50 コロンポル到着と新たな旅の幕開け
この異世界においても、世界宗教とも呼ぶべき大きな宗派が存在する。
コロンポルは創造主教会のある門前町の一つで、宗教施設が大規模なことで知られていた。
孤立状態の小村と違い都会であり、巡礼者や商人の流入が多い。そのため旅行者相手の宿泊施設も多々あって、排外的な雰囲気はない。
パレアンヌ村を出発してから4泊5日目。
若い女神官をホロホロ鳥の背中に乗せた俺(たち)は、昼前には目的地に到着した。
ここまで来ればビクセン郡は目と鼻の先――――とは言え、中心から離れた周辺部はまだのどかな雰囲気で、それほどの慌ただしさは感じさせない。
(「ここって、どんな町なの?」)
(『長い歴史を持つ宗教都市かな。元は数人の修道士が住み着いてできた村落だったらしい。やがて建てられた小さな教会を中心に人が集まりだしてできた街が、だんだん大きくなって都市化して、今では城砦まで兼ね備えた壮麗な神殿まで建てられているんだよ』)
世界宗教なのに、創造主教会にはローマ教皇みたいなトップが存在せず、世界各地の教会を結ぶ強固なネットワークが構築されている。そこで各々存在する預言者たちへ下った神託共通の総意が、神霊の意思であるとされた。
この世界には三つの大きな権威が並立している。
まず聖職者の権威に代表された宗教的道徳の象徴である〔創造主教会〕。
次に為政者を頂点に体制を用い、経政済民を図る〔帝政・王制国家〕。
最後は国際的な冒険者の組織である〔トラスト〕だ。
大国化した覇権国・王制諸国家は、政治的権威による自由なき統一。
教会は世俗の緩やかな信仰心を基にした、預言者達の神託による統一なき自由。
そしてトラストは、この矛盾する自由と統一を地上で実現した、唯一の組織とされる。
見習い神官シエスティア嬢を護衛し、教会まで送り届けるのが今回のクエストだが、まずはギルド本部を訪ねて無事到着した旨を報告するのが筋だ。ここでもギルドマスターが直接会って話したいとの要望を受けたので、面会することにした。
迎えたギルマスは、紅潮した顔の持ち主でカイゼル髭をたくわえた四十前半くらいの、皮製袖なしベストを着た一見工務店のオヤジみたいな風貌の男だった。
「おまえさんがオルフェ本人なのかね? ホントに? いったい幾つなんだい? ぼうや」
『俺……いや僕は、ハーフリングでぴちぴちの9歳女児だ。文句あっか!』
(「ねぇ師匠。その〝ピチピチ〟って一々つけるの止めない? ハズかしい…………」)
――あ。いや、そうだよな、うん。……
ギルマスは、こちらの内部事情などつゆ知らず続けた。
「いや、話には聞いていたけどね。本当にランクがミスリル級なんだな。ニコラシカって村で、やたらでかいトロルを攻撃魔法で倒したって聞いたよ」
『ほう。……もうここまでウワサが届いているのか』
「ドラゴンスレイヤーとも称してるんだろ。〝竜殺し〟って言えばノル・ホタカミって男が有名だが。あんたはどうやって巨大なモンスターを殺るんだ? 攻撃的な魔法って、何?」
この世界で言う魔法とは、支援(矢の勢いを増したり、より遠くの的へ正確に誘導する)や、ごく小さな神威魔法を使った癒し・再生などの医療魔法のみ。ファイヤ・ボールや爆裂術式だのといった、破壊兵器に順じた効果を発揮する魔法は、存在しない。
『俺の得物については企業秘密だ。それよりこの教会都市の門前町で、俺は屋篭りの手から赤ん坊を助けたんだ。別に無報酬でいいと思ってやったことだが、地区の自治会長からこの書類を渡されてな。これを提出すれば、事後報告で報奨金が支払われると聞いている』
俺が懐から出したそれを示すと、ギルマスは「ほうほう」言いつつ手に取り目を走らせた。
「うむ。問題ないよ。ところでこれもだが、あんたはエタルの森でも、野盗ら十二人を仕留めたんだって? そっちの褒賞の方がはるかに大きな額になるから、楽しみなんじゃない?」
(「ええっ!? どうして?」)ウルも驚いたようで、内心の声が響く。
『そりゃ違うぞ。俺は調査依頼を受けて森に入ったら偶然、やつらの遺体を発見して役場へ通報しただけだ。死因はわからんがな』
「んん?!」ギルマスは怪訝な表情を浮かべる。
ここでもより巨額の報奨金を伴なう手柄の存在を、自ら否定する言動は信じられない様だ。
俺は両手を開き、自らの体躯を示して主張した。
『……そもそもこんないたいけな女児が、大人の野盗を10人以上も片付けられるワケ無ぇだろ!』
「いたいけって。……あんたねぇ〝竜殺し〟が今さらそれを言うのかね?!」
『ともかくだ。そいつは町役場からの通報か? どうしてそんな話になっちまってるんだ』
「役場からじゃないよ。昨日ここへ寄った女冒険者が吹聴してたのさ」
『なに?! そいつの名は分かるか』
「シエルレオナから来た冒険者でパメラとかいったか」
『 アイツか!! 』(「ああ~~~、やっぱりね。そゆこと……」)
到着の挨拶と報奨金を受け取った俺(たち)は、ギルドを後にして救世主教会へ向かう。
言わずもがな、神官のシエスティアを届けるためだったが、ここでも妙な事態が待っていた。
お御堂で待っていると、年上の神官に伴われてシェスが現れた。表情には明らかな落胆の色が浮かんでいる。
『どうしたシェス? 浮かない顔をして』
「この司教区への復帰はだめと言われました。パレアンヌ村での奉仕が不可能であるなら、他の地域で自ら教区を開拓して、創造主の御心を弘流するように。と申し渡されました」
『それ、体のいい追放処分ってことじゃないのか!?』
「まあ。出戻りは許さないと」
『なんてこったい!』
「…………お恥ずかしいハナシですが…………」
左遷の次は追放でござい、か。
彼女もひょっとして他人とのコミュニケーションを取りづらい人かも知れない。会社組織においては、マイペースな者に【ノロマで役立たず】などの評価が簡単に定まったりもする。
だから俺は、個人事業主である冒険者が性に合っていたと思う。
(「ねえホタカ。シェスがかわいそう。ここに放ってはおけないよ」)
(『わかってるよウル。旅は道連れ、乗りかかった船だ。彼女の身の置き所が定まるまでは付き合おうじゃないか。だが一応、本人の意思も確認してみなければ』)
彼女と向き合った俺は、できるだけさり気ない口調で尋ねた。
『…………仕方ないな。取り合えずビクセン郡までご一緒するかね? 』
シェスの表情はみるみる輝いてきた。どうやら渡りに船の提案だったと見える。
「はい! ヨロシクお願いしますね、ウォルフェさん!」
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