8 甘い言葉につられ、猟に出てしまった!
『今日はずいぶん疲れたようだね。わざわざ穴を掘って、俺の遺体を埋めようと考えてくれたろう? ありがとうな』
「うん。でも、あの体ってどこへ消えちゃったの?」
『それもいずれ説明するよ。ところで、預けた魔道具〔火花杖〕の使い方を、ぜひキミに覚えてもらいたいんだ。くわしく教えるから』
「ああ……でもあれって、ずいぶんと重たいよね…………」
一番ボクの手に余りそうな品。でもおじさんは、やっぱり杖に強い愛着を抱いてるみたい。
『言いたいことはよくわかる。だが身の安全をはかるための得物として、かなり有益だよ』
「わかった。がんばってあつかってみる。ボクの名前はウォルフェ。おじさんは?」
『俺の名はノル・ホタカミ。もと狩人。〝ホタカ〟と呼んでくれ、ウォル』
ボクの名前を言いかけたおじさんは
『いや。……そう、キミのこと〔ウル〕って呼んでもいいかな?』
「いいけど」
(あれれ? じゃあこれから幾度も夢の中にあらわれて、使い方を教えるってこと……?)
ボクが疑問を抱くと同時に、ニカッと笑っておじさんはつけ加えた。
『これからは折に触れて、キミと接触を図るつもりだから。よろしくな』
夢を見ていた
今夜もだった。
……――――俺だって、時折り思い出したりする――――――。
『あなたの心にポッカリと開いた穴。埋めて差し上げることができるかも知れない』
若い娘だった。
まだ小娘と言ってもいいくらいの…………
『 いるんですよ。このTレックスに勝るとも劣らない、巨大なモンスターが! 』
自信有り気に語った女。
白いベレー帽をかぶり白いスーツとスラックス。
色白でいかにも育ちの良さそうな、新人セールスレディといった感じの若い娘。
『この巨体に文字通り翼を生やした、雄大な肉食獣ですよ』
かつて存在した史上最大の肉食恐竜。その全身骨格を見上げながら、小娘は手を大きく広げるゼスチャーをまじえつつ、得意げな知ったかぶりをかます。
虎に翼を与えたような最強生物。
正気なのかよ? 面白いなこの女。ひょっとしてドッキリじゃねーのか?
無論はじめは半信半疑だったが、サービスプランは具体性をおびて、それらしきパンフまで取り出してきた。
あらかじめ用意していたみたいだから、大掛かりなイタズラじゃないかって疑ったくらいだ。
それでも自社の企画を良いと信じて勧めるひた向きな熱意が、俺の渇望を少しずつ煽ってくる。
いかがわしいと思いながらも、俺はまんまと乗ちまった。
「実弾は一応七百発準備したんだがね。いやぁ、流石に重いな」
「まあすごい。……ところで特別オプションとして、この空間元素凝固袋を差し上げます。この中に収まる程度の品ならいくつでも同じ物ができますよ」
「ええ? それどういう意味なんだ?」
「たとえばですね、この鉄砲の弾。中に手を入れてイメージすると、大気中の元素を集めて同品質の弾ができるという便利ものです」
(信じられん。まるでSF映画だな)
俺はまったく本気にしていなかった。
「ほほう。そんな魔法みたいな品がね。……3Dプリンターの進化形か? なら、こんなにどっさり重たい物を持ってくることはなかったかな。はっははは」
「――ですね……」
女は俺が冗談と受け取ったのを感じているようだった。いまから考えてみれば、異世界への転移を信じて大金を払った俺が、なぜこの程度の魔法は疑うのか?
本人は理解しがたい思いだったろう。
強敵を求める飽くなき執念。はやる闘争心が、判断の誤りや矛盾への合理的な疑問を放棄させていたらしい。
「ところで何頭仕留めたらお戻りになる予定ですか?」
「う~んそうだね。とりあえず神精龍一頭、皇帝龍二頭、暴君竜三頭、ワイバーン級七頭ってところかな。今のところ考えているのは」
「剥製などはどうなさいます? 別料金になりますが」
「いや、さすがに懐がもたん。一番大きな獲物の頭蓋骨だけ運んで貰うよ」
「じゃあ予定頭数を全部捕獲し終えたら、自動的に帰還するよう設定しましょうか」
「そんなことできるのか。ならお願いしようかな」
この余計な一言が、その後の運命に致命的な影響を与えた。短期のスケジュールで猟果をあげて、あとは足跡だけ残してさっさと帰るつもりだったんだが。
つまらん約束をしちまったもんだ。
――マグナム狂いのミノルくん。威力よりもね、正確無比な狙いこそ重要だよ。
( 師匠……! )
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
少しでも面白いと思われたら、ブックマークや本文下↓の☆☆☆☆☆⇒★★★★★から評価していただけると嬉しいです。
作者のモチベが上がりますので、ぜひよろしくお願いいたします!