7 おっさんを拾う
――魔導師? ……死んでるのか。
おじさんはフードつきの黒いゆったりした導師服みたいなものを着て、うつ伏せ状態で横たわっていた。
落ちくぼんだ目、砂埃をまぶしたやせこけた顔は不精ヒゲで覆われている。
本当に死んでいるのかな?
おそるおそる近づいて生き死にを窺いつつ、間隔を取りながら脇を越して背を向ける。
いったんは通りすぎて数歩あるいてから立ち止まり、ふり返った。
(持ち物、このままダメにしたらもったいないよね)そう思って、懐を漁ることにした。
「……ごめんなさい。あとで、ちゃんと埋めてあげるからね」
ボクは跪いて祈る。かなり大変な作業になるだろうけど、しかたない。
まず縦長で重い革製の袋をどけて、バッグやポーチ類をはずしてゆく。それからこわごわ服の隙間に手を差し込んで、本命の財布を探り出しにかかる。
この時おじさんの顔がすぐ近くにあったんだけど、ふっと見たら閉じていたはずの目がうっすら開いている。男の黒眼がのぞく。
ギョッとした。
「アレッ?」最初から開けてたっけ? でも、瞳が微妙に揺らいでる気が……。
ふっと開いた目に光が差し、ちらとボクを見た。
――しまった! 生きてたっ!
急いで手を引き抜こうとしたけど、一瞬遅れで腕をつかまれてしまった。
「た……たすけてくれた……の、か…………」
突然意識を取り戻したおっさんは、かすれ声。
「は、離して、ボクは別にっ……」
「ありがとう…………ぼうや…………」
「ぼうやじゃない! 助けたワケでもな――――いっ!!」
「…………こ、これは魔導具・〔火花杖〕だ。……礼に……もらってくれないか」
「い要らないっ」
「これを持っていれば、か金になるから……」
「えっ?!」
「受けつぐ……そう約束してくれたら、持ち物も有り金もみんな…………やる……」
男は逝く寸前とは思えない力で、ボクの腕を引っ張る。こわい!
「わかった! もらう、もらうからっ…………放して!」
「……ありがとう……たしかに引き継いだ……か、らな、ぼうや…………」
男はニンマリと、どこか意味ありげな笑みを浮かべると目を細め、息絶えた。
それからボクは、改めて金目のものを探して行き倒れおじさんの体をさぐった。
小さなポケットのすみずみにいたるまで。
……本人の遺言だから、かまわないよね。そう言いわけしながら。
まず驚いたのは、銀貨のぎっしり詰った革袋。――重い! いったん布の上でひっくり返し中身を広げると、銀だけではなくて多数の金貨まで混ざっている。
(1枚、2枚、3枚……)10万ナーロ金貨が9枚。二回りほど小さな1万ナーロ金貨6枚、5千ナーロ銀貨87枚。――――合わせて139万5千ナーロ?!
(うわあっ……! 見たこともない大金!)
あわててお金をかき集め、袋の中へ戻した。それを持ってボクは立ち上がり、周囲に人影のないことを確かめる。
(あのおじさん、何者だろう? ……まさか、野盗か人さらいとかの犯罪者じゃ?!)
その時フト目を留めたら、おじさんの体がなくなっていた。
アレッ!?
遺体がころがっていたはずの場所には、ひとまとめの荷物だけが置かれている。
とっさにまた生き返ったのかと考えてキョロキョロ見廻すが、あたりは遠くまで身を隠せる物などない。他人に荷物を譲って、自分が無一文で去る理由も、まるで思い浮かばない。
しばらく呆然としていたけれど、急に怖くなった。残された荷物を両手で抱え、その場から懸命に走って逃げた。
おじさんが熱心に押しつけていた魔導具〝ヒバナツエ〟は、長く重くてこのまま捨てて行きたくなるけど、これを受けつぐのが条件だったし。
約束は守らなきゃいけない。
それから……正直ボクには魔導具ならきっと高価なものだろうって打算もあった。おじさん本人も、
『金になる』――そう言ってたし。
ここ数日ねぐらにしている納屋の廃屋までたどりつく。
「はあっ……」
引き取った荷物をかたわらに置く。見れば、銅貨以下の小銭を詰めたポシェットも見える。
……う~ん…… 残りの荷物ひとつひとつの確認は明日でいいや。
ボクはぐったり疲れてしまって、わらぼっちの上に身を横たえると、すぐ寝落ちした。
その夜。
後ろめたい気持ちがそうさせたんだろうか? あのおじさんが夢の中に現れた。
昼間見た時の印象とちがって、おじさんの顔は小ぎれいだし全然やせこけていない。そのせいかずっと若く見えた。
『よお、ぼうや。こんばんは』
「ひょっとして、おじさん?! やっぱり生きてたんだ!」
『ああ。くわしい事情は追々話すが、キミのおかげで命を繋げたんだ』
「……つなぐ?」
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