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ある出戻り配信者の顛末  作者: 九木圭人
インテリジェント・ワン
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インテリジェント・ワン20

「ッ!」

 突っ込んでくるゴブリンのうち先頭の一体に棒手裏剣を投げつける。

 流石にそれだけでどうにかなることもなく、そいつは棍棒を盾にして受け止めると、そのまま勢いを弱まらせることもなく突っ込んでくる。


「なら……っ」

 こちらも応戦して駆け出す。

 棍棒を振り上げるゴブリン達に脇構えで駆け、距離を詰めていく。

 リーチの差を活かした攻撃。先頭の奴が振り下ろす瞬間に横にすっ飛びざま、その胴を払う。

「ギッ――」

 振り向きざま、返す刀でもう一体を斬り捨てる。

「うおおおっ!!」

 と、同時に気勢。

 その声に反射的に振り返ると、近くに転がっていたスコップを掴んだ鷲塚君が、それでゴブリンに打ちかかっていくところだった。


「ギッ」

 だが、ゴブリンも黙って殴られてはくれない。

 棍棒でそれを受け止めると、反撃のチャンスを伺いながら鍔競り合いの形に持っていく。

 当然、逃がす手はない。残るゴブリンはこいつ一体。数で劣る側が鍔競り合いに持ち込むのは自殺行為。

 目の前の相手に集中しているのか、何とか優位に立とうと押し込んでいくゴブリンの、そのがら空きの背中を袈裟懸けに斬って捨てる。

「ギュギッ!?」

 最後のゴブリンが倒れる。

 同時に鷲塚君の手からもスコップが落ちる。

 どうやら戦闘はあまり得意ではないらしい。


「た、助かった……」

 改めて周囲を確認。どうやら他にモンスターはいないようだ。

 それを確かめてから腰が抜けそうになっている彼の方に向き直る。

「ここで鳥になってくれないか。空から脱出できるはずだ」

 だが、俺の言葉に辺りを伺っていた鷲塚君は小さく首を横に振った。

「ここじゃ駄目です。羽を広げるのには狭すぎる」

 言われて気が付く。

 確かに面積自体は広いのかもしれないが、あくまで人間目線での話だ。

 変身後の彼の姿=アークドラゴン並の巨体が羽ばたくには、瓦礫や炎がそこら中にあるこの場所は、とてもではないが適さないのだろう。


「だが……」

 だとしたらどこに?

 辺りに首を巡らせる。正面に進めば朝入って来た門に通じているが、そこまでは一本道だ。

 敵がいた場合迂回はまず不可能だし、門まで向かう途中にはいくつか広場のような場所はあるが、あそこだって広さで言えば微妙なところだ。加えて、そこに全く破壊が及んでいないなどとは、仮定としても楽観論が過ぎるだろう。

 続いて右手側。海水ろ過装置のある区画。

 こちらも開けた場所はあったはずだ――だが、そこに至る道が燃え盛る資材や倒木で封鎖されてしまっている以上どうしようもない。

「なら……」

 消去法で左手側。エルフたちの住宅街と呼ぶべき区画。エルフが他のモンスターと同様に見境なく襲い掛かって来る以上、その住処に足を踏み入れるのは危険だが……。

「いや……」

 だが、十分な広さのある運動場があるのはこちらだ。あそこを確保して鷲塚君に変身してもらえば、空からの脱出も可能だろう。少なくとも、戦闘では頼れない同行者二人を守りながら門までたどり着くよりは確率が高いはずだ。


「よし、こっちだ!」

 なら決まり。俺は燃え盛る家と家の間に挟まれた左手の道を示し、自ら先頭に立ってそちらへと駆け出した。

「オペレーター!救援は!?」

「現在呼びかけを続けていますが、管理機構は近くに投入できる戦力がいないとのこと。引き続き周囲の配信者にも救援要請を続けます!」

 どうやら尚更成功させなければならなそうだ。

 俺たちが生きていられるようにあらゆる手段を用いる事は無論だが、それでも孤立無援では限度がある。その状況で近くに味方がいないとなれば、生きていられるうちに外から救援が来る可能性は捨てた方がいいだろう。

「了解だ。変身能力を持つ配信者と合流した。空から脱出を試みる」

 そう叫んでいる間にも、痛い程の熱を感じながら燃え盛る家の間を駆け抜けた瞬間、襲い掛かって来たエルフの剣士と鍔競り合いに持ち込み、即座に蹴って剥がす。

「!?」

 即座に正面から駆けてくる足音。エルフやゴブリンのそれではない。


「ちぃっ!」

「自分が!!」

 意外な反応というべきだろうか。

 同じ物を見た鷲塚君が俺の背後を通り抜けて、その足音の方へと向かう。

「あっ、おい――」

 呼びかけようとして、すぐに中断。体勢を整えたエルフの剣士が斬りかかって来るのを何とか捌いて前のめりに崩し、盾を持っている方の腕を掴んで突き飛ばす。

「ッ!」

 再びバランスを崩す相手。

 そのがら空きになった腎臓の辺り――エルフにその器官があるのかは不明だが――を鍔元まで刃が沈むように貫く。

 奴が崩れ落ちるのを確かめてから振り返る。

「うおおおおお!!!」

 鷲塚君の叫び声。

 そしてこっちまで到達した突風。


「ッ!?」

 思わず目を細めたそれはしかし、彼の生み出した風の余波でしかないと言う事はすぐに分かった。

「ギャイン!!」

 耳障りな叫びをあげ、バーゲストが一匹、来た方向に吹き飛ばされていく。

「おお……」

 思わず声が漏れる。

「はあ……はあ……」

 荒い息遣いと共に振り抜いた己の腕を確かめる鷲塚君。

 巨鳥への変身能力の応用か、彼が振り抜いた右腕は、ハーピィのように肩から先が鳥のそれに代わっていた。

 その羽ばたきによる凄まじい威力の突風。あの巨鳥状態でなくとも、その羽ばたきの威力を局所的にもたらすことは可能なようだった。


「ナイス」

 吹き飛ばされたバーゲストたちは戻ってこない。

 諦めて去ったのか、或いは岩にでも叩きつけられて死んだのか。

 どちらにせよ、とりあえずの危機は去った。

「へへ……やった……うっ」

 俺に少しだけ笑いかけ、鷲塚君は膝をつく。

「やっぱり……人間状態でやるのは無理か……」

「無理って……もしかして今ので――」

 皆まで言わなくても分かっている――そう言うように、鷲塚君は人間の方の手を挙げて制した。

「大丈夫です。まだちゃんと飛べるはず……」

 そう言って立ち上がると、大きく深呼吸をする。


「この先、運動場ありましたよね……」

「ああ、そこに向かおう」

 幸い周囲に敵はいない。

 だが、今ので改めて確信した。襲撃を受けた場合に戦力になるのは俺だけだ。


「……イージス起動」

 なら、敵の位置を全て把握しておく必要がある。不要な戦闘を避けるために。避けられない場合確実に先手を取って反撃を受ける可能性を最小に抑えられるように。


(つづく)

今日はここまで

続きは明日に

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