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ある出戻り配信者の顛末  作者: 九木圭人
インテリジェント・ワン
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インテリジェント・ワン23

 信じたくはない。

 だが、イージスの算出するシミュレーションは、俺の本来の足りない頭での感情込みの計算などとは比べるべくもない。

 ならばどうするか?今回優先するべきは博士を無事に脱出させることだ。


「……」

 ほんの一瞬、時間にしておよそ一秒の百分の一に満たないだろう空白=俺の葛藤。

「行け!飛べ!!」

 その次の瞬間には、俺は鷲塚君に叫んでいた。

「鷲塚君!!飛べ!!飛ぶんだ!!!」

「え、でも――」

「いいから行け!!!置いていけ!!!!」

 俺も一緒に脱出できれば言う事はない。

 だが、頭に浮かぶのはあの洞窟の中の光景。

 大勢死んだ。八島のスタッフも、集落のエルフたちも、ソルテさんや、博士以外の財団の人間も恐らく。

 彼等の中での数少ない生き残り、ようやく見つけた生き残り。

 國井さんが、自らの命を(なげう)ってでも逃がしてくれた、繋いでくれた命。それを、俺一人のせいで無駄には出来ない。


 死ぬことが怖くないなんて言わない。

 ただ、俺が他人の努力を台無しにすることもまた怖い。

「飛ぶんだ!!!もう時間が無い!!!!」

 だから、その叫びは本当に心の奥底から発せられたものだった。


 風がここまで届く。

 流石にもう充分に距離があるため、精々そよ風程度ではあるが、間違いなく鷲塚君が浮上した時のそれが頬を撫でる。

「……っと」

 バーゲストの死体から、串刺しにした刀を引き抜く。

 風がやみ、博士を乗せた鷲塚君が夜空に浮かんでいく。その高度の上昇に追いつけないのだろう、数本の矢が巨鳥の遥か下を飛んでいく。


「一条君!!どうして――」

 オペレーターの声。

 多分、彼女だって理由は分かっている。

 彼女からは、周囲の敵影も見えているのだろうし、その状況で奇跡にすがるような真似は意味がないという事だって承知の上だろう。

「今飛ばさなければ間に合わない」

 だから、俺が言えるのはそれだけだ。

「引き続き救援要請を続けてくれ」

 返事はない。だが、通信は繋がっている。

 ただひきつけを起こしたような、ひゅっ、という音が聞こえてきた。

「……済まない」

 手間をかける。

 或いは、無駄になるかもしれない。


「……了解」

 返って来たその声は、何かを苦労して飲み込んだような苦しそうなものだった。




※   ※   ※




 暗闇の中を進んで、どれぐらいの時間が経っただろう。

 ナイトハイク=夜間のダンジョン探索は危険。アリアさんに言われたことを決して軽んじるつもりはないし、実際に数回戦闘になったりモンスターと遭遇したのは事実だ。

 だが同時に東レテの時よりもその北東部の森林の辺りはモンスターとの遭遇率は低いというのもまた事実だった。


「……」

 安全のためには喜ばしいだろう。

 初めての夜の探索。そこで突然予期しない事態に遭遇してそのまま……などという事態はシャレにならない。

 だが、残念ながら夜の森を歩くだけでは撮れ高という意味ではあまりよろしくはない。

 何とかして数字を稼げるようなものが無ければならない。そうでなければ、あの人たちにこれが収入になると証明できなくなる。

 多少の危険は承知の上で、それを覚悟して来たのだ。

 私が配信業を続けるために。配信者でいられるために。

 私が有馬玄でいられるために。


 と、その時だ。こちらに気付いていない極めて貴重なモンスター、メイジゴブリンの一隊が森の奥を歩いているのが見えた。

「ッ!!」

 メイジゴブリンは目撃例の少ないモンスターだ。その戦闘ともなれば、映像に価値があるのは事実だろう。

「……ら……植村……!現在……集落内で……生!至急……!!」

「えっ」

 千載一遇のチャンス到来。逃がす手はない。その思考を中断させたのは、聞き覚えのある声による途切れ途切れの通信だった。

「なに……?」

 良く聞こえない。どうやら何か切迫した様子だという事だけは伝わってくるが、詳細は不明だ。

「……」

 だが、その声を無下にすることはどうしても出来なかった。

 自分の大切な何かが失われようとしている時に、誰かに助けを求める以外に何もできない者の声――忘れたくても忘れられない、身に覚えのある声。

 少しでも聞き取れるように辺りを動き回るが、音質に変化はない。

 この森のせいか――そう判断して森を抜けるように動き始める。


「こちら(株)植村企画……!現在メリン島……で戦闘……!至急……!!」

 間違いない。植村企画だ。これまで何度か一緒になったあの人たちだ。

 そして聞こえてくるのは向こうのオペレーターだった人。確か宍戸さん。

 だがその声は、私の記憶にある落ち着いたそれではなく、明らかに狼狽して、泣きだすのを何とかこらえているような、そんな声。

「こちら(株)植村企画オペレーター!現在メリン島内の集落で戦闘が発生!至急救援を!!」

 その救援要請がクリアに聞こえるようになったのと、森を抜けてその光景が目に飛び込んでくるのは同時だった。

「あ……」

 声が漏れた。

 メリン島。この森のすぐ近く、エルフの集落があるというそのホーソッグ島から僅かに離れた小島は、夜空を赤々と照らして燃え盛っていた。

 ごうごうと音が聞こえてくるぐらいの凄まじい火の手。空も燃やすぐらいに島全体を明るく照らす程の凄まじい炎。

 ――それは、二年前の私の見た、全てを奪っていく炎と全く同じだった。


「ぁ……」

 あの日が蘇った。

 ごく普通の家庭が、ごく普通のお父さんとお母さんとおじいちゃんと私の家。

 それが目の前で、私以外の全てを包んで燃えていく。

 ここは異世界だ。ダンジョンだ。ホーソッグ島だ。燃えているのは私の家ではなくメリン島のエルフの集落だ。

 でも、私の前に見えているのは、二年前の私の家。

 たった一人生き延びた、どうする事も出来ない私の前で、炎に包まれ消えていく私の全てだった。


「こちら(株)植村企画オペレーター!現在メリン島内の集落で戦闘が発生!至急救援を!!」

 その叫び声が遠くから響くサイレンに変わっていく。

「どうして……」

 漏れた言葉は、あの時と同じ物だった。


(つづく)

今日はここまで

続きは明日に

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