42 やはり撃たなくて良かった
(『 ウル、どうしたっ?! 』)
(「ごめんっ……でもパメラがっ。……もしアイツのことが弟に見えていたら、撃つとどう見えるのか心配になっちゃって」)
その観点はなかった。
下手をすると弟が撃たれる衝撃の場面を、見せる羽目になりかねなかったのだ。
俺はこのハーフリング少女の想像力と深い配慮に感じ入り、逃した獲物への執着は消えた。
(『いや。…………考えてみればアイツには撃ち殺すほどの罪科や害はないよ。普段の獲物は半獣やモンスターの類に限定され、野盗の皆殺しの件に至っては、ゴミ掃除ができて礼が言いたいくらいじゃないかね?』)
(「……そこまでは言い過ぎかもないけど」)
――本来ならヒトが暮らしていける場所じゃない。モンスターや魔物の領域。ここなら追っ手もおいそれと踏み込んでは来られない筈。……だからこその潜伏先だったんだろうが、当然リスクも承知のはずだ。そして野盗どもは、賭けに敗れ全滅したといえる。
急にキングの姿が消えたのだろう。コボルトたちにしても、呆けたように上空を見上げたまま軒並み途方に暮れているご様子だ。
俺はサコーを構えたまま連中のいる場所まで下りて行く。
無論パメラを回収するためだ。
俺が姿をみせると、気付いたコボルトたちはゾロゾロと輪を崩しながら周辺の藪ぎわへ散り始めた。女は依然として、ぺたん座りのまま上空を仰いで唖然としている。
『パメラ。大丈夫か、お前』
「 …………ニャ? …… 」
『何が見えた? 本当に弟が現れたか?」
「……うん。…………」
『そうか。会えて良かったな。……元気そうだったろう? 空へ消えていったか』
「うん。……急にお空へ飛んで帰ってしまったニャ…………………………」
パメラは相変わらず、ボンヤリとした表情でひとりごちた。
(『やはり影喰いが弟に見えていたんだな。キミの心配通りだったな、ウル』)
――もし魔物に弾頭をぶち込んでいたら、パメラの目にはどう映ったことか。
(やはり止めてもらえて良かった)俺は改めてウルに感謝の念を抱く。
ふと視線を遣る。
コボルト連中は俺たちに関心を失ったのか、徐々に引いて森林の奥へと消えてゆく。
全滅した野盗どもが奪った物は、いまだ何一つ見つかってはいない。
あれだけの大所帯だ。必ずどこかに大規模なアジトがあるはずで、盗品が残っているとすればそこだろう。ここまで来たら、只では引き返せない。
――やはり、あいつらに案内してもらおうか。
影喰いを仕留め損なったこともあって、上級冒険者の誇りから俺は乗りかけた船という気分になり、どうしても一定の成果を持ち帰りたくなった。
『パメラ。お前はここで休んでいろ。俺が戻るまで決して動くんじゃないぞ』
言い置いた俺はコボルトたちへ向き直る。連中は三々五々森の中へ引き上げつつあった。
もはや俺は姿を隠すことなく、目を付けた一列の後を一定の距離を置いてついてゆく。
連中は背後を向けたままこちらをふり返りもせず、双肩に触れる枝葉を揺らしながら整然と分け入って進む。
不思議な気分だ。
だが連中は防衛本能という部分でもともとゆるい面があった。
あるいは影喰いが去り、夢から醒めたばかりで頭がボンヤリ状態なのかもしれないが…………。
(「ねえ師匠。これって、このまま付いて行ってもコボルトの巣だか村へ辿りつくだけなんじゃない?」)
(『可能性はある。その場合、自分たちの棲家だけは突き止められるのを嫌って、延々と引き廻される惧れもあるから、やはり見切りをつけるタイミングを設ける必要はあるな』)
コボルトたちにしたって、集落まで特定されたらさすがに枕を高くして眠れないんじゃないか? こっちが迷いそうになるほど奥地へ進みそうなら切り上げて帰るか。
そう考えていた時期が俺にもありました。――――――
空が白み始めた頃には結論がでた。
(「師匠、あれ!」)
(『ヒュウ。わりと早く到着したな』)
火山性のものらしい風穴が口を開いている。周囲は苔むした古い溶岩で形成されていた。
風穴の前にはコボルトたち二十数匹がたむろして、こちらを窺っている。
外見が小人族のウルであるため、俺は火花杖を胸の前で横に携え、意識的に堂々とした態度で歩み寄った。
――おかしいな。今度はすぐに逃げようとしない。ざわ、ざわ、とたむろしてやがる。
(「師匠。コボルトたちが怖がってないみたいだけど、どういうことかな?」)
(『わからんが。……ただあの連中、キミのおかげで命拾いできたなんて、微塵も思ってないんだろうな。いま少し遅かったら生命力をすべて吸いつくされ、全員あの窪地で芋のように転がっていたことだろう』)
現に野盗たちは賭けに破れ全滅している。
(「影喰いを追い払ったのは師匠でしょう?」)
(『キミの体を借りて成せたことだ。へりくだらなくていいよ』)
俺は火花杖を炸裂させ威嚇し、排除を促す。
大きな破裂音と火花の閃光にようやく連中は泡を食って、蜘蛛の子を散らすように遁走した。
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