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6 旅立ちのバラッド

  恐怖よりも自立心が自らを奮い立たせ、ボクを突き動かしていた。


 ――生きる! 生きるぞ! 生きるんだ!


 なるべくたくさん食べられるものを探して、少しでも多く口に運びつづけなければ。


 それがあるうちはまだまだ活ける。


 少しずつ手ごたえを感じ自信を深めていたボクはある時、親友の収容児セルマに決意を打ち明けて計画へも誘ってみた。


「ボクは行くことに決めたよセルマ。きみはどうする? 一緒にくる?」


 ボクの目をじっと見つめていたセルマが、突然ボクの顔両際に腕を伸ばし髪の中へ手を入れて耳の上を指で触った。

 思わず後ろへ退き、手で自分の両耳を覆う。


「やっぱり。あなたは小人族ハーフリングだったのね」



 ――そう。……ボクはハーフリングだ。


 最近までボク自身がそれに気付かなかった。



「髪を伸ばし始めていたでしょ。耳を隠そうとしてるみたいだったから、もしかしてと思っていたの。小さな頃は人間ヒューマンと同じように上部分は丸いけど、大きくなるにつれ僅かずつ尖ってくるって聞いてたし」


「……心細いからって道ずれにするつもりはないよ。自分の正直な気持ちで決めてほしい」


「ウォル。生き抜くっていっても、ここで死ぬよりはるかにつらい事かもしれないのよ」


「それでもボクはイヤだ! こんなところで大人の気分しだいに殴られて、いつ殺されるかもしれない恐怖に脅え続けるなんてっ」


「わかったウォル。亜人デミのあなたが人間の子でないことがバレたら、今まで以上にひどい目に合わされかねない。あなたはここから逃げるべきだわ」


「セルマは? きみだって幾度も気を失うほど殴られてる。ボクと一緒に逃げよう」


「ウォル、わたしはここ以外の場所で生きてゆく自信がないの。足手まといになりたくないから残る」


「どうしても?! 考えは変わらない?」


「年長が二人ともいなくなったら、小さい子たちが代わりにいじめられるかもしれないし。…………庇ってくれてた人が突然脱走して見捨てられたって感じたら、かわいそうじゃない」


 (優しいセルマ。自分を楯にして年少の子らを守る気? ボクがいなくなったらその分もっと酷くなるんじゃ。――殴られて死ぬ恐怖より、外で野たれ死ぬことの方が恐ろしいの?)


 それからも暴力は放っておくと、どんどんエスカレートした。あれこれ迷って決断をおくらせれば、次の瞬間どうなるかもわからない。


 こうしてある日の深夜。


 ついに孤児院での虐待に堪えかねたボクも、脱走した。


 (さよならセルマ。…………あいさつもなしで行くけどゴメンね)


 セルマは気付いていたと思う。背中を向けて寝ている様子だったけど、普段から気配に敏感な性質たちだったから。 

意外だったのは、自分より年少の収容者がどうなるのか、強く後ろ髪を引かれ悲しい気分になったこと。


 セルマの影響だろうか?


 でもボク自身だってどうなるか分からないし、無理に連れだしても揃って行き倒れる可能性が高いから、とても命を掛けた決断に付き合わせるわけにはいかなかった。


 盲人が盲人の手を引けば、共に穴へ落ち込む。


 途中で見捨てる無責任な放浪者にだけはなりたくない。

 だからこの日の夜、ボクは一人で旅立った。


 どうせ死ぬなら、自由を選んで青空の下でのたれ死にした方が、誇りを保ててよい。

 自分が望めばどこまでだって歩いて行けるんだ。


 満天の星空だけが見つめる中を進む。風に乗り遠くから吟遊詩人の歌声が流れる。



 ついに聖女は立ち上がった。


 愛し慈しんでくれた両親、兄さまたち


 すべてを育くむ美しきこの世界を


 人の生きられぬ魔物の世界にはさせじと心得


 いま勇断し決戦の地へ赴く


 魔王ベルク・サタナの待ち受けるロッシィナの地へ


 勇者セシルがやらねば誰がやる――――――




 食べ物に乏しいのは慣れているし、暴力に脅えずにすむだけでも気が楽だった。


  人目のない道を歩くことはなるべく避けて、盗賊に遭遇しないよう細心の注意を払う。

 誰も助けてくれる者がない旅は、よほどの山奥にでも分け入らない限り遭遇しない魔物や野生動物より

「人間の方がよっぽど恐ろしい」そう聞いていたし、ボク自身も目の当たりにしてそれを実感してた。


 野盗たちは悪魔そのもので、ウワサ通りケダモノだった。


 日の出を拝めるのは、当たり前のことじゃない。


 こうして一日生き延びて夕日が沈むさまを見るたび、今日も無事。ボクはこのままやっていける、そう自信を強めていった。


 しがらみの一切を絶った日々は本当に自由な毎日で、こんなことならもっと早く決断すればよかった。

 そんな放浪先の道すがら、とうとうボクは見つけたんだ。



 行き倒れたおじさんを。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


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