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ある出戻り配信者の顛末  作者: 九木圭人
プロローグ
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プロローグ

 聞いた話。

人類最古の職業は娼婦だという。

 そしてその次に古いのが傭兵だそうだ。

 快楽と暴力――人間という生き物は太古の昔から、その二つが根幹にあるという事だ。


 そして恐らくそれ故に、暴力は人類の娯楽から切り離されることは決してない。

 その昔、剣闘士の決闘にローマ市民が熱狂したように、洋の東西を問わず罪人の処刑に見物人が黒山の人だかりをなしたように、格闘技の試合が興行として成立するように、リンチやいじめが決してなくならないように。

 自らの安全が確保された暴力は――セックスを別にすれば――人類の無二の娯楽だ。


 「機器チェック異常なし。感明度良好。映像データ正常に受信」

 エレベーターのような箱の中。背後で扉の閉まる音。

 そしてそれに唸るような低い音が続き、耳にはさらに落ち着いた女性の声が混じる。

 安全な暴力は最高の娯楽――それは、常の世界とは異なる世界との行き来が可能となっても変わることはない。

 異世界。そこにあるダンジョンと呼ばれる自然の、或いは何者かの手による建造物の冒険の様子をネット配信する『ダンジョン配信』は、今や一つの興行、エンタテイメントとして――眉をひそめる良識的な人間も少なくないものの――人気を博している。


 「バイタルチェック異常なし。転移先マナ濃度正常範囲内。ジェネレーター起動信号を受信」

 その配信者の一人として、二人三脚でやっていくこととなるオペレーター=配信のサポートを担当してくれるスタッフと共に、俺はおよそ三年ぶりに異世界に足を踏み入れる事となった。

 彼女が転移先での活動に必要なチェックリストを読み上げ、問題なく向こうで活動できるという事実を伝えられる。


 彼女の声と低く唸る機械音だけの箱の中、今度は俺の声も混じる。

 「マナジェネレーターセルフチェック完了。動作異常なし」

 全身の血管に微熱が走る。一瞬だけ、視界の隅に網がかかる。恐らく自分の目の毛細血管が見えているのだろうそれが、マナジェネレーター=ダンジョン内に満ちている新物質マナを体内に取り込み、肉体の強化やファンタジーのような能力を使えるようにする装置が正常に起動した証拠だった。


 「ゲート開放の5秒後に配信開始。……デビュー戦だよ。愛想よくね」

 「了解」

 「ゲート開放。開始5秒前。4……3……2……1……スタート」

 「はいどうも、皆様初めましての人は初めまして、そうでない人は昨日ぶりです。(株)植村企画所属、潜り屋一条です」

 前日にアップした自己紹介動画――と言っても顔を出すタイプの配信ではないのであくまで異世界で撮影した多少のデモンストレーションと自己紹介だけだが――を挟んでいるため挨拶は簡単に所属と本名=一条寺直重(いちじょうじなおしげ)から採ったハンドルネームだけ名乗っておく。


 初めまして――そうだ。今の俺としては初めましてだ。

 挨拶を終えて目の前の光景に改めて意識を向ける。

 どこまでも乳白色の雲が続く空と、その下に奥に向かって伸びている白い砂浜、そしてその砂浜に静かに波を打ち寄せている灰色の海。

 色弱には辛そうな光景が延々と続くそこが、俺の二度目の第一歩の舞台だ。


 腰間のものにそっと手を置く。三年前、引退した時にはこうなるとは思っていなかった。


(つづく)

ダンジョン配信というものをやってみたいと思っていたらこんな感じになりました。仕様です。


いつもの事ではありますが、やりたいようにやりたいことをやっていくをコンセプトにしております。どうか生暖かい目で見守って頂ければ幸いです。

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