49 ある吟遊詩人のひとりごと
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――コロンポル・場末の料理屋〔スカイ&シィ〕――
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私は吟遊詩人のバシュック・キュール。
いにしえの英雄譚から世間の関心を惹く近々の出来事までも即興の調べにのせて吟じ、私達は人々へ披露している。
説明するまでもないが……。
ただ内輪話を暴露させてもらうと、曲はともかく詞文に関しては詞作師に頼むこともあれば同業者をリスペクトし、アレンジを加え唄わせてもらうこともある。
もちろん自分で創作するのが基本だが、我々の仕事は多くの庶民同胞へ情報を素早く流布する。という公共的な側面があって、その点では暗黙の了解という連帯意識を共有している。
しかも大きな充実感もともない、価値ある仕事だ。
かくいう私は今夜も町のレストラントへ寄りカウンター席に座って、後ろの客たちの会話に耳を傾ける。此処でこうしているのには無論、理由がある。
「 ニコラシカでトロルが討伐されただと!? 」
――情報だ。大声を聴いた私は、とっさに耳を澄ます。風聞を拾っていち早く詩作へ入るには、こういう場所で待つのが一番だ。
「樹林を外れ村に真っ直ぐ接近してきたのを、民家目前の平原地帯で仕留めたんだってよ」
「……で、手段は? やはり落とし穴か。それでも、冒険者は十数人くらいは必要だよな」
――少数、ましてや単独でモンスターを仕留められる高ランクの冒険者は、例外なく知識と経験、独自の戦術や特殊武器・秘匿する能力などを持っている。
いま発言した男は、シルバーランクだ。
クエストを達成するためには多くの仲間との連携は欠かせないと知っているんだろう。だが相手の返答は私からしても意外なものだった。
「それがたったの一人で、しかもノル・ホタカミって名乗る小人族の魔導師が、杖を用いて一撃で。と言うことらしい」
「アホぬかせっ! 魔法でどうにかなる相手なら苦労あるか! まして、チビで非力なハーフリングが、どうやってあんな馬鹿デカイ化物を仕留めたってんだっ」
――これには私も首を傾げた。
銀製のゴルゲットをさげた冒険者は、鋼鉄級の男を荒々しく面罵して跳ねつけたが、彼の方も怯まない。食って掛かる勢いで反論する。
「間違いねぇ! こちとらギルド本部へ出かけて行った時、受付嬢から直接聞いたんだからな。あの子の情報はいつも正確だって知ってるだろがっ」
「ンな馬鹿なっ」 ――納得しない同じアイアン級が、自身の体験を踏まえて反論する。
「オレは昔、背丈がトロルの半分程度のオーガ討伐に参加したが。地割れ坑へ落として十人がかりで頭に矢を乱射してやったが、毒矢を針山みたいにしても死なずに、近隣の村人に応援を募って百人くらいが2日がかりで石を運んで生埋めにし、やっとカタがついたんだぞ」
――今の発言中で私には突っ込み所がある。毒と言ってもピンキリで、腐敗毒みたいなものなら即効性がなく、体の大きなオーガは容易に倒せないだろう――などの点を指摘したかった。
……だが待て。《ノル・ホタカミ》という名も聞いて久しいぞ。
吟遊詩人界隈ではよく取り上げられる、ドラゴンスレイヤー〝竜殺し〟の物語。だが実際にそれを名乗る者がいて、一部の同業者がテーマとして扱ってもいる。
しかし、その者は屈強なヒューマンの男性で、いつ小人族の魔導師にすり替わってしまったのか?
……この夜、冒険者たちの議論は情報量の不足から、尻切れトンボのまま打ち切られた。
【〝小人族〟は誤報だろ? トロル討伐だって、売名目的のハッタリに違いねぇ…………】
実はニコラシカという田舎村で《トロルの単独討伐が行われた》という話は、私も噂としては耳にしていた。だからこそ今回のネタに強い興味を惹かれた私は、自分でも更に詳しく調べてみるべきと思った。
遠方の情報にもっとも通じているのは貿易商人である。
私は彼らのもとへ通い、取材を行った。
その結果――
『ニコラシカのトロル討伐の件は誤報でも何でもなく、小人族のミスリル級魔導師一人で仕留めたものらしい』
――信頼できる情報筋からの話で、どうやらこの部分は事実らしいと判明した。他にも
*「ニコラシカ村には帰農した元冒険者が幾人かいて、今では農作業のかたわら地元の顔役みたいな事をしている奴もいる」
*「ギルドマスターにはそういう知己がいて、こちらからも連絡を取っているらしいよ」
*「言わばトラストのネットワークが、片田舎でも有効に働いたワケさね。だから比較的、確度の高い話が素早く入る仕組みになっていたみたいだ」――
追加情報を得た私は、この正体不明の魔導師を吟じてみることにした。
そもそも小人の冒険者自体が珍しく、しかもそれが〝竜殺し〟という二重の意外性。これはかなりの売りになるだろう。
…………でも、どういった手段でトロルを仕留めたことにしようか?
もし噂が真実だったなら、一度本人と会い取材して、すべての事実を掌握してから吟じたい。
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