表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ある出戻り配信者の顛末  作者: 九木圭人
インテリジェント・ワン
107/169

インテリジェント・ワン18

「國井さん!?」

「そっちの三体は……なんとか捌いてくれ。そいつらは搦手には弱い」

 彼の背中への呼びかけは、決してそういう意味での呼びかけではなかったのだが、返って来たのは本来の意味とは異なる方の回答。


「その数相手では――」

「誰かが止めなきゃ追いつかれるだろうし、何より外にあふれ出る」

 そう言って振り向いた彼の表情は、少しだけ笑っていた。

 仕方のないトラブルに見舞われた時のような笑顔。しかし直後に歯を見せたそれは、どこか状況を楽しんでいるようにさえ思えるものだった。


「救出するべき友軍はもういない。それに……、楽しいうちが、終わらせるにはいい潮時だ」

 ダンジョンの冒険から、地球と同じくお利口さんの時代――日中、そう言った時の彼の表情を思い出す。

 まだ新しい記憶の中のそれとは対照的な、ギラギラした期待に満ちた目。

 それを言われてそれ以上何も言えなかったのは、単に彼の足止めが生存に必要だったからか、それとも、俺が彼のその笑顔の意味を、そしてそこに至るまでの心情を何となく想像できてしまったからか。

 ――彼にはそれさえ分かっているのだろう。俺にもう一度笑いかけたその表情は、無言のまま「お前なら分かるだろう?」と呼び掛けているように思えた。


「……それじゃあ、後は頼む」

 彼は一人駆けていく。無数のモンスターの群れの中へ。

 ――ああ、そうだ。俺だって何となく分かるさ。あんたが何をしたいのか、何がしたくてここに来たのか、そして何が出来なくなる未来を考えてこんな幕引きを受け入れたのか。


「……行きましょう!」

 だから、俺は博士を連れて逃げる。彼の最後の花道を邪魔してはならない。

 徘徊騎士が三体、俺たちを包囲するようにゆっくりと押し包んでくる。連中の構えは全員同じく盾を正面に構えて、その横から剣に切っ先をこちらに突き出すように構え、お互いがお互いをカバーできるような距離を維持しながら間合を詰めてくる。

「なら……」

 あいつらは搦手に弱い――今しがた別れた男の遺言に従う。

 ポーチから取り出したのは切り札のショックウェーブ弾――ではなく、その横に何かの備えとして一発持ち込んでいた幻惑ガス弾。

 ショックウェーブ弾と同様に手榴弾方式のこれは、マナ技術を応用して吸い込んだ者にしばらく幻影を見せることができる。自分や味方を巻き込む危険もあるが、上手く使えれば危機を脱するには非常に有用な武器だ。


 それを手に握り、正面の騎士たちから目をそらさずにピンを抜く。

「連中の横を通り抜けます。合図したら伏せて、息を止めてください」

 そのまま博士にそれだけ伝え、じりじりとにじり寄る騎士たちの頭上を狙ってそれを投擲。

「伏せて!」

 同時に叫び、それに従った博士に覆いかぶさるようにして俺も伏せる。

 直後に軽い炸裂音。ポン、というその効果からするとあまりに小さなそれを合図に頭を上げると、ピンク色に着色されたガスが勢いよく広がって、状況を飲み込めないでいる三体の徘徊騎士を飲み込んでいくところだった。


「起きて、走って!」

 博士に叫びながら先頭に立って走り出し、同時に息を止める。

 走り出しと言っても、後ろに博士が続くことを忘れてはいない。しっかりと彼が追い付ける速度に抑えて、かつ今も自分たちにしか見えない敵に慄いて虚空に剣を振るう徘徊騎士たちと万が一にも接触しないように十分な距離をとってその横を駆け抜ける。

「……ッ!!」

 まだ残るピンクの煙を突き抜け、先程通って来た道を逆戻り。坂道に差し掛かったところで背後にいた博士を振り返る。

「息をしても大丈夫です。急ぎましょう」

「わ、分かった」

 幻惑ガスはまだ十分に効果を発揮しているだろう。今のうちにこの坂を駆け上がり、可能なら洞窟からも脱出したい。


「ちぃっ……!」

 だが、そうそう簡単に行くかとばかりに、先程は無事通過したこの上り坂にも、今はモンスターが降りてくる。

「どけ!!」

 叫びながら刀を肩に担いで突進。

 同じくこちらを排除するべく突撃してくるゴブリンの一隊とぶつかり合う。

「シャァッ!!」

 リーチの差、そして高低差を活かして狙うはゴブリン達の下半身。

 より高い場所にいて、なおかつリーチに劣るのにも関わらず棍棒を振り上げたゴブリン達では対処が間に合わない。

「ギッ!」

 先頭の奴の膝よりやや上を切り裂いてすっ転ばせ、すぐに飛び下がってその横の敵の振り下ろしを躱すと、足を大きく開いて上体を低く落としながら棍棒を振り下ろした直後の手首を切り上げる。

「ギィッ!!」

 片手を失って絶叫するそいつの後ろに回り込むように坂を駆け上がり、残る一体へと迫ると、奴は何とか斬られた仲間を避けて正対しようとする。

 が、その時にはこちらが高い位置にいる。

 奴が棍棒を横に振り抜いたその攻撃も、リーチと高低差があれば簡単には当たらない。

 一度空振りしたそれを再度引き戻しての一撃――軌道の読めたその棍棒を踏みつけて止める。


「ギャッ――」

 ゴブリンが叫び、その場に這いつくばるようにこける。

 後はその首に、逆手に持った刀を突き立てるだけ。

 坂の上に一瞬目を向ける。他に降りてくる奴は見えない。

「よし、博士。こちらへ!」

 障害を排除して進み、進んではまた障害を排除。非戦闘員を連れている以上、これを繰り返して進むことになる。


「一条君聞こえる?」

「ああ、聞こえている」

 上り坂が終わりに近づき、ソルテさんの眠る小部屋が見えてきた辺りでオペレーターの通信が呼びかけてきた。

「今、管理機構に通報を入れた。それと周辺に救援要請を続けている。救援が必ず来る。それまで何とか持ちこたえて!」

「了解。もうすぐ洞窟を――」

 言いかけたところで言葉を切る。

 ソルテさんのいる部屋を塞ぐように陣取るブラックスライムが、検問のようにその触手を伸ばしてゆく手を阻もうとしている。

「どけっ!!」

 その触手を俺の方に向けた瞬間に先端を切り落とし、一気に坂を駆け上って奴を下から突き上げ、切り上げる。

 斥力場生成ブレードがタール状の部分を弾き飛ばし、一瞬露になる中枢の肉塊。なんとなく心臓のように見えるその脈動に、タールを切り抜けた刀を返して斬りつける。

 それまで意思を持っていたような触手が、唐突に重力に全面降伏して坂を流れ落ちていく。


「――すまない途切れた。もうすぐ洞窟を抜ける。博士も無事だ。俺たちの他に生存者は?」

「今探しているわ。何か分かり次第伝える」

「了解した。よろしく」

「……どうか無事で」

 通信を終える。

 目の前の最後の直線を抜ければ、後はもう洞窟だ。


(つづく)

今日はここまで

続きは明日に

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ