間のように照らし出す。

「巨大なマナの爆発を検知!一条君!!?」

「大丈夫だ。まだ生きている」

 光が落ち着いたところで顔を出す。先程までエルフたちが陣取っていた辺りに、もう彼らの姿はなかった。

 彼らどころか、周囲に存在したはずの民家や倉庫や、それらの境界線代わりのように植えられていた樹木の類が全て消え去って、真新しい更地以外の何も残ってはいなかった。

 そしてイージスの反応が教えてくれる。奴らのすぐ後方にいた部隊もそれによって巻き込まれて消えたという事を。


「危なかったが……」

 この石壁があと少しでも強度が足りなければ、俺も彼らと一緒に消し飛んでいたかもしれない。そう思うと、石焼きいものような状態にあるにも関わらず冷たいものが背中を走っていく。

 ともあれ、これで少しは楽が出来る。頭を切り替えてその更地を駆け抜けていくと、ちょうどそこを抜ける辺りで再び通信が入った。

「こちら有馬です。橋が見えましたが……門が閉鎖されています。外に門番は見えませんが、中の様子が分かりません。トラバンドを飛ばして確認しますのでお待ちください」

 門が閉鎖されていて、この騒ぎにも関わらず外に門番がいない。

 まさか門前が無人と言う事はないだろう。つまり門番は逃げたのではなく内側にいるという事。

 そしてそれは外からの侵入よりも、内側にいる敵を出さないようにするという事を意味している。

 脱出するための最後の関門だろう――俺一人ならば。


「……確認しました。門の内側にバリケードと見張りが複数。……私の能力で門を爆破します」

 だが外に味方がいるのなら別だ。

「あ、待って」

 だが、そこでオペレーターが待ったをかけた。

「一度生存者がいないか呼びかけます。それまで少し待機を。一条君もまだ門には近づかないで」

「了解した」

 答えながらしかし足は止めない。爆破するにせよ、生存者が発見された場合に救出するにせよ、安全な距離を維持するのは大前提としても近くにいた方が対処しやすい。

 再び洞窟の前に戻り、門の方向に続く道に向かって左折したところで、公開チャンネルにオペレーターの声が響く。

「まもなく正門への爆撃が行われます。この通信を聞くことが出来て返答できる者は現在位置と置かれている状況を伝えてください。繰り返します。まもなく正門への爆撃が行われます。この通信を聞くことが出来て返答できる者は現在位置と置かれている状況を伝えてください。繰り返します――」

 公開チャンネルで行われたオペレーターの呼びかけは、俺が門に向かう途中の少し開けた広場のような場所に出るまで行われた。


「……返答無し。有馬さん。爆破をお願いします」

 俺たちの内側での通信。そして即座に返ってくる有馬さんの返答もまた、公開チャンネルで行われた。

「これより正門を爆破。周辺の障害を破壊します。付近にいる方は地面に伏せて衝撃と飛来物に備えてください。繰り返します。これより正門を爆破。周囲の障害を破壊します――」

 合わせて俺も進行を止める。

 爆発に備えて。そして、そんな事は全く知らぬと広場に展開してこちらを食い止めようとする大群と対峙するために。


(つづく)

今日はここまで

続きは明日に

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