インテリジェント・ワン19
博士を後ろに、洞窟へ向かって通路を進む。
「!?」
出口に差し掛かり、アークドラゴンの死体が保管されている竪穴との分岐が見えてきたところで、倒れ伏している人物の姿が見えた。
どうやらまだ息はあるようだが、如何せん全身に負傷した状態では立ち上がることも出来ないでいるようだ。
そしてその姿は、俺のすぐ後ろにいた博士にも見えていた。
「鷲塚君!」
その呼びかけで、俺も彼が何者なのかを理解した。
あの時、アークドラゴンをここまで運んでくれた人物。巨大な鳥に変身する能力を活かし、あの巨竜の空輸を受け持った青年だった。
「ぁ……ぅ……」
倒れている彼に駆け寄る。
まだ息はあるが、全身に負った傷は決して浅いものではないということは一目で分かった。
「ッ!」
そしてその彼の頭上に展開する数匹の犬コウモリ。
その名の示す通り犬のような頭部を持つそのモンスターは、むき出しの牙を光らせて彼の上をぐるぐると旋回している。
「ちぃっ……!」
その犬コウモリたちに剣を振るが、当然のように当たることはない。
ただでさえ空中を飛び回っているのに加えて本物のコウモリ同様超音波で周囲を把握できるこのモンスターには、地上で剣を振り回しても威嚇以上の意味はない。
だが、それをすることに全く意味が無かった訳ではない。
「!!?」
その動きの最中に見えたもの=竪穴の壁が、日中と異なり黒く覆われている。
何らかのシートで覆った――最初の一瞬だけはその考えが頭に浮かびそうになったが、正体を見た視覚情報が即座に脳内のその仮説を塗りつぶす。
「なんて数だ……!」
黒く見えたのは、全て犬コウモリだ。
竪穴の壁一面にびっしりと、岩肌全てを覆い尽くすぐらいに大量の犬コウモリ。
そしてそいつらのうちの数匹――いや、数十匹か数百匹かが、仲間の超音波でこちらの存在を察知したのか、その牙をこちらに向けて唸る。
そのまさに猛犬のような唸りの合唱は、まるで洞窟自体が声を発しているかのように不気味に響いていた。
「クソッ!!」
直感:このまま放置すれば倒れている鷲塚君を助け出そうが見捨てようが、生きてこの洞窟を出ることは出来ない。
そう判断したのと、手がポーチに伸びるのとはほぼ同時。
ショックウェーブ弾のピンを抜いて、洞窟に向かって放るのにも一切迷いはなかった。
緩い放物線を描いたそれが足元より下に消える。そして直後に、犬コウモリたちが一斉に飛び立つ――いや、飛び立ったのは一番上にいたごく少数だ。大多数は洞窟内で発生し、自分たちとその下の岩肌に反射して対面の仲間を襲う衝撃波に吹き上げられただけ。
その証拠に、バラバラになったそれらが黒い滝のように洞窟の中に落ちていくのが見える。
「よし、逃げよう!」
そう言って振り向いた先=倒れている鷲塚君の手が伸びている、恐らく彼の装備だったのだろうリュックサックと、そこからこぼれている未開封のLIFE RECOVERYのパック。
「ほら、これで――」
それの端を引きちぎって、彼の口にねじ込む。
「ぅ……」
生気の失われた二つの瞳が俺を見上げる。
間に合わなかったか――いや、大丈夫だ。喉は確かに動いている。真っ白になった中性的な顔に血の気が戻ってきている。
「よし、立てるな。逃げよう」
それだけ言って空になった容器を投げ捨て、彼を立たせる。
「能力で変身してここから脱出させてくれないか」
それだけ言って、返事も待たずに俺たちは動き出す。
自分の身に何が起きて、俺たちが何をしたのかは彼も分かっているようだ。
まだ返事をする余裕はないようだが、博士の後ろについて、犬コウモリがぎゃあぎゃあと騒ぐのを尻目に洞窟を駆け上がっていく。
「よし、出口だ!!」
目の前に見える外の世界。
しかし、そこが決して無事ではないという事は、ここからでも見える奇妙なまでの明るさが、そしてその正体が燃え上がる炎であると伝えてくる視界が教えてくれた。
だが、だからと言って外に出ない訳にはいかない。
念のため中から見える範囲で敵がいないことを確かめて飛び出すと、そこは日中とは一変した混乱のただ中だった。
「おお……」
博士が声を漏らす。
それは当然、感心の声ではない。
圧倒的な破壊=家々が燃やされ、木々がなぎ倒され、道端に敵味方の区別なく死体の山が築かれる――その光景を前にして最初に出来ることは、恐怖に泣きわめくことでも驚きに叫ぶことでもない。ただよく分からない音を漏らして立ち尽くすだけだ。
「ッ!!」
だが、そうしてばかりもいられない。ここから一刻も早く脱出しなければ。
「下がって!」
それに、その死体の山の向こうからこっちに突っ込んでくるゴブリン達を何とかしなければ。
(つづく)
今日は短め
続きは明日に




