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ある出戻り配信者の顛末  作者: 九木圭人
インテリジェント・ワン
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インテリジェント・ワン13

 突然自分の指がなくなったそのエルフが、慌てたステップで後ろへ。

「ッ!?」

 そしてそのすぐ横、弓を構えていた弓兵がそれを放り出して一緒に飛び下がる。

 空になった手が即座に伸びる先=ベルトに吊られたナイフ。


「させるかっ!!」

 叫び、同時に斥力場生成ブレードに手をかける。

「ッ!」

 結果から見るほど、その弓兵の実力は低くなかったのかもしれない。

 懐に潜り込まれるや否や弓を捨てて、近接戦闘に対応しようとした判断は中々一朝一夕にできるものではない。

 だが、体の動きはそれと完全に一緒ではない。

「……ッ!!?」

 何か声を発そうとしたのだろう、口は僅かに開かれ、真っ赤な双眸は俺を睨みつけたまま、逆袈裟に切り上げられた体はゆっくりと崩れ落ちていく。


「シッ!」

 即座に足をもう一歩。

 それに合わせて体の向きを変えて刀を返す。

 目の前で相方が斬られた――その事実さえまだ認識できていないだろうもう一人を、即座に袈裟懸けに斬って捨てる。


 弓を引き絞ったもう一人が、倒れていくそいつの後ろから唐突に飛び出してきたのを認識したのは、まさにその瞬間だった。


 刀はまだ振り下ろしたまま。奴との距離は精々5m程度。

 そしてイージスの示す矢の軌道は、どう動いても俺を捉えている。

「くっ……!」

 回避は困難。迎撃も間に合わない。

 では?覚悟を決める以外に出来ることは、プレートキャリアのトラウマプレートに放たれた矢が当たる事を、そしてエルフの弓矢に対してもこのプレートが効果を発揮することを祈るだけ。


「!?」

 だが、放たれた矢は天井に向かって一直線に飛び、そして威力を失って落ちてきた。

「生存者か――」

 崩れていく弓兵。その後ろから現れた國井さんは、そう言って目の前にいるのが俺だと気付いたようだ。

「國井さん!?」

「間に合ってよかった」

 たった今エルフの弓兵を斬り捨てた刀を手の中で逆手に返す國井さん。

 合わせて俺もイージスを解除。彼に倣って逆手に持ち替え体の後ろへ。


「状況は見ての通りだ」

 自らが歩いてきたのだろう、洞窟に通じている広い通路に向き直りながらそう告げる。

 流石は元SATにして最強の配信者といったところか、この異常事態にあっても冷静さを失っている様子は全くない。

「一体何が……」

「分からない。財団の研究者とエルフの研究者たちがメガリスの実験を準備していたようだが、その最中に突然この騒ぎが起きてこの集落中モンスターだらけだ。おまけに大部分のエルフは正気を失って襲い掛かって来る。生存者を探しているが、うちの人間もだいぶやられた」

 どうやら騒ぎはここだけでは済まないらしい。

「では、すぐにここから脱出を――」

「そうしたいが……、正面の門は封鎖されちまってね。おまけに――」

 ちらりと見たのは彼がやって来た通路。

「クライアントとうちの生存者も探さなきゃならない」

 そう言って、俺の背後を、つまり彼の探していた者達がもうここにはいないことを確認する。


「こっちには、もう誰もいないか……」

「全ての部屋を見た訳でありませんが、恐らくは……」

 彼に倣って八島のスタッフたちの亡骸に目を向ける。

「なら、後はメガリスの方か」

 そう言って彼は歩き出し、俺も後に続く。

 合流した広い通路は、それまでと同様かそれ以上の荒らされ具合だった。

 壁は愚か天井にまで血がべっとりついて、辺りには敵――もうそう言ってしまって差し支えあるまい――と味方の死体が転がっている。

 そして昼間は閉ざされていた出口とは反対側のシャッターが開き、奥へと続く長い下り坂がぽっかりと口を開けている。


「この先にメガリスが――」

 言いかけて俺たちはそれぞれ前と後ろに反応した。

 洞窟と通じている入口側、その手前にある扉が開いて飛び出してきたのは、無数のゴブリン達。

 腰巻もなく、産まれたままの姿のそいつらはしかし、その状況でも目の前にいる人間に対する戦意は全く変わっていない。

 口々に妙な声を上げながら、徒党を組んでこちらに向かってくる。

 同じ物がぽっかり口を開けたシャッターの先からもやってくるのは國井さんが俺に背中を向けて大小の刀を構えたことで分かっている。


「……挟まれたな」

「そのようですね」

 俺も得物を大群に向ける。

「メガリスに向かい、生存者を救出する」

「自分もです」

 先程のオペレーターの話=メガリスの実験準備に向かっていた犬養博士を救出せよ。

 つまり、行き道だけ確保すればいいという訳ではない。博士を見つけた後は、まず間違いなく戦闘能力を期待できない丸腰の人物を連れてここを脱出しなければならない。

 ならばするべきことは?障害が少しでも少ない方がいいのは言うまでもない。


「なら……背後を任せたい」

「こちらこそ、進行方向をお願いします」

 言葉はそれで十分だ。

 背後の気配が消える――國井さんは敵の群れに突入した。

 それを合図に俺も動く。イージスを再起動。

「しゃあああっ!!」

 車も通れそうな程に広い通路を塞いでいるゴブリンの群れ――全て斬り伏せるより他になし。


(つづく)

今日はここまで

続きは明日に

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