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ある出戻り配信者の顛末  作者: 九木圭人
インテリジェント・ワン
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インテリジェント・ワン24

 私、佐々木晴香はごく普通の家庭で育った。

 いや、多分ごく普通というのには少し語弊があるのだろう。普通は祖父から古流弓術など習わないだろうし。

 ただ、総合してみれば多分、普通の方に属していただろうと思う。

 私と両親と祖父の四人。ごく普通の平和な家庭。

 それが一夜のうちに失われたあの火災について、今日までフラッシュバックを起こさないでいられたのはきっと、それ以降の暮らしがそれどころではなかったからだろう。

 ――お父さん!お母さん!!

 ――下がりなさい!これ以上は……。

 ――焼け跡からは佐々木さん夫妻とみられる焼死体が発見され……。


 老衰で祖父を喪って一年も経たないうちに、私は両親と家庭も失った。

 身寄りのなくなった私を引き取ったのは唯一残されていた親戚だった叔母夫婦。若い頃から厄介ごとばかり起こして、遂に実家=祖父母の財産に手を付けようとして追い出されたというその叔母夫婦が、どうしてか私の前に現れて引き取ると言い出した。


 助かったのは事実だ。お陰で屋根のある家に住むことになったのだから。

 助かったのはそこまでだ。その日以降、私がそれまで通りの暮らしを、つまり普通の女子高生としての暮らしをすることが出来たのは、多分両手で数える必要もない日数だろう。

 どこで知ったのか、我が家にちょっとした祖父の遺産があることを嗅ぎつけた叔母夫婦は私を引き取るとそれを管理するという名目で取り上げ、それすら足りなかったのだろう――夫婦そろって定職にもつかずに酒とギャンブルに溺れ、夫という人は時折薬物にも手を出していたのだから、仮に油田があっても足りなかっただろうけど。


 彼等は遺産を奪うと、用済みとなった私にはひたすら生活費の工面だけに集中させた。

 学校は中退した。朝も昼もなくひたすらアルバイト漬けだった。

 それでようやく得た賃金も瞬く間に浪費されていき、残るのは金の無心と暴力。

 二人が唯一私に認めたのは、このダンジョン配信者という仕事。

 配信者は金になる。一攫千金を狙える――どこで聞きつけたのか、そんな話を鵜呑みにして勝手にアウロスに応募し、そして今に至る。


 だけど、これについては私にもメリットがあった。

 結果として私は有馬玄になれたのだから。母方の旧姓と、祖父の玄平という名前から一字を拝借してつけた芸名の、悲惨な佐々木晴香ではない人物に、叔母夫婦に殴られたり高校を中退させられたり体を売ることを強要されて、それから逃れるために寝る間を惜しんであらゆるバイトに明け暮れる人生とは無縁の何者かになれるから。


 だから、私は没頭した。佐々木晴香(現実)とは無関係の有馬玄(ダンジョン配信)に。


「こちら(株)植村企画オペレーター!現在メリン島内の集落で戦闘が発生!至急救援を!!」

 なのに、絶え間なく聞こえてくる悲痛な叫びは、私を呼び戻した。

 赤々と燃える目の前の光景は、あの日の、幸せの終わりに私を連れ戻した。

「……ぁ、ぁ」

 喉が震えている。

 声が声にならず、ただの音だけが漏れ出し続ける。

「こちら(株)植村企画オペレーター!現在メリン島内の集落で戦闘が発生!至急救援を!!」

 ――お父さん!!お母さん!!

 ――助けてください!!!中にまだいるんです!!!中にみんないるんです!!!!

 戻らなければいけない。

 上にメリン島への侵入許可を得ていない。

 勝手な真似をすれば、最悪違約金や活動自粛、更には契約解除だってあり得る。

 ただでさえこのところ大きな案件が立ち消えになってしまっているのだ。ここでようやく手に入れた有馬玄という立場を捨てる事なんてできない。

 そんな事は百も承知だ。


「……こちらアウロスフロンティア有馬玄――」

 声の震えを何とかかき消す。

「現在メリン島近くで行動中。これより救援に向かいます」




※   ※   ※




 鷲塚君が飛び去っていく。

 彼がぐんぐんと小さくなっていくのを見送る。

「さて……」

 残っているのは俺の脱出――どれほどいるのか分からない敵を掻い潜っての。

「オペレーター、救援は?」

「現在呼びかけを……待って!」

 その声の弾み方が何を意味するのか、俺の頭が理解するより先に、彼女が自らの聞こえているものを俺にも聞かせた。

「……こちらアウロスフロンティア有馬玄。現在メリン島近くで行動中。これより救援に向かいます」


(つづく)

今日は短め

続きは明日に

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