インテリジェント・ワン14
血液が熱せられる感覚。
四肢をはじめ、指の先端まで熱が行き渡る感覚。
ゴブリンの津波めがけて、一発の弾丸になったように俺は突入する。
「おおおっ!!」
得物を八相に構え、最も近くにいる連中の切り込み隊長を一刀のもとに切って捨てる。
その斬撃が奴の体から離れた瞬間、体ごと左へ跳ぶ。
右の踏込みで斬りつけ、左足で更に一歩踏み込むようにして跳び離れたその先=切り込み隊長に加勢しようとしたもう一体のゴブリン。
スピードとリーチの差を最大に活かし、奴がこちらの動きを捕捉する前にそのがら空きの胴体を横一文字に薙ぎ払う。
手応えがしっかりと奴の胴体を切り抜けたことを伝え、その勢いに任せたまま振り返り、返す刀を三体目の首に突き立てると、そいつに一瞬だけ刀を預け、肉薄する四体目に蹴りを喰らわせて弾き返すと、立ったまま死んだ三体目から引き抜いた刀を、スッ転んだ四体目を躱して突っ込んできた五体目の頭に振り下ろす。
確かな手応え。ゴブリンの解剖などやったことはないが、間違いなくその頭蓋を顎まで切断した。
刃に斥力場が形成されると同時にその効果によって相手の肉体から弾かれるように刀身が抜け、限界以上に引き上げられた身体能力は崩れ落ちていく相手を軽く飛び越えて、まだ戦っている相手の位置すらまともに把握していない後ろの集団へと飛び掛かるのを可能としている。
「シャァッ!」
飛び降りる勢いのまま斬りつけたのは、すぐ近くにいた――そして後方集団の中で唯一こちらの動きを捕捉していたと思われるゴブリンだった。
唐竹割りに斬りつけた一撃は斥力場も相まって奴の股間までばっさりと切り拓き、そのまま止まらずに跳ね上がった斬撃がすぐ左手の別のゴブリンに襲い掛かる。
「ギッ!」
それは、ゴブリンなりの意地というものだったのだろうか。
或いはただ単に本能的な防御反応だったのだろうか。
既に体の中に刃が入っている状況になってやっと追いついた奴の両手は、それでもなおブレードを掴んでいた。
「チィッ!」
イージスの発動によって絶えず流れこんでくる周囲の状況。それが、即座にこいつをどうにかしなければ危険だと伝えている。
だがそれは出来そうにない。奴は既に致命傷を負っているだろうに、しっかりと自らを切り裂いた刃を掴んで離そうとしない。
一瞬での状況把握と判断=やるべきことは一つしかない。
「……ッ!」
刀から手を離し、体を小さく屈めてすぐ後ろに振り返る。
「ギッ……!」
ゴブリンとしても予想外だったのだろう。相手が突然武器を捨ててタックルしてくるということは。
ましてや、その相手が自らの懐でダガーを抜き打ちにして自分の鳩尾を抉っていくなどと、思ってもいないようだ。
「ギュッ!?」
妙な声を上げるゴブリン。
俺は即座にその体を掴むと、足を払って浮かび上がったそいつを後続への盾として使った。
「ギュギャ!!」
駄目押しとばかりに後頭部を味方の棍棒で粉砕されるゴブリン。
そしてやってしまった方もこの展開は予想していなかったのだろう。べっとりついた返り血に狼狽えているうちにその懐に飛び込むと、腕を極めつつ投げ飛ばしてその棍棒を奪う。
絶えず更新される脳内の状況。奪った棍棒の質量や性能もすぐに加味され、次の行動が即座に決定される。
「ギギッ!!」
俺が今持っているのと同じ得物を振りかぶって突っ込んでくるゴブリンの、その渾身の一撃を棍棒で受け止め、同時に股間を蹴り上げる。
「ギッ!!?」
奴らのここが俺と同じ痛みを感じるかは分からないが、少なくとも全く効果が無い訳ではなさそうだ。
悶絶して膝をついたそいつから離れ、同じように振り下ろされたもう一振りの棍棒をまた頭上で受けると、そのまま受け流して手の中で棍棒を回転。その回転も上乗せした一撃で相手の手首を打ち砕く。
「ギギィッ!!!」
直後に突撃してきたもう一体に棍棒を投げつけると、それでたたらを踏んだそいつに、刃を掴んだまま動かなくなったゴブリンから強引に引き抜いた刀を反対に振りかぶって飛び掛かる。
「ギッ!!」
そいつを斬り捨てたところでもう一体が横から突撃――計算通りの動きを一歩退いて躱し、がら空きの後頭部に上から柄頭を叩きつける。
「ギギャッ!」
昏倒したのか動きを止めたそいつを尻目に、反対側から突撃してきた槍持ちの、その突き出された槍を刀身で上に反らし、返す一撃で肘から先を切り落とす。
「ギ――」
詰まった声を上げたそいつから一度後ろに振り返り、昏倒した相手にとどめを刺して即座に振り向くがこれはあくまで保険だ。
「ギ、ギ……」
失った腕から流れ出たものは既に致死量に達していたのだろう、最後の一体も即座に仲間たちの後を追った。
「よし……」
血振り一閃。こちらは方がついた。
もっといたはずだが、半分近くは最初の数体が斬られた時点で逃げ出していることは、イージスの効果が教えてくれていた。
「片付いたようだな」
その声に振り向く。
直後に思い知らされる圧倒的実力。
「……はい。そちらも」
こちらを向いて、軽いウォーミングアップぐらいに息を弾ませもしない國井さん。
その後ろには、俺の担当した倍近くのモンスターの骸が山と積み上げられていた。
(つづく)
今日はここまで
続きは明日に




